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インパクトドライバー

 タバコのまずさが直ってきたころ、近所の体育館に付属している貸し会議室で組合の会合があったからパイプイスに座って話をきいていたところ、有孔ボードが消しきれなかったアリーナの騒音が聞こえてきた。


どうやらインパクトドライバーで何かを貼り付けているようで、経験者の佐藤にはこれが何をしている音なのかは予想がついた。


 ノーブランドのペットボトル緑茶を握って会議室から帰路と道草を食うところへ行く佐藤の足は軽やかであった。アリーナを覗くとやっぱり灼仗の試合設営の防火のための大道具だった。どうやら明日は小さな団体の興行があるようでそれでうるさかったわけだ。


 前日券がまだ売れ残っていたから買って興行に貢献してやったのである。ただ、じっさいに興行を見てみたらどうも不甲斐ない試合ばかりであり、ダガーナイフから光を発して目眩ましをしたと思ったらクリンチに逃げる相手にまんまと抱きつかれて発火した相手から逃げ切れないまま仲良く火だるまになってダガー側がやられてレフェリーストップとなっていた。


ほかにも2ラウンド前半を耐えきったらもう半分はおわったから衝撃波を飛んできた火の玉に撃って撃ち落として判定に逃げるというような膠着をしばらく見せつけられるというようなだらしのない試合の亜種がしばしば見受けられたからこみ上げて来るものがあった。


 メインイベントが終わったからもうさっさと帰りたいと思ったが、引き止められるオマケがあった。それは前売り券購入者限定の灼仗体験である。


アリーナに降りていき、経験者とはいえ現役プロと戦うため、防具は本物よりもやや厚くなり武器のスティックも合わさりまるでアイスホッケーの試合前かのようになった佐藤は何年ぶりかはわからないが、武者震いをさせた。

「2分2ラウンド、危険な量の電流や過度な温度変化をうけた場合は安全のためレフェリーストップになります。


それでは、がんばってください。」

 ゴングが鳴らされた。わずかな間だけ男はフットワークを大甘にして威力も極限まで抑えたショックを放ったものの、ボクシングのサウスポーのように構え右回りで円を描くようなサークリングをしつつ佐藤が衝撃波かわしたのを見た男は手加減に自身が腐心することになったことを悟った。


 ひとあし先に右回りのサークリングをすることで角度を稼ぐことができた佐藤は男の腹部に攻撃を当てやすくなったのであるが、いかんせん打てる攻撃はショックにしても火の球にしても威力としては豪速球のデッドボールくらいしかないため防具越しではなかなか損害を与えられない。しかし、佐藤はできるだけ好戦的にショックを打ち出す態度を続ける。


 すると、男も負けじとうち返してくるようになりしばしば衝撃波が空中でぶつかる炸裂音がアリーナに響くようになり、サークリングの速度が追い着かれてしまい腹部や頭部に捌ききれなかったものが命中し始める。ここでゴングがなった。

 

 重いマスクを外して渡されたプライベートブランドのスポーツドリンクに口をつける。これまでは経験者ということを隠していたから言わば騙し討ちだからそこそこ対応出来ていたといってもいい。


次のラウンドでは確実に仕留めにかかられる、とにかく早期で決着をつけないと三十路のうっすらと錆の浮き始めた肉体では戦いきれないのは明白である。


 ゴングが鳴ってから佐藤はセオリーを無視して左回りに移動する形のサークリングをして攻撃を撃ちつつも防御を固めた。


コートの場外にでてしまえば反則負けになるから流石に後ろに下がるには限界はあるものの、効いているふりをしながら後退した。


「パーン、パーンパーン」

佐藤は衝撃波の威力が効果がなくなるくらい落ちるのを承知の上で破裂音を衝撃波で起こした。

「危ない近づくなっておい、狙われているぞ。タックルくる、来るって、おい!」


セコンドの声は言わば外部の脳である。破裂音で声をかき消してやりつつ佐藤は仕掛けた。男が優勢と思い込み前に出た刹那、スティックを投げやりのように顔に投げてやってから頭突きを込めたタックルをかけてやり、真ん中から15メートル先に突っ込んで一気に場外まで持ち込もうとするが、現役はやっぱりえらいのだ。なんとか持ち直して佐藤は距離をとられ、苦手になった展開に持ち込まれた。


 一つ、またひとつ撃ち落とせない火の球が増えてきたあたりでゴングがようやく鳴らされた。佐藤の防具はぐっしょりと濡れて、すこし指で内側を押せばうっすらと汗が湧くほどであった。


たしかに汗の割にはすぐに出ていった佐藤であったが、田舎の噂は空に流れる雲よりもずっとはやくてプロ集団を返り討ちにしたとかいう誇張がされて広まり、汚名返上のための試合に呼ばれる基礎はがっちりと固まった。


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