(第10話)もしパーティー会場で騒ぎが起きてもすべてあいつらの責任だ~クラウド王国~
「君が瘴気を浄化した聖女かい?」
帝国でのパーティーの日、聖女であるシエナ嬢には事前にルイ殿下と婚約者であるユリアン様との謁見の時間が設けられた。
「シエナと申します。平民のため名前のみで失礼します」
そう自己紹介したシエナ嬢のカーテシーは、そういうことには疎い俺でも分かるくらいに洗練されていた。
「そうか。君は、スカイ王国の王太子の元婚約者だったね。所作は王太子妃教育で学んだのかな」
「はい。大変厳しく躾をしていただきました」
犬の躾を連想させるような表情と言い方だった。
……スカイ王国はマジで王宮関係者全員頭おかしいな。
シエナ嬢の意を汲んだのか、ルイ殿下は苦笑いに留めていた。
「クラウド王国では楽しく過ごせているかい?」
「はい! スカイ王国とは違って、毎日がとても楽しいです!」
俺にとってはもう当たり前になってしまったが(慣れって怖い)、シエナ嬢の笑顔とあわせていつもの如く聖白百合が咲いた。
「報告通りだが、実際に見るとやはり凄いな」
「なんて素敵なのかしら」
さすがのルイ殿下も奇跡を目の当たりにして、目を見開いていた。ユリアン様は、美しく咲いた花をうっとりと見つめた。
「今日のパーティーには、スカイ王国の王太子とその婚約者も招待しているが、差し障りがあれば教えてほしい」
疑う余地もない聖女の力を見たからだろうか、改まってルイ殿下がシエナ嬢に問いかけた。
すげぇな。シエナ嬢が拒否したら、スカイ王国の奴らはここまで来て入場すら出来なくなるんじゃないか?
「それは問題ございません。……ただ、もしも彼らから事実ではないことを言われた場合、その場を騒がせてしまうかもしれませんが、私は私の真実を打ち明けたいと思いますが、よろしいでしょうか?」
シエナ嬢は、真っすぐにルイ殿下を見ていた。
彼女は強い。
普通なら帝国の皇太子との謁見なんて、貴族だとしても震えてしまうだろうに、堂々と自分の意見を述べている。
物理はともかく、精神では俺なんかよりもシエナ嬢の方がずっと強いのではないだろうか。
いや、聖女の能力が他にもあるのなら物理でも俺より強い可能性も……。ごくり。……よし、帰ったら訓練に励もう!! セバスよ! もうすぐ帰るから待っていてくれ!
「それは構わないが、面談などの場を設けるのではなく、あくまで向こうが話しかけてきた場合ということで良いのかな?」
「はい。私から話しかけることはしません。あくまで彼らが私に言いがかりなどをつけてきた場合のみです」
「君は思った通りに話せばよい。その結果がどうなろうと彼ら自身の責任だ」
シエナ嬢、すげぇ。さらっとルイ殿下から言質を取ってる。
これでもしパーティー会場で騒ぎが起きても、すべてあいつらの責任だ。
だけどいくらなんでも各国の主要人物が揃い踏みの場所で、自分達が追放したシエナ嬢を罵るだなんてアホな真似をするはずがないか。
……スカイ王国が、いくら頭がおかしい国だとしても……。その筆頭である王太子であるとしても……。
いや、でも、まさか、なぁ……。でもあの国なら……。いやいや、まさか、なぁ……。
「さすがのシエナ嬢でも緊張してるんじゃないか?」
ルイ殿下からの紹介の後で入場することになっている俺達は、パーティー会場の外で扉が開かれるのを待っていた。
シエナ嬢に問いかけたものの、本当は俺のチキンハートこそがバックバクだった。
だってすげぇパーティーだぜ? 本来なら参加することすらありえないパーティーに注目されまくって入場するんだぜ? 耐えろ。俺の心臓バックバクよ。
ただの付き添いの俺なんかよりも、シエナ嬢の方がずっと緊張しているはずだ。なんとか俺が彼女の緊張をほぐさないと!!
「私は平気です!」
マジか!? シエナ嬢の精神力、やっぱりすげぇな。
強がりなんかじゃなく、本当に平気そうなシエナ嬢に俺は感心した。
「シエナ嬢は、強いな」
「隊長さまが隣にいてくれるからですよ」
ひ~!! 俺の心臓、終わった。
だけど、緊張とときめきでドキドキが昇天して、逆に落ち着いた。ありがとう。シエナ嬢。
「合図が参りました。扉を開けますのでご入場ください」
そんな使用人の言葉と共に、扉が開かれた。
シャンゼリアの眩しい光に圧倒されながら、いよいよ俺達は会場に足を踏み入れた。