(第13話)卑劣な策略~スカイ王国~
「セドリック!! 帝国のパーティーでの失態はどのように責任を取るつもりだ!!」
スカイ王国に戻った僕とアイリスを待っていたのは、父親である国王からの激怒だった。
「……突然の事態に対応が追い付かず……申し訳ございませんでした」
王妃や宰相などの重鎮達や義父となる公爵も見ている前での謝罪は、屈辱だった。
「シエナが本物の聖女だったとは! なぜ我が国では一度も奇跡を起こさなかったのだ! 無能め!」
「……シエナは、国王の命令で母親を殺されたからだと……」
「その件もだ! セドリックよ! なぜそんな妄言を否定しなかったのだ!」
「……申し訳ございません。……突然のことに真偽の判別がつかず……」
「こちらの不利になるような発言なら、問答無用で否定すべきだろう!!」
……父上はあの場にいなかったから、そんな風に言えるのだ。
全員から冷たい目線を浴びせられるあの空気……。思い出しただけでぞっとする……。
だけど父上の怒りぶりに僕は安堵した。
「では、やはりシエナの発言は虚偽なのですね!」
「ああ。どんな手を使ってでも聖女を連れてこいとは指示したが、殺せとは言っていない」
……はっ? 指示した? 父上が? どんな手でもって、それはつまり殺してでも良いと言っている様なものではないか。それはつまり、シエナの言葉は正しかったということじゃないか。
指示した? 僕の父親が? 人を殺すことを? 嘘だ……。そんな、そんなわけが……。
「もしものためにアランを生かしておいて良かったわい。『調査の結果、家臣の一人が暴走してシエナの母親を死に至らせてしまったことが判明した。王家はその事実を一切把握していなかった』と公表する。公表後にアランを牢から出して公開処刑でもすれば、聖女の気も治まるだろう」
「なっ!? そんなとかげの尻尾切りのような説明で、シエナが納得するとは思えません!」
あの時のシエナの強くまっすぐな瞳を思い出して、僕は思わず反論した。
「だとしたら好都合だ! 調査結果の説明とアランの公開処刑を見学させる名目で、聖女をスカイ王国に誘き出せるではないか!」
……誘き出す? 何を言っているんだ? 父上は?
もはや世界中から聖女だと認識されているシエナを誘き出したところで、何も出来るはずがないのに……。
「元婚約者であるセドリックが手籠めにでもすれば、スカイ王国の王太子妃になる覚悟も出来るだろう! それ以外でも聖女をスカイ王国に来させさえすれば、クラウド王国に返さない方法はいくらでもあるわい!」
……父上は、こんなにも短慮だったか?
クラウド王国の護衛だって付き添ってくるだろうし、都合よく一人になった聖女を攫って汚すなんて、そんなこと現実的に出来るはずがないだろうに……。
いやむしろ万が一成功してしまった時の方が問題だ。
……聖女を汚すだなんてそんなこと、帝国や他国が許すはずがないのだから……。
「いいか! セドリック! スカイ王国の未来はお前にかかっているのだ! 聖女をスカイ王国に誘き寄せるのはワシがする! その後は、お前がなんとしても聖女の心を取り戻すのだぞ! 最悪身体だけでも手に入れるのだ!」
僕は思わずアイリスを見た。
あのパーティーの夜に確かに僕はアイリスに失望して『醜い』とすら思ってしまったが、それでもアイリスはずっと僕の真実の愛の相手だったんだ。
そんなアイリスの前で、よりによって元婚約者とよりを戻せだなんて、どれだけアイリスが傷ついているか……。
だけど、アイリスは……。歪んだ顔で薄っすらと笑っていた。
「アイリス……。どうして……」
そんな僕の呟きは、誰にも拾われることなく消えていった。




