記憶の退行
コン。コンコン。…ゴン!
いつものノックではなかった。
ギィ…
名無しの酒場の勝手口が開く。ふらっ。詩人はその開いたドアで倒れた。途中輪になった革紐が頬掠める。
「イレーゼ!」
宙吊りになっていた酒場の主が、天井から、ストッと着地する。倒れた詩人を抱き起こす。
「どうしたあ!しっかりせんか」
体を見回して、外傷がないか確認する。店主は、ひょいと詩人を両手で抱えると書斎へ向かう
「あなた…私のもとから、突然消えたりしないでね…」
「バカ!いつも突然姿を消すのはお前だろうが!」
「二度とは会えない場所へ…一人で行かないと誓って…」
ベットに詩人を寝かせ、レザーアーマーやら武器などを外し衣服を緩める
「いつも一人で行くのはお前だろうが。」
店主は、詩人を半身抱き起こし、
「何があった?」
詩人はぽろりと一筋の涙を零した。
「遠い昔、…友達が消えたの…皆で探し回ったわ。でも、だめだった。」
店主はミルクの入ったグラス手にした。
「それで?」
「…何年かたって、手紙がきたの…。ガンダーラからだったわ。…僧侶になってたの。」
「ほう。ガンダーラはな、お前の好きな0を発見した国や。それでどうした。」
「私は連れ戻しに行ったの…」
店主は詩人に、ミルクを少し飲ませる、
「一人でか?」
「そうよ…。色んな人がいたわ。カーネリアのように…。」
「会えたんか?」
「ええ。」
「…長い…長い話をしたわ。」
「そうか。」
詩人にまたミルクを飲ませる。
「別れ…際に、彼が言ったの…。…千手観音の加護があるって。」
「千人か…俺と互角やな」
店主はフッと笑った。詩人はうっすらと目を開けた。
「無人島で…サバイバルしたら…、…私は先生と…互角の戦いをしますよ?」
「そうや?」店主は笑ってる。
「イレーゼ、どこで∞を覚えた?」
ミルクを飲ませ。
「…タロットカードの…マジシャンの帽子。彼は…自分の魔法に狂喜するばかりで、その重大な使命には…」。
「気付かない…。」
詩人は意識を手放した。