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(第9話)帝国でのパーティーの開幕~スカイ王国~

 「アイリス。とても綺麗だよ」


 僕の色を纏ったアイリスは、本当にとても美しかった。


 「セドリック様にも私の色を身につけていただけて、とても嬉しいですわ」


 僕が着けているアイリスの瞳の色であるブルーの蝶ネクタイを一瞥した後で、アイリスは熟れた瞳で僕を見つめた。

 相変わらずスカイ王国の情勢は厳しく、ここ最近は執務室で暗い日々を過ごしていたが、今日は明るい夜になる予感がした。


 「さあ。行こう」


 アイリスをエスコートした僕は、晴れやかな気分で帝国の皇太子殿下の婚約披露パーティー会場に入室した。

 各国の王子や王女、そのパートナーが招待されたパーティー会場は、飾られている花やテーブルクロスなどその装飾も含めすべてが華麗で素晴らしかった。


 僕はあまり外交には携わっていないため、近隣諸国の主要な王子の顔しか知らないが、あまり目移りをさせるのも見苦しいと思い、彼らを探すことも叶わなかった。

 まぁ、パーティーが開始されて皇太子に挨拶をした後で今後のためにも各国の王子達と交流を深めていけば良いか、と思いアイリスと二人きりでウェルカムシャンパンを楽しんでいた。


 「夢のように楽しい時間ですわ」


「僕もだよ」


 僕とアイリスは、見つめ合った。


 「ふふっ」


「どうしたんだい?」


「いえ。私達があの『真実の愛の物語』の主人公だと知った時の周りの方々の反応を想像したら、思わず笑ってしまったのです」


「愛しそうに見つめ合っていた二人だと納得されるだろうね」


「ええ。今日は、私達の真実の愛が世界各国の主要な方々から認められる日になりますわね」


 アイリスは瞳を輝かせていた。

 吟遊詩人達が流行らせたあの詩が、スカイ王国の王太子である僕とアイリスの物語であることは、詩と一緒に広められていると聞いていた。

 だからきっと僕がスカイ王国の王太子と知った時には、他国の王子達はすぐにあの物語を思い出すだろう。

 その時の反応を思って期待に胸を膨らませるアイリスを、純粋に愛らしいと思った。


 ……対になるように悪役にされた一人の平民の顔を思い出しそうになったけれど、僕は必死でそれを押し留めた。

 僕のせいじゃない。シエナがこれからどうなろうとも、それは僕のせいじゃない。

 シエナを追放するという僕の判断は間違ってなんかいなかった。

 そうだ。そうに決まっている。いや、そうでなくてはいけないんだ。



 「あの方がルイ皇太子殿下の婚約者であるユリアン様なのですね。可愛らしいですが、完璧なルイ殿下と並ぶと少し見劣りしますわ」


 自分の思考に夢中になっていた僕は、アイリスの周りに聞こえないように抑えられた声を聞いて我に返った。

 いつの間にか、会場には帝国の皇太子であるルイ殿下とその婚約者であるユリアン侯爵令嬢が入場していた。


 「本日は僕達の婚約パーティーに参加してくれてありがとう」


 ルイ殿下の挨拶は、パーティー参加者への感謝から始まった。

 それから婚約者の紹介、パーティーを楽しんで欲しいという言葉が続いた。

 そこで締めの言葉になるかと思ったが、一息ついてルイ殿下は言葉を続けた。


 「そして本日は、各国の皆に報告がある! 余計な邪魔を入れないために今まで情報を伏せていたが、帝国とクラウド王国を繋ぐ街道に発生していた瘴気が浄化された!」


 その言葉に、僕の体中に冷汗が流れるのを感じた。

 ……まさか。……まさか。……嘘だ……。そんな……。まさか……。



 「クラウド王国は絹織物などの技術に優れているが、今までは直接取引をすることが叶わなかった。しかしクラウド王国の聖女の力で、帝国への直通ルートが開かれた! 我が国では不必要な税をかけることはしないので、クラウド王国は今後ますます発展するだろう! クラウド王国に明るい未来をもたらした聖女を、この場で紹介したいと思う!」



 いつか僕が『ありえない』と切り捨てた側近の推測が、正しかったというのか? 

 嘘だ。まさか……そんな……。

 だけどタイミング的に……その聖女は……。


 それにルイ殿下の言葉。『不必要な税』と宣言した。それは、スカイ王国への……。

 今まで我が国がクラウド王国へしていたことを、帝国や他国はどう見ていたのか……。

 初めてそのことに思い至って、全身が震えた。


 「聖女? そんなものいるはずがないのに……」


 僕にはもう隣に寄り添うアイリスの呟きに答える余裕さえもなかった。


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― 新着の感想 ―
タイトルの「正しいですよ」は誰目線の正しいなのか。 まあ、聖女目線、スカイ王国以外の国目線、ってことなんだろうけど。
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