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奪われた声

声が出ない。

咳払いをしても、喉を叩いても、空気が抜ける感覚だけが残った。

スマホを操作し、メモアプリを開く。

《声が出ない。天井裏から子どもの声》

文字を打つ指が震えて、誤字だらけになる。


そのとき、また聞こえた。


「……ちがう」


さっきより近い。

天井ではない。

部屋の中だ。


振り向くと、クローゼットの扉が、数センチだけ開いていた。

中は暗い。服の隙間が、奥へ奥へと続いているように見える。


「ちがうよ」


子どもの声が、はっきりした。

——俺の声だった。


自分の喋り方、癖、語尾。

すべてが完璧に同じ。


喉を押さえた瞬間、クローゼットの奥から「俺」が出てきた。


いや、違う。

**俺の声を持った“何か”**だ。


姿は子どもだった。

顔はのっぺらぼうで、口だけが不自然に動いている。


「これ、きみの声だよね」


子どもは楽しそうに喋る。

俺は叫ぼうとして、音にならない息を吐くだけだった。


「だいじょうぶ。ちゃんと返すよ」


子どもはそう言って、

自分の口をぐり、と横に裂いた。


中から、黒く濡れた“何か”が垂れ下がっている。

それは——俺の声だった。


「ただしね」


子どもは、俺を見上げて言った。


「つぎは、名前をちょうだい」

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