(第14話)スカイ王国の卑劣な行為を公表してやろうか?~クラウド王国~
「スカイ王国から『謝罪と母親の件を説明したいので聖女シエナを招致したい』と正式に書簡が来ているよ」
シエナ嬢に会いに国境警備隊の本拠地まで訪れた第一王子は、呆れたような顔で報告をした。
「お母さんの件は事実だけ公表いただければ結構です。謝罪も文書で良いとお伝えしたはずですが……」
「そうだよねー。聖女シエナはパーティーでもそう言ってたのにね」
シエナ嬢も第一王子も、ため息を吐いていた。
うん。俺も聞いてた。というかシエナ嬢はきっぱりと『もうスカイ王国の誰にも会いたくない』って宣言してたのに、スカイ王国に招致するとか頭おかしいよな。
「こんな明らかに怪しい招致に応じるはずないのにね。スカイ王国は、聖女シエナのこともクラウド王国のことも舐め過ぎだよねー」
あの国はずっとクラウド王国を格下の国だと見下してきたからな。
穢れ沼が浄化されて帝国との街道が開けたことの重要性だって、きっとまだ本当には理解出来ていないんだろう。
「私は、もう二度とスカイ王国に足を踏み入れるつもりはありません」
「それはもちろんだよ。そんな必要はない。……ただ、スカイ王国は聖女シエナを取り戻したいと躍起になるかもね。……さすがにありえないとは思うけど……『聖女シエナの故郷はスカイ王国だ』ということを盾に誘致を強固に主張する可能性もあるかもね」
「その際には、以前国王陛下にご依頼させていただいた調査の結果を公表してください」
「……いいの?」
「はい」
シエナ嬢は、まっすぐに第一王子を見て答えた。
穢れ沼を浄化した褒賞として、シエナ嬢は国王陛下にある調査を依頼した。
それは……『クラウド王国にあるラナー村で五年前に母子が失踪していないか、もし失踪していた場合にはその母子についての詳細を調査してほしい』というものだった。
その時の俺にはそれが何のための調査なのか、なぜシエナ嬢がクラウド王国の中でも寂れたそんな村の名前を知っていて、しかもそこに住んでいた母子の調査をわざわざ褒賞としての権利を使ってまで国王陛下に依頼するのか、まったく見当もつかなかった。
だが、あの帝国でのパーティーでシエナ嬢の母親が殺されてシエナ嬢が無理やり連れ去られたという話を聞いて、うっすらと……スカイ王国の卑劣すぎる行為を……あの調査の意味を……想像した……。
聖女だとか聖女でないとか関係なく、一人の少女の人生を踏みにじる、最低で最悪のその卑劣で野蛮な行いを……。
「スカイ王国には、聖女シエナの招致には応じない旨を回答する。もししつこく誘致を求められるようであれば、クラウド王国からは事実を公表する! 聖女シエナはそもそもクラウド王国民であり、五年前にスカイ王国に誘拐されていたと!」
きっぱりと第一王子は宣言した。
シエナ嬢はその宣言を聞いて、静かに頭を下げた。
「どうぞよろしくお願い致します」
「シエナ嬢。俺は、君に謝らなくてはいけないことがある」
第一王子が帰られた後で、俺はシエナ嬢と向き合った。
「隊長さまが私に? そんなものありますか?」
「……俺は、五年前はまだ国境警備隊の隊長ではなかったが、現隊長として当時の国境警備隊の不手際を謝罪したい。……いや、むしろ当時若手だった俺は国境での警備を担当していた……。五年前、君がスカイ王国に誘拐された時、誘拐に気づかず君と犯人を見逃して国境を通過させたのは俺かもしれない」
俺の言葉に、シエナ嬢はクラウド王国ではよくある色のその紫の瞳を瞬かせた。
「俺が見逃したせいで君はスカイ王国で辛い目に遭ったんだ。本当にすまなかった」
必死で下げた頭の上から聞こえてきたのは、シエナ嬢の明るい声だった。
「隊長さまは真面目すぎます! それに気絶させられた私は、きっと荷物と一緒にリュックとか木箱とかに入れられて巧妙に隠されて運ばれたんですよ! そんなの気づく方が不可能です! だから隊長さまが謝る必要なんてまったくありません!」
それがシエナ嬢の本心だということは、咲き誇った聖白百合が教えてくれた。
「……君は、聖女だ」
「はい。私は、クラウド王国の聖女なんです!」
「能力もだけど、その心が、その美しい心が聖女だとそう思ったんだ」
「……隊長さま。もしかして私のこと口説いてますか?」
えっ!? あっ!! 俺は何を口走っているんだ!!
「いや、違う!! いや、違わないんだが、違う!! あっ!! そうだ、セバス!! セバスに伝えないといけないことがあったんだ! セッ、セバス~!!」
いかん。恋愛関連の免疫がなさ過ぎて、思わず逃げてしまった。
しかもセバスで逃げるって情けなさすぎるだろ、俺!!
……くー。へこむな……。




