SPD。スペシャル・ポリス・デカレンジャー、パワーレンジャー、レスキュー
星間感情調停士、と女は名乗った。
「えっと、地球圏における太陽系第3惑星の地球星の地球人、ナトリ・マイケルさんですね?」
片手に持った書類とナトリとを交互に見比べながらしゃべる女に対して、ナトリは首を縦に振った。
ナトリは、地球から少し離れた星、エーサースへと旅行に来ていた。が、その星の言ってしまうと、星港の中でスタッフに声をかけられ、あれよあれよと、その星港にある星間旅客事務局の一室に連れてこられていた。特別に理由を示されず、ほとんど、問答無用という形で連れてこられたのである。まるで取調室のような殺風景な部屋に連れてこられたナトリは、その星間感情調停士が来るまでの間、じっと一人で待っていたのである。
さらに言うと、持っていた荷物も旅客事務局のスタッフに押収されており、時間を潰すのが苦痛でしかなかった。
逮捕勾留などをされたことはないが、もし、されたとしたらこのような苦痛の時間だけで刑罰な気がする。
「あなたがどうしてこの部屋に連れてこられたか、わかりますか?」
「いいえ、わかりません」
なるほど、というように、女は首を縦に振った。
「失礼しました。あなたの文化圏では名前を名乗るのが第一でしたね。私は、星間感情調停士のププルプです」
「ぷ、何?」
「ププルプです。私アンドロメダ銀河における、いえ、止めておきましょう」
ププルプと名乗った女は、少し怒ったように書類を机の上に置いた。
ナトリはびっくりと肩を自然と竦める。
「あなたが入星した時、手に持っていた物がこの星の、エーサース星人の感情に触れ、トラブルを起こす恐れがあるため隔離されました」
「え? そんな大したものは持っていないよ」
「それがこちらです」
ププルプが取り出したのは、携帯端末だった。
ナトリの携帯端末で、背面にはハートのシールを貼っている。
「この星ではアップル製品は禁止です。また、あなたはSonyの製品も持っていました。これらの製品はこの星では、いらぬトラブルを発生させます」
「そんな、ただの製品だ」
「いいえ、エーサースにおいて、これらの会社の製品を持っているのは、自由ファックの意思表示となります」
「自由……何?」
「自由ファックです。ああ、この返答をすると聞かれるので先に言いますが、このファックは、性的関係を持つという訳ではなく、顔面タコ殴りを意味します。つまり、あなたはこの製品をこの星で使用すると、間違いなく暴行を加えられます」
「そんな」
さらに、とププルプは背面のハートのシールを指さした。
「これは非常に危険です」
「なんで? ハートだ。可愛いじゃないか、愛と平和だ」
「この星では、命は要りません、と理解されます」
ナトリは愕然とした。
そんなナトリをよそにププルプは、大真面目な顔で語り掛ける。
「いいですか? こんなのは、序の口です。いいですか? 本の序の口です、マジで」
これを読んでください。
と、ププルプが取り出したのは、筒状に丸められた紙だった。それを手に取ると、いくつもの条項が書かれているのに気付いた。まず人前でガムを噛んだ時はガムを相手に差し出すこと、人の目を見て話してはならず、耳を見て話すこと、など色々な禁止事項が記載されていた。
「これがこの星の人々との関係を良好に保つために必要な事柄です」
「そんな」
「いいですか? あなたは確か、この星に一週間、地球時間でいるんです。生きて帰れるかどうかがかかっています」
そんな大げさな、とナトリは思いながらも、携帯端末の背面からハートのシールをはがし、念を押してくるププルプを尻目にナトリはエーサース星に降り立つ。最も、ナトリだって無事に帰りたい、巻物のようなずらずらとした羅列の禁止事項を人目につかないところで読み終え、そこに書いてある事項を守って過ごした。
ホテルについて、一人、部屋でようやっとくつろぐ。
なんという緊張した日か。
深く息を吐き出して、ホテルの窓を開ける。涼しい風が部屋に吹き込んできた。
「大丈夫だ。あと、六日、生きた心地がしないだけだ」
ナトリは自らに言い聞かせるようにそう呟いた。
もっとも、自由ファックについては興味がある。
しばらく考えてから、ナトリはぱっと思いついたように部屋を出て、街へと繰り出した。
それから、一週間後、ププルプは、入出星ゲートで仕事をしていた時だった。パスポートと身分証、そして、ウィルス除去処置を受けてもらい、宇宙船へと積み込まれていく旅客たちを見ながら、トラブルがないか、見張る。そんな折、一人の地球人が目に入った。
ボロボロになったナトリだった。
ナトリは、あっとププルプを見つけて近寄ってくる。
「あ、あんた、言ったじゃないか!」
「なにが?」
「アップルやソニー製品を持っていたら、自由ファックできるって。そしたら、この様だ! 街中にいたやつを自由ファックしようとしたら、返り討ちにあったぞ!」
そうまくし立てるナトリを、ププルプは呆れた顔で見ながら首を横に振った。
「いいですか? ボコボコにされているからって反撃してはいけない、とは言っていませんよ?」