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プロローグ
夜中の二時三十分。
アパートの天井裏から、子どもの声が聞こえた。
「……かえして」
最初は、隣の部屋のテレビだと思った。
でも声は、はっきりと自分の部屋の真上から聞こえてくる。
「ぼくのこえ、かえして」
ここは築四十年の木造アパート。
天井裏に人が入れるはずがない。
それでも声は続く。
泣き声でも、怒鳴り声でもない。
感情が抜け落ちた、録音のような声。
俺はスマホを握りしめ、管理会社に電話をかけようとして——
その瞬間、天井からドンと何かが落ちてきた。
白い紙だった。
拾い上げると、子どもの字でこう書かれていた。
「きみの声と まちがえた」
その直後、
俺の喉から――声が出なくなった。




