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スカウト

仕事も無けりゃ、金も無い。緑のローブを纏いし黒髪緑眼の吟遊詩人、自称妙齢のベテラン冒険者は、街一番の冒険者の酒場にて、人々の喧騒の中で円卓テーブルに陣取りタバコをぷかり。「あぁ、メランコリー…。」一番安いワインを口に含み舌で転がし

「…楓林の中を散策して、思わぬ落とし穴に落ちた痛みのワインだわ…。あぁ、メランコリー…」景気良さげな若い冒険者が、エールの一気飲みをしている。

「はぁ、女はちょっと薹が立つと煙たがられるのよねぇ…」少女冒険者の多いこと。

「なんだか私、ボケそう…。」愛を見失った老夫婦のように。

「孤独死…。」母に実家に帰られて、一人取り残された子供のように。

「うっ、ううっ、誰か…私、餓死しちゃう。」空のワイングラスと銀の煙管を両手に、テーブルに臥した。通りすがりの魔法少女に「ねー、このおばちゃん泣いてるよー」「しっ!見ちゃいけないよっ」

「おばちゃんちゃうわ!」(くわっ)去り行く少年少女に中指立てた……。

「おやおや、それなら。一稼ぎしていきやがってくかい。」口の端をにぃっと釣り上げた五十がらみの女がテーブルの向かいに座る。

「グスン。」鼻を啜れば、真向いにはワシ鼻の女。吟遊詩人はえっ?と女の一稼ぎに疑問符浮かべて向き直り

「あら、初めまして。この街は初めてなの。教えてくださると助かるわ。」ワシ鼻の女に、凛と口元に笑みを浮かべる。

「初めての街かい。娘たちは着飾って皆綺麗で、猫はコロコロと太っているよ。気にいってくれるといいんだがねぇ」女は赤いジャケットのポケットからもたもたと一束のカードを取りだした。テーブルに置いて、ずあっと右から左へ扇状に広げる

「1から13までの数字と、それが四種類ずつ。洒落た絵札が一枚付いて。」ジョーカーを詩人に見せ。「トランプだよ。」

「あら、ギャンブル屋さんなの」綺麗なトランプに目をぱちくりと

「なぁに?このトランプで何をするの?」

「賭けポーカーなんてどうだい?気だるい酒にゃもってこいの供ってもんだよ」女の青眼が詩人の緑眼を覗き込む

「ポーカー、私賭け事弱いのよね…、すぐ顔にでちゃうから、バレバレなのよう、でもお姉さんとなら、チャレンジしてみようかなぁ」上目遣いをしつつ、女には見えないテーブルの下で音もなく靴を脱ぎ始める…。

「おや、久しぶりとはね、手加減してやろうかな」そのつもりなさげで、女はころころと表情を変える。広げたカードを纏め、ゆっくりと切り始める。

「勝負は三回。二回、高い手を出した方が勝ち。それでいいかい?」詩人はコクリと頷いた。

「しかし、今日は肌寒いね。今年の冬は厳しそうだねぇ。」袖を、手首を隠すほどに引っ張り上げる。詩人はカードを鮮やかに切り始める女の手元を興味津々に見つめながら、テーブルの下では、

器用に動く足の十本の指をにょきにょきさせ準備運動開始

「まぁ、今年は寒いのですか?お風邪をお召しにならないようお気をつけあそばせ」ウィンクした。

「お嬢さんの幸運を祈ってやるとするかねぇ」カードを交互に配る。テーブルの上を滑り。縁で止まる五枚のカード。

「お嬢はかわいいねぇ。うん。器量よしだね。度胸もある。」カードを手に取り、ふむと鼻を鳴らした。二枚とりテーブルの真ん中に鎮座する山の隣に捨て、二枚とる。ちゃきちゃきとカードを並べ替え。

「本来、コインをかけたいんだがね。まぁややこしいのはぬきにしようか」詩人は褒められて上機嫌ルンルンと綺麗に並べられたカードを手に取った。ブタだった。

「ありゃりゃ」しかめ面。

「…ねぇ、本日、私何人目のお客様?一度くらい負けてあげてもよろしいのではなくて」詩人はスペードの9を取って四枚チェンジ。テーブルの下では長い脚がワシ鼻の女の幅広いベルトを感触も無く撫でて物色中。女は詩人のしかめ面を見て、ふふと笑い

