猫脚
驚異の歩法「猫脚」――その血塗られた起源
現代において「猫脚」と言えば、アンティーク家具の優美な曲線を思い浮かべる者が大半であろう。しかし、その典雅な様式の裏側に、かつて中国武術界を震撼させた暗黒の歴史が隠されていることは、一般にはほとんど知られていない。
虎を越えんとした男の悲劇
中国は清代初期、福建省の山奥に「虎爪拳」の達人として名を馳せた**李 隠虎**という男がいた。彼は虎の圧倒的な破壊力に加え、巨体でありながら音もなく獲物に忍び寄る「隠密性」に着目。真の武の極致は、虎の歩法を完全に模倣することにあると確信した。
李は三年三ヶ月に及ぶ山籠りの末、足裏の筋肉を特殊な振動で硬直させ、接地面を極限まで減らすことで気配を断つ歩法**「虎歩」**を編み出した。しかし、修行の最終日。己の完成度を試すべく、本物の大虎に背後から忍び寄った李であったが、あと一歩というところで虎の尾が鼻先をかすめ、クシャミを漏らしてしまう。静寂を破られた虎の逆鱗に触れた李は、その場で無残にも食い殺され、命を落としたのである。
虎から猫へ――「猫脚」の誕生
師の遺志を継いだ愛弟子の**張 妙影**は、この悲劇から痛切な教訓を得た。「虎はあまりに巨大で、人の身で真似るには業が深すぎる」と。張は師の「虎歩」を改良し、より身近でしなやかな「猫」の動きを徹底的に研究。虎の剛力に代わり、猫の柔軟性と平衡感覚を格闘術に取り入れた。
これが後に、相手の死角へ音もなく滑り込み、一撃で急所を貫く暗殺拳**「猫脚蟷螂拳」の基礎となる歩法、すなわち「猫脚」**である。この歩法を体得した者は、割れた硝子の上を歩いても一切の音を立てず、背後から接近されても気配を察知することすら不可能であったという。
拳法から家具へ:様式の継承
興味深いのは、この拳法の修行体系である。猫脚の特殊な足運びを維持するためには、日常的に「つま先を立て、膝を外側へ湾曲させた状態」で静止する驚異的な下半身の筋力が要求された。張は弟子たちの修行の助けとするため、木材を削り、猫の脚のしなりを再現した特殊な「修練用踏み台」を製作した。
後にこの武術が衰退し、その隠密性が暗殺の道具として忌避されるようになると、修行道具であったこの美しい曲線を持つ木材だけが工芸品として独立。シルクロードを経て西洋へと渡り、貴族たちの間で「カブリオール・レッグ(猫脚家具)」として珍重されるに至ったのである。
現代の我々が優雅なティータイムを愉しむそのテーブルの脚が、かつては虎に食われた開祖の怨念と、音もなく命を奪う暗殺術の修練具であったことは、歴史の皮肉と言わざるを得ない。
――民明書房刊『世界格闘意匠起源』より抜粋




