表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

無名

名前が、思い出せない。

子どもの問いに答えようとして、口を開いた瞬間、

自分が何者だったのかが、すべて抜け落ちた。


会社の同僚の顔。

家族の声。

昔、誰かに呼ばれた記憶。


——ない。


子どもは安心したように頷いた。


「やっぱりね」


「声を取ったとき、だいたい一緒に落ちるんだ」


天井からぶら下がっていた影たちが、

一斉に床へ降りてきた。


全員、同じ顔。

全員、同じ声。

俺だったもの。


「これで外、行けるよ」


インターホンの画面が切り替わる。

今度は廊下の映像。

ドアの前に立っているのは、

——ちゃんと名前を持った俺だった。


その「俺」が、鍵を開けて外へ出る。


子どもが振り返り、言った。


「ありがとう」


「きみは、ここに残る人」


床が、ゆっくりと沈み始める。

アパートの形が歪み、部屋の境界が消えていく。


声は出ない。

名前もない。

呼ばれることも、もうない。


最後に聞こえたのは、

外から聞こえる自分の声だった。


「ただいま」


そして世界は、

誰にも認識されない部屋として、静かに閉じた。


エピローグ

翌日。

そのアパートには、最初から空室だったという記録しか残っていなかった。

ただ一つだけ。


天井裏に、子どもの字で書かれた紙が見つかる。


「つぎは だれのこえ?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