「一人目です。遠慮なくあたしをぶちのめして油断していたことを後悔させやがっていいんだよ」詩人の脚に女は気づいたのか気付いてないのか肩を震わせ笑う。

「いい気分にさせてくれるんなら、この札を使ってくれる方が嬉しいってもんだよ。まあ。」ぱさ。テーブルに投げ出す五枚に、何の統一性も無い。

「ブタじゃどうにもならないがね。」

「まぁ、運が悪い、私一人目のお客さんなの」手のカードを並べる。スペードとハートの9のワンペアー「あら、勝っちゃった。」きゃあっと素直に歓声を上げる「勝ったらサンドイッチをご馳走してもらうわね」テーブルの下では、女の幅の広いベルト。カタギではない。一瞬足が止まる。武器を携帯しているのかな?吟遊詩人の脚は慎重に動く

「ラッキーかアンラッキーかは、終わってみてから分かるってもんだよ。運勢なんてものはどっちに転がるかわかりゃしないんだよ…おや、やられちまいました」白髪交じりの髪をくしゃりとかき、あちゃあと顔をしかめた。

「ええ、ええ、勿論ご馳走させておくれよ。…そういえば賭けの対象をまだ決めていなかったねぇ」

「賭けの対象?あらら、残念ね。私かけの対象になるようなもの、持ってないわ。どうしましょう。」困ったように眉をハの字にして。ワシ鼻の女は武器こそ携帯していなが、年季の入ったベルトはそれだけで女の過去を物語る。イレーゼの脚を止めるでもなく、余裕でカードを集めて切り始める。

「あたしが勝ったら、そうだねぇ。一つお願いしようじゃないか。いいかい。一つだけ」ちゃきっちゃきっ

「お嬢はあと一つ勝てば勝ち。よもや断りゃしないだろ。…まぁ、結局は運しだいさ。どっちが勝つかは、まだ分かりゃしないがね…なに、大したお願いじゃあないよ。ただちょいと。落とし物をしてほしいんだよ。道端に、騎士の巡回する道に。ぽとっとぬいぐるみをおとしてもらうだけなんだがね。」カードを五枚ずつ配り終えた。

「お願い?いいわよ」ワシ鼻の女の滑らかな手さばき。どうやら、シーフギルドの構成員らしい。どの階級の者だろう…?吟遊詩人は女に興味をもった。財布を探り当てその重みと身分証などを十本の足の指が探りを入れる。

「どっちが勝つか、まだわからないわね。あなた顔つきが変わったわ。怒涛の反撃がくるのかしら。ぬいぐるみ?かまわないけれど。恋文なら直接お渡しになったらよろしいのではないかしら?」クスクス笑う。詩人の五枚のカードはまたブタだった。またスペードの9を取って四枚チェンジ。財布はジャケットの内ポケットにあった。そこにいは取るに足らない額のコインと市民である証が入っているその市民証が偽造であることは、ある程度その筋に通じたものなら分かる

「あたしの顔が?お嬢の緑のひとみに見とれていたのさ。秘密がね…好きなんだよ。耳打ちなんて、ただそれだけでワクワクするってもんじゃないかい。そう思わない?」女はカードを即座に一枚切って、一枚とる。詩人は偽造の市民証をちらとテーブルの下に目を落とし確認すると、何事もなかったようにサイフを元に戻した。

「やだ、お姉さんのお色気には、私、まいってしまいますわ。」詩人は手にしたカードをテーブルに並べた。9のスリーカード

「秘密が好きなの?私と同業かしら?…なんてね。」クスクス笑い

「秘密はバレた時の為に手をうっておくものよ。大丈夫?」同じくワシ鼻の女は、カードをテーブルに広げる。7が三つと8が二つ。フルハウス。

「おっとあたしが勝っちまいました。本当。運の女神さまはきまぐれだねぇ。これで一勝一敗…次で勝負が付くってもんだけど。同業?案外そうかもしれないねぇ。ここは冒険者の酒場だよ。誰と誰が出会うかは、酒の神さまの采配もあるだろうがね」カードを集める。

