幻想の終わり
原因の明らかな筋肉痛が3日後に来たがそれでも畑を放棄するのは出来ない。
じりじりとくる痛みに気が散らされながらも一通りの野良仕事が終わったら少しでもあの時に同じ技を撃ってもアイコにならなかった時を繰り返さない為に地面にトビを撃って全盛期に僅かにでも近づけようとした。
手始めにそのへんの枝を持ってチガヤに衝撃波を放つ、雑草のカーペットはわずかにやけど痕が残ったように土に跡ができたが地下で絡み合っている根はかたくそのまま残り、よく見ると土が吹き飛んだだけであった。
出来が良いトビの撃ちならばチガヤの根がスパンと切れている。いちおう高校生のトビを角度でいなすくらいはできているとはいえここまで威力が残念なものとは思いもしなかった。
佐藤は倉庫から土のうを引っ張り出して来て土を詰め、簡単な壁をつくった。そして積み上げてきた中でその真ん中をジェンガのように撃ち抜く練習を始めた。
表面的に土のうは破れたが一センチもずれていない。火力の弱さをまじまじと見ることとなるのは気分はあまり良くないものと捉えられる。あの部員達の言っていたのは手加減をしていたのにどうのこうのという話だったのではないかということが脳裏によぎった。
反復練習を野良仕事の最中にするようになってから少しずつ全盛期に戻っていったが、季節が変わったあたりからは一度に数センチ後体させるぐらいで頭打ちとなってこれ以上戻らなくなった。
もう一度作ってしまったブランクは佐藤が思っていた以上に重かった。ただ、シャクジョーは決してトビだけで勝つか負けるかが決まるわけではない。
そこからは時間と金を使わずに頭打ちとなったトビ以外のものを向上させることに努めた。あぜ道を毎日走り回りスタミナと呼吸器を全盛期に近づけることにシフトし、ランニングで頭打ちになったら動体視力へ、動体視力が加齢でもうだめだとわかれば体幹に同時進行で行いつつ移った。
だが、再度鍛え直して近所の体育館の団体の稽古に参加してもお山の大将格に優勢的な展開が出来るというぐらいで総合力は泣かず飛ばずであることを自分の帰ってきた熱意で証明してしまった。
皆おれに優しいから昔よりは相当弱くなったねとは言っては来ないし、そもそもひと昔前のアマチュアエリートの注目ははじめから細く短いものだったのかもしれない。
稽古に参加させて貰っているよしみでアマ一般の部に応募したが3回戦敗退だった。あの日に中華そばを食べながら本郷とやり合うことを妄想していたのを幻想が解けた今、答えてやれそうにない。