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(第2話)聖女が国境に捨てられたって何かの比喩か?~クラウド王国~

 「隊長。『スカイ王国の聖女が国境に捨てられた』との報告がまいりました」


 いつもと何ら変わりのない昼下がりに、国境警備隊の副隊長であるセバスがいつものように眼鏡をくいっとしながら真面目な顔で言った。


 「おっ? セバスが冗談を言うなんて初めてじゃないか? 眼鏡の調子でも悪いのか?」


「僕は冗談は言いません。事実をお伝えしています」


「……俺は、比喩とかはよく分からんのだ。何かの例えだったらもっと分かりやすく頼む」


「比喩でもありません。言葉通り聖女が国境に捨てられていたのです」


 セバスが! 仕事は完璧で顔もいいのに真面目過ぎてモテないセバスが! 真顔で! むしろキリっとした顔で! 変なこと言ってる!!

 セイジョガコッキョウニステラレタ? いやいや、何だそれ!?


 「俺の記憶が確かなら、スカイ王国の聖女は王太子の婚約者だろう?」


「いくら脳筋の隊長でもそのくらいはご存じでしたか。ご認識の通りです」


「うん。まぁ、ちっちゃな嫌味っぽいのは置いといて。……えっ? 捨てたの? 聖女で王太子の婚約者を? 他国の国境に? 頭おかしくないか?」


「あの国の頭がおかしいのは、通常運行です」


「ひー。真顔で辛辣―。……っと、まぁそれも置いといて。……とりあえずは聖女の話を聞きたいと思うが、今はどこにいる?」


「そうおっしゃると思い、ドアの外でお待ちいただいております」


「お、おうっ! さすがは仕事完璧眼鏡!」


 そんな俺の軽口を流し目でサクッと無視して、セバスは扉を開けた。


 そこにいたのは、痩せた体にサイズの合っていないドレスを身に纏った腰まで届く長い髪のまだ少女のように見える女性だった。


 「えっと、君がスカイ王国の聖女なのか?」


 俺の問いに答えたのは、少女の口ではなく『きゅるるるるるー』というお腹の音だった。


 「腹が減っているんだな!? セバス! とりあえず食事を用意しろ!」


「隊長ならそうおっしゃると思い、すでに指示しております。もう準備が出来ていると思うので、食堂に向かいましょう」


「お、おうっ! 仕事早すぎ眼鏡だな!」


 セバスの仕事の速さに驚く俺に、その少女は驚いたように目を向けた。

 あっ。紫色の瞳だ。この国ではよくある色だが、なんだか飛び切り綺麗に見えるな。


 「あのっ、私が誰かとか、本当に聖女かとか、まずは尋問しなくて良いのですか?」


「それは後で聞かせてほしいが、腹が空いているなら、先に何か食わなきゃダメだろ。なぁ? セバス?」


「はい。隊長はご自分が空腹に耐えられない性質なので、他人が空腹であることにも耐えられないのです。ですから聖女様もまずはお腹を満たしてください」


 セバスが、あのセバスが聖女に向かって笑ってる! まぶしいぞ。セバス! その笑顔を普段から出せたらもっとモテるんじゃないか?


 「隊長。何かくだらないことを考えてますね?」


 ぎくっ。


 『きゅるるるるるるー』


 「ともかく急いで食堂に向かおう!」



 さすがのセバスの手配通りに、食堂には消化の良さそうなスープやパンや果物などが用意されていた。


 「とりあえずすぐに準備出来るものということだったからね。もう少ししたら夕食の準備に取り掛かるから、夕食は皆と同じものを用意するからね。ここは男飯だからボリューム満点で味も満点だよ」


 食堂のおばちゃん(というと怒られるが)であるリリーが、豪快に笑った。


 「温かい。美味しい。柔らかい。美味しい」


 聖女は、スープを一口飲んで嬉しそうに微笑み、パンを一口食べて嬉しそうに微笑んだ。

 美味しいのは良かったけど、感想がちょっとおかしくないか?

 温かい? 柔らかい? って当たり前のことだろ? 

 それなのに聖女はそのことに本当に感動しているようだった。


 「うわっ!」


「食堂のおばちゃんリリー! どうした?」


「おばちゃんは余計だよ! 隊長! 花がっ、花が咲いたんだよ!」


 ……はっ? リリーは何を言っているんだ? そう思いつつリリーの指さす方を見ると、確かに花が咲いていた。


 「セバス……。これは……」


「花が……咲いて、いますね……」


 さすがの沈着冷静眼鏡であるセバスも、謎の事態に眼鏡の奥の瞳を見開いていた。

 

 「というか、花が次から次へと咲いていますね」


 そう。セバスの言葉通り、次から次へと食堂に花が咲いていた。

 思わず俺達三人は、聖女を見た。


 「美味しい。温かい。美味しい。柔らかい。美味しい。お肉入ってる」


 聖女がそう言って笑う度に、花が一つ、また一つとどんどん咲いていった。


 えっ? 何これ? すごない? えっ? 笑う度に花が咲くとか、どんな奇跡だよ?


 「しかもこの花は、聖白百合ですね……」


 セバスの言葉に俺は更に驚いた。


 「聖白百合って……。ポーションの素になる、この国ではヒール山の頂上にしか生えていない、あの希少な聖白百合か?」


「専門家による検証は必要だと思いますが、透き通るような白色と百合のような形から間違いないかと思います」


「これだけあれば貴重なポーションが何本作れるんだ……」


 こんなすごい奇跡の力を持った聖女様(思わず様付け)を他国の国境に捨てるか普通? いや、たとえ聖女でなかったとしたって、女性を国境に捨てるとかないだろ。

 マジであの国は、頭おかしいな。


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