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1話 聖女ファレン

 決意を抱いてから一年が経った。未だ目的は達せていない。


 様々な人間が暮らす活気に満ちた場所、王都セラフィム。今日も街中には多くの人々が行き交っていた。

 賑やかな街の大通りに存在する冒険者ギルド。

 そこに一人の聖女が佇んでいた。


 聖女ファレン・シュエットは王都を中心に活動している冒険者だ。16歳の彼女は冒険者になってもうすぐ一年が経つ。

 目を引くのは腰まで届く金色の長い髪。左側だけにある三つ編みが特徴的だ。その頭がすっぽり覆われるほどの大きな修道帽が彼女の顔に影を落とす。清廉なはずの白い修道服は裾が少し黒ずんでおり冒険者としての苦難が伺える。

 やや高めの身長は相手に大人びた印象を与えるものの彼女の顔つきにはまだ年相応の幼さが残っていた。


 孤児だった彼女は成人を迎えるまでの数年間を教会で育てられた。親からの愛を与えられないまま過ごす欠落した毎日。そんな日々の中でも彼女は神への信仰を深め続け、神官としての技能を研鑽してきた。

 恵まれない過去のせいか彼女の性格は少し冷めている。彼女の目はいつもどこか虚ろだ。

 そんなファレンは15歳の成人を迎える時、冒険者になることを決意した。手に持っている信仰の杖は独り立ちするときに神父から授かった物だ。


「…………」


 彼女はその赤い瞳で冒険者ギルド内に設置されている掲示板を見つめている。

 そこには資源の採取から魔獣の討伐まで、ギルドに依頼された様々な案件が一面に貼り出されていた。


「次はどうしようかな」


 独り言を呟きながらこれからの活動について思案する。

 彼女は昨日、一緒に活動していた仲間をすべて失ったのだ。

 一人になり途方に暮れているらしい彼女は掲示板の前で立ち尽くす。


 不憫な状況にも思えるが珍しいことではない。冒険者にとって死は身近な存在だ。さまざまな場所に出向き、依頼をこなして生計を立てる。命を賭けなければならないような危険な依頼に関わることも少なくない。

 ファレンも仲間を失うのは今回が初めてではなかった。そんな中でも彼女は悪運が強いのか今回も生き残っている。


 金を稼ぐには何かしらの依頼を受注しなければならないがギルドは冒険者単独での依頼受注を認めていない。冒険者たちの安全を確保するため二人以上のパーティで受注しなければならないのだ。

 ましてファレンは教会育ちの聖女だ。味方を回復することはできても自分で戦うことはできない。そんな彼女が一人で行動するのは無謀もいいところだろう。


 どうにかして新しい仲間を見つけなければならない。それも前線で戦うことのできる剣士や戦士といった前衛職だ。

 ファレンはしばらくギルド内を探したものの、目ぼしい者は見つからなかった。

 ここにいるのはギルドの職員と集会所に併設された食堂で朝から酒に溺れている堕落した冒険者だけだ。


 今日は時の運に恵まれなかったんだ。また明日探せばいい。そう諦めて帰ろうとした時、受付の方から言い争う声が聞こえてきた。

 ファレンは怪訝な顔をしながらゆっくりと声のする方へと振り向く。


「……ですから何度もご説明しているように単独での依頼受注はできないんです。ちゃんと冒険者パーティとして受注していただかないと」

「だからウチのパーティメンバーには俺がいるじゃないですか。仕事させてくださいよ」

「そう言われましても……ギルドの規定でパーティ登録には必ず二人以上のメンバーが必要なんです。エリアスさん一人ではパーティとして認められません」


 ギルドの受付嬢、マールと押し問答をする黒髪の青年。どうやら彼はエリアスという名前らしい。身につけている装備品からして剣士だろう。

 マールは何度も繰り返し規定の説明をしているがエリアスは一向に納得しないようだ。


「そこのところマール姉さんの力でなんとかしてくださいよ。どうしてもこの場所に行きたいんですよ」


 エリアスは手に持った依頼書をマールの目の前に突き出して懇願する。切羽詰まった状況なのか彼は一歩も引こうとしない。

 同情を誘うような弱々しい喋り方でしつこく食い下がるもマールは毅然とした態度を崩さない。


「何度言われましても無理なものは無理なんです。ちゃんと仲間を探してパーティを組んでください」

「勘弁してくださいよ。このままじゃ生活費も稼げないんですよ」


 何度断られても諦めないエリアス。なんてしつこいんだろう、彼を見てファレンはそう思った。

 駄々をこねて必死に粘るエリアスと抑揚のない声で淡々と断り続けるマール。

 そんな光景にファレンは面白みを感じているのか二人の不毛なやりとりを遠くからじっと眺めていた。


 普段は笑顔で冒険者に応対しているマールだが今回ばかりは表情が曇っている。ギルド職員も暇ではない。依頼主への業務連絡など様々な雑務をこなさなければならないのだ。

 職員にとってこういったクレーマーは時間を無駄に消費させられるだけの邪魔な存在だ。早く帰って欲しいことこの上ない。

 サッサと消えてくれないか、そんな憤りが彼女の心に募っていく。

 マールはどうにか追い返す方法を考えながらフロア全体を見渡す。

 なんとか今の状況を打破する手段はないか。

 そう考えていると玄関付近で自分たちを見つめていたファレンと目があった。


「あっ!!」


 いきなり大きな声を出すマール。ファレンを見つけた彼女に悪知恵が浮かんだのだ。

 あの聖女を利用すれば上手く切り抜けられるかもしれない。

 笑顔を取り戻したマールは手を振りながらファレンに大きな声で話しかける。


「そこの聖女さん! ちょっといいですか!?」


 しまった、目が合った。

 彼女がそう思った時にはもう遅かった。

聖女=神官ということで。

聖女としての技能ってなんか、エロいなちょっと


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