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走る風  作者: オッキー
1/1


それは始まりの季節でもあり、終わりの季節でもある。

そして、俺にとってはそのどちらでもある。


桜が3日前の大雨により、散りかけている事を朝の情報番組でのアナウンサーが伝えていた。

俺はその番組を見ながら朝食を食べていた。

すると、一緒に食べていた母親が

「あら、まだ4月が始まったばかりなのにもう桜は散っちゃうのね。でも今日の入学式まで散り切ってなくてよかったね。」

と言っていた。

俺は、「ああ、そうだな」と簡単な返事しかしなかった。

朝食を食べ終わり、新しい制服を来て家を出ようとすると後ろから母親が来て

「もう行く時間なの。お母さん、入学式に行けないから制服姿を撮らせて」

と言われ、写真を撮られることに関してはあまり好きではなくいつも断っているが、今回ばかりは仕方ないと思いそのお願いを受け入れることにした。


俺の名前は佐藤大翔さとうはると

今年の春から県内随一のスポーツ強豪校でもある東明高校に通う事になる高校1年生である。

自分で言うのも恥ずかしいが、中学3年生の頃に陸上の長距離で全国大会に行きギリギリ入賞の8位

に入り、それが認められスポーツ推薦で入学をすることになった。

スポーツ推薦が取れなくてもその高校には自力で行くつもりでいたので、取れた事に関しては正直意外であった。

両親と兄と妹にもお祝いされたことは今も記憶に新しい。


当時の記憶に浸っていると、突然背中に衝撃が走った。

「何、ボケっと突っ立てるの?信号、青だけど」

と言って俺の横を一人の女性が通りすぎた。

彼女の名前は杉田千里すぎたちさとで俺の幼馴染であり彼女も東明高校に陸上の短距離でスポーツ推薦入学を決めた一人である。

それに、俺の彼女でもある。

彼女の右手に持っているものをみて、さっきの衝撃はバックで叩かれたものだという事に納得した。

「わりい。ちょっと中学時代の事を思い出してた。」

そういって、彼女に続いて信号を渡った。


信号を渡ってから、彼女がにやけ顔で覗いてきた。

「なんだよ。俺の顔になにかついてるの?」と聞いた。

「いや、何もついてないけど、大翔も思いにふけることがあるんだなと思って。」

「思いにふけたら、悪いのかよ。そういうお前もそういう事あまりないじゃん。」

その言葉を聞き、俺の前に人差し指を立てて横に振った。

「ちっ、ちっ、ちっ。この千里様も時々、昔の事を考えることはありますよ。」

「意外だな。お前はいつもテンション高いからそんな事考えてないのかと思った。それに自分の事を『様』と呼ぶな」

と俺は言った。

「そういえば、大翔は何を専門にやっていくつもりなの?確か中学の時は3000メートルだったでしょ。

やっぱり5000メートル?」

と千里がいきなりまじめな質問をしてきた。

「そうだな。今の所は5000メートルのつもりでいるけど、実際に走ってみないと分からないなあ。

 そういう千里こそ中学の時に200メートルで全国大会行ってるからそれを専門にするんだろ?」

と逆に聞き返した。

「そのつもりでいるけどね。でも実際に中学の時とはすべてが違ってくるから、200メートルで結果を残せるか分からないんだよね。」

と千里にしては自信なさそうに言っていたので僕は

「おや、天下のポジティブ女性の千里様がそんなネガティブになるなんて珍しいですね。何かいけないものでも食べたんですか?」

とさっきのお返しにからかってやった。

からかわれた千里は

「うるさいな。私は結構、真面目に考えてたんだけど。あーあ、大翔のせいでそれが台無しだよ。

 もうすぐ学校だから罰として、今から学校まで私と競争だ」

「えっ、今から?これから入学式だから汗だくになりなくないんだけど。」

「私だって同じだよ。それに私はスカートを抑えながら走らないといけないから大翔の方が絶対有利だよ。」

「いや、そんな事ないと思うけど・・・」

俺の反論虚しく「よーいドン」の掛け声とともに千里は走り出した。

俺はその背中をみてついていかないといけないのかと思い走りだした。

途中、何人か同じ制服の人を抜かした気がした。

正門に着くと、すでに千里が着いていてあまり息も切れていないようだった。

俺は、「早すぎないか。さすがの俺でも千里の姿を見つけられるかと思ったけど、全然見つけられなかった。」と少し息を切らして言った。

そんな様子を見て千里は「見つけられないのは仕方ないよ。だって裏道を使ったからね。」

「ショートカットだって?それはずるいよ。」

「全然ずるくないもん。だって始める前に、裏道禁止とは言ってないからね。」

と千里は舌を出した。

「第一、なんで裏道を知ってるんだよ。春休みの特別練習に参加していた時はいつも一緒に行ってただろ。」

「そうね。あの時は一緒に行ってたけど、それからもちょくちょくこの道をランニングコースに使ってて、それで見つけたんだよね。」と言って、右の掌をを出してきた。

突然出された掌に困っていると千里が「私が勝ったから、ドリンク代ね。」

と言ってきた。

「えっ、聞いてないんだけど」と反論した。

「だって、スタートの時は言ってないもん。さっきゴールしてルール変更しました。」

と腰に手を当てて言った。

なんでもありかよと思い、俺の財布の中から小銭が消えた。


そして、いよいよ俺の高校生活が始まった。





















































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