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母校の死闘

 最近まで佐藤を知っている教師はいたものの、定年でいなくなり耐震工事があったせいで校舎はわずかに面影を残すくらいなもので大概のものは変わってしまった。わずかに残った佐藤が在学した明石はせいぜい古ぼけた賞状と白くかすれたようなフィルムにうった今よりもはりのよい写真に留まっていた。


「麦茶はここでいいですか」

ひとケースの麦茶を更衣室の脇に置き、首にかけた許可証をいったん自分のカバンにしまった黄ばみがかった厚手の服に着替えた。防具はお借りしたが、これで準備は万端である。


 練習では基本的には教える側に回るほうが多かったが、錆をおとすくらいには腕を磨くことが出来た。立ち技は追いには叶わないが、組技はまだまだ通じる。


「試合練習って大丈夫ですか」

「いや、やってたのは結構前なんでフルはきついですね。2分2ラウンドくらいなら大丈夫ですよ」

自分よりもみっつ若い顧問に尋ねられそう答えるが既に身体にネジとかそういった部品があるならば早急にピットで総点検をしなければならないほどに緩み熱を発していた。それでも受けた以上はゴングが鳴る。


3年の体格のいい山笠君との戦いが始まった。するとボクシングのオーソドックスに似たの山笠は佐藤と一緒になって右回りに回るサークリングをして思い切り胴体にトビを当てやすいような姿勢であえて不利になるような展開をした。


一体何を狙っているのかが見当がつかないが小出しに衝撃波のトビを正中線をめがけてジャブのように打つ。


 それで体力を削ることになっても山笠は不利な動きを続けた。佐藤は武器を大ぶりに振り回し強度のある火球を山笠に当てようとしたそのとき、一気に若く強度のある衝撃波が手に持った合金製の剣から飛び出してきて佐藤は辛うじて数発被弾するだけで済んだ。


しかし、フェンシングのように堅く生身に致命傷ができないように出来たプロテクターとはいえ、あの日のアイスホッケーのような大きさよりは確実にダメージは通ってくる。


なんとかどっちが床でどっちが正面がわかるくらいまで持ち直したが若くて大きいのは本当に強い、こちらのお得意なタックルを山笠はかけてきて一気に場外を狙うつもりのようだ。


 とっさに腕を掴んでかかりが甘いから手からすぐにほどけてしまったが小手返しをかけられたからまた距離を取ることができ、振り出しに復帰することが出来たところでゴングが鳴った。


 薄いヘルメットを脱いだ佐藤は念の為持ってきておいた経口補水液を味で嗚咽することすらなく一度に流し込んでしまった。普段はなんとも思わないようなヘルメットはがっしりと首を下へ下へと押し下げて来る。


 ふたたびゴングが鳴り1ラウンド目の様な片方がトビを撃つのではなく、距離を取りつつも互いが半身になりお互いの外側を追いかけつづけて少しでも被弾を防ぎつつ自分のトビの命中を狙った。


赤錆が少し剥がれたくらいの佐藤とまだまだ青く山笠の威力の差は歴然であり、佐藤はそのまま火球が飛んできたからこっちも火球を出してアイコというのは出来ないと悟っていた。


佐藤は威力負けしていても命中しないよう、角度をつけてトビを逸らして凌いでいた。ただしこれは心象はあまり宜しくない。


山笠は佐藤の攻撃は脅威ではないと感じるや否やふたたび一気に飛びかかって押し倒して首を締めようとするが極めきれない、されど佐藤はポジションを逆転することも出来ない。


ゴングが鳴った。判定は小手返しの心象の貯金があったため引き分けとなったが、これは負けも同然である。佐藤には思っていたほど大きな貯金などは残っていなかった。


帰りは師範室で軽く顧問と談笑した後に着替えたが、てっきりもう帰ったと思った部員達は「あれはぜったいOBだから忖度したにきまってる」とか「あそこ絶対極められたでしょうに」、「衰えているじゃん」というような会話が聞こえてきて師範室の木製の門からはなかなか出る気が起きなかった。

 


2話分がくっついていたので分離させました。

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