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(第5話)見え始めた綻び~スカイ王国~

 「帝国との絹織物の取引が停止された? 帝国からの発注が遅れているだけではないのか?」


 真実の愛として王国中から認められたアイリスとの婚約から半年が経ち、これからは何もかもが順風満帆に進むだったはずの僕の人生に綻びが出始めていた。


 「いっ、いえ。帝国から正式に『今後の発注は見直す』旨の通達が来ております」


 今にも倒れそうな顔で側近が告げた言葉が、信じられなかった。


 「帝国への絹織物の輸出は、我がスカイ王国の大きな収益源だ。それを突然切られるなんて……。他国では絹織物の技術は発展していないはずだ。唯一、クラウド王国は我が国よりも高い技術を持っているが、あの国から帝国に輸出するためには我が国を通る必要があるから高い取引税をかけているのに」


 そうだ。クラウド王国は何をするにも他国と繋がるためには、必ず我が国を通る必要がある。

 だから、我が国を通過するためにありえないほどの取引税や通行料を取っている。

 そうすれば高い手数料を払ってまでわざわざクラウド王国に行くよりも、単純にスカイ王国と取引をした方が他国や商人達にとってよっぽど利があるからだ。

 そうやって我が国はあの国の立場を不利なものに貶めることで、優位に立っていた。

 それはこれからも変わらないはずなのに……。

 

 「殿下。……帝国とクラウド王国を繋ぐ街道から魔物が全滅したという噂は……」


「あんなものあくまで噂だろう。あの街道には穢れ沼なるものがあって魔物の発生は免れないはずだ。それを浄化できる者などそれこそ聖女でもない限りいないだろう」


 ……自分から出た『聖女』という言葉にほんの少し何かを感じたが、気にしなかった。

 ましてや自分が捨てた『偽聖女』のことなど、この時の僕は思い出しもしなかった。


 「……ですが……。今回の帝国からの発注停止の件と合わせて、念のため調査された方が……」


「はぁ。まぁ、どちらにしても帝国の件は理由を確認しないといけないからな。ついでに街道の件も調べておけ」


 おざなりに側近に命じて、僕は話を打ち切った。

 せっかくアイリスとの結婚式の日取りが決まっためでたいタイミングで、なんで僕がこんな目に合わなくてはいけないんだ。


 

 「殿下。お忙しいところ申し訳ございません。洪水被害の報告が来ております」


「……またか」


 先ほどとは違う側近が新たな問題の報告に来て、僕はため息を吐いた。

 最近、スカイ王国では自然災害の被害が増えている。

 とは言っても、一般的に予測できる範囲内の件数に過ぎない。……が……。


 「ここ数年は自然災害など発生していなかったのにな」


 思わず呟いた僕の言葉に、側近はほんの少し顔色を悪くした。


 「調べたところ、約五年前からこの半年まで自然災害は発生しておりませんでした。……ちょうどシエナが王宮に滞在していた期間です……」


「シエナ……? いや、まさかあの偽聖女は関係ないだろう。……五年前からということは、シエナがスカイ王国に生まれてからも自然災害は発生していたんだろう?」


「それは……はい。五年以上前は、現状の範囲ですが自然災害が発生しておりました……」


「だろう? じゃあやっぱりシエナは関係ない。余計な推測は不快だ」


「申し訳ございません」


 そうだ。シエナが、あの偽聖女を国外追放したことが、関係あるはずなんてない。

 シエナがこの国に生まれてから自然災害が発生していないならともかく、王宮にいた期間だけ災害が発生していないからシエナが聖女かもしれないだなんて、理屈が通らないじゃないか。


 『関係ない。関係ない。シエナを追放したことと自然災害は関係ない。あれは偽聖女だ』


 それなのに、僕は心の中でなぜか必死に唱えていた。

 あるいはそれは、シエナが偽聖女であることは、心の奥底で怯える僕の切実な願望だったのかもしれない。

 少しずつ剥げていく理想が僕に真実を突き付けることを、僕は本能で恐れていたのかもしれない。


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元々住んでいた王国の『綻び』。 ところで、いわゆる『平民』階級の人たちは、 どちらの方に『亡命先』を選ぶの ポンコツ王子「待て、待てぇ!なんでうちの国から人が逃亡する!!」 いえいえ、ネズミの方が素…
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