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逃げ場

足が動かなかった。

恐怖じゃない。確信だった。

——逃げても無駄だ。


子どもは俺の声で笑った。

その笑い方まで、俺と同じだった。


「ねえ、名前」


床に、影が落ちる。

俺の影じゃない。

天井から、逆さまの影が伸びてきている。


天井板が、みし、と鳴った。


逃げなきゃ。

そう思って玄関へ走る。鍵を開けようとした瞬間——


「それ、だれの声で呼ぶの?」


インターホンが鳴った。


ピンポーン。


モニターには、俺の顔が映っていた。

でも口が動いている。


「宅配です」


声が、俺の声だった。


背後で、クローゼットが開く音。

子どもが、床を引きずるように近づいてくる。


「名前をちょうだい」


「名前があれば、外に出られるんだ」


天井が、完全に抜け落ちた。

逆さまの子どもたちが、何人もぶら下がっている。


全員、俺の声で囁いていた。


「ちょうだい」

「ちょうだい」

「ちょうだい」


耳を塞いでも、頭の内側で響く。


そのとき、ふと気づいた。


——さっきから、誰も俺の名前を呼んでいない。


呼べないんだ。

最初から。


子どもが、すぐ目の前まで来て言った。


「ねえ」


「きみ、もう名前、持ってないでしょ?」

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