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民明書房刊 役に立たないネコのコトワザ図鑑   作者: ロータスシード


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 羅馬踏撃英雄術(らまとうげきえいゆうじゅつ) スーパーマリ〇

羅馬踏撃英雄術らまとうげきえいゆうじゅつ

挿絵(By みてみん)

――別名「超越管打法ちょうえつかんだほう」、羅馬民間呼称「スペリオル・マリウス式地上制圧法」

 前項において詳述した通り、マリウス・マンポーネとルドウィクス・マンポーネの兄弟は、ローマの地下水路における害生物制圧において不滅の功績を打ち立てた。

 しかし読者諸氏よ、ここで一つの疑問が浮かぶはずである。

「地下は制圧された。では、地上は誰が守ったのか」

 その問いへの答えが、本項の主題に他ならない。


 第一章 大亀禍だいきかか——共和政ローマを襲った未曾有の農業危機

 紀元前三世紀、ポエニ戦争の最中。

 カルタゴとの長期戦争によって疲弊したローマの農村地帯に、戦乱とは別の災厄が静かに、しかし確実に忍び寄っていた。

挿絵(By みてみん)

 **巨大亀(Testudo Gigantus Maleficus)**の大量発生である。

 通常の亀の三倍から五倍に達するこの生物は、甲羅の硬度が異常に高く、通常の農具では傷ひとつつけることができなかった。彼らは農地を縦横に闊歩し、作物を踏み荒らし、灌漑水路を破壊し、農民たちの生計を根底から崩壊させた。

 さらに深刻であったのは、巨大亀が通過した農地に**異常な菌類(Fungus Alterans)**が大量発生するという現象であった。

 この菌類は二種に大別された。

 一つは摂取すると身体が急激に巨大化する赤斑菌せきはんきん。もう一つは摂取すると炎を操る能力が一時的に発現する火胞菌かほうきん。農民たちはこれらを「悪魔のキノコ」と呼んで恐れたが、一部の者はこれを逆用することを思い至った——しかしそれは後述する。

 亀害と菌害の二重苦によって、カンパニア平野の農業生産量は最盛期比で三分の一以下にまで落ち込んだ。元老院は対策委員会を設置したが、有効な手立ては何一つ見つからなかった。

 なぜなら、誰も亀を倒す方法を知らなかったからである。


 第二章 マリウス、地上へ——兄弟の新たなる戦い

 地下での功績によりローマ市民権を授与されたマリウス・マンポーネは、農村の惨状を視察した際、ある事実に気づいた。

 巨大亀の甲羅は、正面・側面・後方からの打撃を完全に無効化する。しかし——

「上から踏めば、どうなるか」

 地下水路での経験が、この発想を生んだ。管の下から突き上げる「管下拳打法」の逆転応用。甲羅の上部は、構造的に下方への圧力に最も脆弱であることを、マリウスは直感的に理解したのである。

 しかし単純に飛び乗るだけでは、亀の体重と甲羅の硬度に対抗できない。必要なのは、全体重を一点に集約した垂直落下踏撃——すなわち「超越踏撃ちょうえつとうげき」である。

 マリウスはこれを完成させるために、ローマ近郊の丘陵地帯にて猛烈な修練を開始した。崖から飛び降り、眼下の岩を踏み砕く訓練を三百六十五日繰り返した末、ついに一跳びで大岩を粉砕する踏撃力を獲得するに至った。

 この修練の過程で彼は、赤斑菌を少量摂取することで跳躍力が飛躍的に増大することを発見した。危険を承知の上でこれを活用したマリウスの胆力は、後世「必要とあらば毒をも喰らう」という羅馬の格言として定着している。


 三大局面と奥義の展開

 第一局面「平地制圧(Terra Firma)」

 平野部における亀の制圧は、超越踏撃の基本形で足りた。しかしマリウスが発見したのは、踏撃によって甲羅が内側に折れた亀が、高速回転する凶器へと変貌するという事実である。

 これを逆用した技が「亀甲弾きっこうだん」——踏撃で甲羅を凶器化し、それを蹴り飛ばして複数の敵を連鎖的に制圧する奥義である。一匹の亀を利用して十数匹を同時に倒すこの技は、「連鎖踏撃の極意」として後世に伝わった。

 第二局面「高所制圧(Altitudo Extrema)」

 農業被害が拡大するにつれ、亀たちは地形的優位を活かすべく、丘陵・崖上・積み上げられた岩場へと拠点を移し始めた。

 この状況に対応すべく、マリウスが完成させたのが「跳梯連続踏ちょうていれんぞくとう」——あらゆる突起物を踏み台として高所へと駆け上がり、次々と踏撃を叩き込む連続技である。

 この際、足場となったのが各地に点在する疑問符型の奉納石柱ほうのうせきちゅうであった。ローマの農民たちは豊穣を祈って各地に石柱を設置する習慣を持っていたが、これらの上部に空洞があり、内部に赤斑菌や火胞菌が封じ込められていることをマリウスは発見した。石柱を拳で叩くと内部の菌類が取り出せるこの仕掛けは、農民たちが咄嗟の武装強化のために考案した古来の知恵であったと考えられている。