「くっくっ。私はね。逃げ足だけはとびっきりでねばれたら逃げてきたよ。ずぅっとね。」

「あら、負けちゃった。サンドイッチが遠のくわ」クスクス笑い。

「幸運の女神さまはきまぐれね。でも、あなたがまたお客をとって稼げばよろしいのではなくて?右も左もわからない街で、許してくださいな。あら、私と同業?ありえないかもしれませんわね…。」相手は手練れの盗賊ギルド員。こりゃ勝ち目はなさそうだが、大人しく引き下がるのは詩人もベテラン冒険者としての意地がある。吟遊詩人は腹をくくった

「逃げてばかりではいつかはつかまるわ。友達が必要ね。」集められたカードに目を細め。

「なに、そう遠かないってもんだよ。サンドイッチでもなんでも。手を伸ばせば届くだろうよ。お嬢さんならね。」ちゃきちゃき。カードを切る音が圧迫感がある。

「さてはて、あたしの負けも、あなたの勝も。運の女神さまのご機嫌一つできまっちまうもんで…あたしにはどうも。くっくっ。」

「手を伸ばして何に触れるか」カードを切る音にワインを飲み干した。

「では、尋常に、勝負。ですわね」銀の煙管を咥え。詩人の目の前で、五枚のカードがブレーキをかける。その五枚は前二回と同じ、ブタである。

「お嬢がこの街で。あたしが最初の友達になるかならないかは。運命の女神様が決めること」自分のカードを広げる。詩人はブタのカードを見てあらわに仏頂面・またスペードの9を取って四枚チェンジ。札をテーブルに広げた。9のフォーカード。

「!!」ワシ鼻の女は詩人が明かした手札に、眠たげな眼を丸くした。

「これは、これは。」

「さて、あなたは?」女の手札を覗き込む。女は。ぱったん。扇のように広げたガードをそのまま、テーブルへ伏せた。

「くっくっ。見るまでもないよ。ああなたの勝だよ。お嬢さん」がたん、椅子を引いて席を立つ、会計か、と近付いてきた給仕係にサンドイッチと上物のワインを言いつけ

「ま、わたしの勝ち?」席を立つ様子にクスクス笑い。サンドイッチとワインに目を輝かせた。

「あなたいいひとね。ぬいぐるみの件、きいてあげても良くってよ。」詳しく。煙管からふぃと煙を吹き。

「お嬢にはもっと、別の仕事をご紹介したいってもんだよ。しかるべき所で、あたしの名前をだしやがってくれ。お世話させてもらうよ。」ジャケットの上から、とんとん。内ポケットの財布を付き。

「いやあ、勝負は勝負。次のカモを…いやいや、次のお客さんにお願いするよ。ま、それもこれも。運の女神様の決める事ではあるがねぇ」ド派手なジャケットを羽織る女は。黄ばんだ歯を剥いて笑う。

「うふふ、私の名前はイレーゼ。吟遊詩人のイレーゼよ。よろしく。」足で物色していたのはバレていたか。ぺろっと舌を出して。運ばれてきたサンドイッチを嬉しそうに齧り

「じゃあ、運命の女神に乾杯」ワイングラスをワシ鼻の女に傾ける。

「あたしはリンダ。ワシ鼻のリンダで通っているよ。ま、「Bランク」の下の方ということで。ああ、そうそう。そのトランプは貰っておくれ。何枚か、余分なカードがまじってしまっているがね。さて、どこから紛れ込んだのやら…どうも。あなたは勝利の美酒を味わいやがっておくれ。麗しきイレーゼ嬢。私の友人。いずれまた。」笑みを深くし、ふらふらと酒場の出入り口へと歩む。はっとするような色の上着を羽織っているというのに、その姿はふっと人通りの中に消えてしまった。

「わし鼻のリンダね。覚えたわ」差し出された使いこまれたカードに目を瞬かせ。どこで紛れ込んだのかしらねぇクスクスわ笑い去り行く女に手を振った。

「またお会いしましょう。そのジャケット似合っているわ」

イレーゼは勝利の美酒を仰いだ。


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