銀の翼
「う…、」
詩人はうっすらと目を開いた。
そこは名無しの酒場の書斎のベッドの中で、隣では、マホガニーのテーブルにつく店主の背中が見える。ぼんやりと。
「起きたや?」ちら、店主はこっちを見て。
「…黒のコート?」
詩人は初めて見る店主の姿を、ただぼんやりと見上げた。
「今日は学会や。開店までには戻る。昼まで寝てなさい。」
「…う、うん。」
意識がはっきりしない。
「ほれ。」店主はミルクの入った小さなグラスを詩人に差し出した。
よろ。体を少し起こして。グラスを受け取る。人肌の温かさのミルクが喉を伝う。
「ふぅ。」
何だか体がすーすーする。と思ったら。白い胸が露になっている。
「んん?」
意識がはっきりしない。でも裸だった。
「先生、私、裸で寝てる。」
「寝惚けとるな。服はきとる。」
「そう?」
肌寒さにコップを店主に手渡し、毛布をかぶった。
睡魔に誘われ。詩人は意識を手放した。すうすうと寝息をたてる。ちら。店主は詩人の寝顔を見る。
「…。」
「 危なかったぁ…」
バクバクの心臓と額の冷や汗を手の甲で拭った。
「忘れとった」
あまりの多忙に。
書類を鞄に押し込み、ベッドの傍らに片膝ついた。
「なぁ、イレーゼ。俺は夢を見たぞ。夢の中のお前は、背中に銀の翼があって、天を舞っている。俺はお前を手招きして、捕えて、その銀の翼を…。」
「…その煌く銀の翼を…、へし折ったぞ…。」