 第三局面「大亀王制圧(Rex Testudo Subjugatio)」

 すべての局面の頂点に位置するのが、亀群の首魁・**大亀王(Rex Testudo)**との対決である。

 大亀王は通常の踏撃を受け付けず、さらに火炎を口から放出するという異能を持っていた。赤斑菌・火胞菌の複合摂取によって変異した個体と考えられている。

 マリウスは火胞菌を摂取して炎を操る能力を一時的に自らにも宿し、大亀王と炎と踏撃の壮絶な死闘を演じた末、ついに打ち倒した。この戦いの様子を記した碑文が、現在もカンパニア平野の農村教会地下に現存しているとされているが、バチカンによって**「神学的解釈の余地あり」として非公開**に指定されていることを付記しておく。


 第三章 日本への伝播——三経路の奇跡

 羅馬踏撃英雄術が日本へと伝わった経路は、前項の管打兄弟術と同じく遣唐使の手を経たものであるが、その後の展開は三つの異なる系譜を辿った。

 系譜その一「踏撃の系譜」

 マリウスの踏撃技術は、平安末期に相撲の原型の一つとして吸収された。「足で踏む」ことへの神聖視は、相撲の土俵における「四股しこ」の概念へと発展し、大地の悪霊を踏み鎮めるという日本独自の信仰と融合したのである。四股の語源が「死個しこ」すなわち「亀の死骸を踏む所作」に由来するという説は、民間語源研究の世界では広く知られているが、学術界が正面から取り上げることを避け続けている真実の一つである。

 系譜その二「キノコの系譜」

 赤斑菌・火胞菌の薬効に関する記録は、奈良時代の**薬師寺の医師・管成丸くだなりまる**によって漢方医学の文脈で研究された。彼の著書『菌効秘鑑きんこうひかん』は現在も薬師寺の蔵に封印されているが、その存在は複数の古文書によって確認されている。なぜ封印されているのかについては、読者各自の想像に委ねることとする。

 系譜その三「英雄譚の系譜」

 最も重要な伝播は、物語としての伝播である。「一人の英雄が、踏撃のみを武器に大地を蹂躙する巨大な悪に立ち向かい、囚われた者を救い出す」——この物語構造は、御伽草子の複数の説話に明確な形で確認でき、江戸期の大衆文化にも深く浸透した。

 また、マリウスが修練の際に愛用した赤い帽子と青い衣服の組み合わせは、江戸期の江戸火消しの半纏はんてんの配色に影響を与えたとする説がある。


 第四章 ゲームへの昇華——英雄の完全復活

 一九八五年。

 任〇堂の開発室において、前作「MARIO BROS.」を手がけたゲームデザイナーが、次回作の企画書を前に深く沈思していた。

 傍らには『地下双聖秘録』の続巻として発見された写本——『地上超越踏撃英雄録ちじょうちょうえつとうげきえいゆうろく』の日本語抄訳が置かれていた。

 デザイナーはやがてペンを取り、企画書の冒頭にこう記した。

「今度は、地上だ」

 かくして同年リリースされた「SUPER MARI〇 BROS.」は、紀元前三世紀のカンパニア平野でマリウス・マンポーネが命を賭して確立した踏撃英雄術の完全なる復活に他ならない。

 赤い帽子は言うまでもなく修練時代のマリウスへの敬意である。

 キノコを取ると大きくなる——これは赤斑菌の薬効の忠実な再現である。

 花を取ると炎が出る——これは火胞菌の薬効の忠実な再現である。

 亀を踏むと甲羅が凶器と化す——これは亀甲弾の奥義の完璧な再現である。

 そして旗竿のある城へと向かう横スクロールの構造は、カンパニア平野を西から東へと踏破したマリウスの進軍ルートを、そのまま二次元平面に落とし込んだものであることを、最後に明記しておく。

 なお、救出されるべき囚われた姫君が別の城に移送され続けるという理不尽な構造もまた、大亀王が配下に命じて捕虜を転送し続けた史実に基づいており、決して開発者の意地悪などではないことを、マリウスの名誉のためにここに断言する。



【参考文献】 伊管龍著『羅馬地上武術と東洋踏撃術の系譜』民明書房刊 / マリウス・マンポーネ著(推定)『地上超越踏撃英雄録』(共和政ローマ期碑文・写本複合、バチカン図書館非公開資料) / 管成丸著『菌効秘鑑』(奈良時代写本、薬師寺蔵・封印中) / 御伽草子研究会編『踏撃英雄譚の日本的変容』民明書房刊 / 任〇堂社内記録一九八五年度企画書(部分開示) / カンパニア平野農村教会地下碑文拓本(調査者不明、民明書房資料室所蔵)



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