コールド・ザ・デーモン 番外編 ハロウィンよ。永遠に
今回は、ハロウィンということで短編を書いてみました。
※この物語は本編に関係しません。
なんなら、あっちの世界にはハロウィンって概念がありません。
ですので、時間軸や細かい設定など気にせず楽しんでください。
――
ある日のフォルネとリアム…
「んー、疲れたー!」
もうすっかり秋だ。
そろそろ雪が降る季節だな。
寒いの苦手だから、嫌だなぁ…
そういえば、今日は何日だ? ここに来てから、何日が経っただろう。
そういうのは、しっかりと測っておかないとな。
「フォルネ! 明日はハロウィンだね」
ハロウィンって…もうそんな季節か。
ハロウィンか…
ハロウィンってのは確か、仮装したりお菓子貰ったりするやつだよな。
そういうのにはあまり縁がなかったから、よくわからないけど。
「ハロウィンって…俺達はそれより魔神軍を倒さなきゃだろ?」
リアムは頬をぷくっと膨らませ、珍しく怒った。
(といってもおふざけ程度だが)
「たまには息抜きも大切でしょ? フォルネだって、ずっと戦うのは嫌だよね? ね?」
なんという圧…
そんな圧を出してまで、リアムはハロウィンに遊びたいのか…
「ま、いいか。そんなに急いでいる訳でもないしな」
そう言うと、リアムは飛び跳ねて喜んだ。
そんなに飛び跳ねると、宿が壊れるぞ。
と言ったらなぐられた。
なんか悪いことを言ってしまったのだろうか。
女心というのは永遠に理解できる気がしない。
「で、ハロウィンに何すんだ?」
「えっとね〜」
リアムは少し悩んだ後、こう言った。
「仮装!!!!」
仮装って…まじか。
あ、でもちょっと楽しそうかもな。
それじゃ、ちょっと頑張ってみますか。
「分かった! じゃ、やるか!」
ニコッと可愛らしい笑顔を浮かべ、リアムは街へと足を運ばせた―――
「ふーん」
店には、仮装用の道具や服が多く売っていた。
魔物やおとぎ話に登場する人物などの姿を模倣するために、こんな物を売っているのか。
故郷でも、こういうのあったな。
パッチンが俺の前でゴブリンの仮装して笑わしてくれたっけな…
懐かしい。
「フォルネ、なに笑ってるの?」
「いや、なんでもない。それより、なんの格好するんだ?」
どうせ仮装をするなら、しっかり決めて行きたい。
クオリティの高いものにしよう。
「私はもう決めてるんだ!」
「え、まじ? 早くない?」
「ずっっっと前からこの日を楽しみに待ってたからね!」
もし俺に断られてたら、どうするつもりだったんだよ。
「私は…えっとね、これこれ!」
大量にある服を掻き分けて取り出したのは、一際目立った猫の着ぐるみだった。
「リアム…それ着るのか?」
「え? そうだよ。可愛いでしょ!」
可愛いというか…なんというか。
本当にそれでいいんだろうか。
「フォルネは?」
あ、そういえば俺も仮装すんのか…
うーん…なんかの本の登場人物とかかな。
「じゃあ俺は、『レティムの冒険録』のレティムにするよ」
レティムの冒険録とは、およそ200万年前に存在したレティムの冒険録である。
世界でもかなり読まれていて、結構メジャーなキャラだ。
レティムの外見は、ツンとした銀髪に蒼色の瞳を持った美しい男性だ。
その外見は、今でも女性ファンがつくほどの美しさらしい。
そんな人、やっぱり俺には合わない気もしてきた。
第1…俺はレティムみたいに格好良くないし、ゴブリン
とかの仮装でもいい気がしてきた。
「いいじゃん! 似合うと思う!」
まあ、どうせ1日しか着ないんだ。
そんなにこだわる必要も無いか。
そう思い、俺とリアムはそれぞれの仮装用の服を買った。
―― ハロウィン当日
ついにハロウィンだ。
楽しみにしていた訳じゃないが、気分が上がるな。
ほ、本当に楽しみにしてた訳じゃないんだぞ。
いや、嘘。結構楽しみにしてた。
なんなら昨日寝れなかった…のは内緒だぞ。
よし、リアムの部屋に行くか。
あ、仮装すんの忘れてた。
一番重要なやつなのに。
服はかなり複雑な作りだ。
流石仮装用の服といったところか。
かなり着づらかったが、なんとか着ることが出来た。
ま、クオリティはまあまあだな。
「フォールネ!」
ドアをコンコンと叩く音がした。
この扉の向こう側にいる声の主は…
幼い声ながらも、その声には頼り甲斐のある何かが含まれているような…
「入るね!」
俺の返事を待たずに入ってきたのは、もちろんリアムだ。
リアムは、暑そうな着ぐるみを着こなしていた。
かなり似合ってはいたが、それよりも暑そう。という感情のほうが勝った。
「それじゃあいこ! ハロウィンは1日中やるからね〜!」
外は、かぼちゃのランプや仮装をしている人で溢れていた。
この街全体が、お祭り状態になっているようだ。
息が詰まる。
こんなんじゃ、マトモに動けやしないな。
リアムを見失わないようにしないと…
そう思い、俺は横を見た。
そこには、先程まで居たリアムはいなかった。
その代わり、中年のタンクトップの男が荒い息をたてて隣にいた。
俺は反射的にその中年の男に、叫んでしまった。
「お前誰だよッ!!!!!!」
その男は、自分の自己紹介を始めた。
「ミウラ・トモゾウ。45歳…独身、無職です」
ああ、なんだか可哀想だな。この人。
申し訳なくなってきた。
「あ…それはごめんなさい。トモゾウさん」
俺が頭を下げて謝罪をすると、トモゾウは申し訳無さそうに言った。
「はは、いいんですよ。今の嘘ですしね」
え…なんだこいつ。
俺は困惑を隠せなかった。
急に自己紹介するし…いやそれは俺のせいだけど。
嘘つくし…
俺このじいさん嫌いかも…
「独身と無職ってのは本当ですけどね」
トモゾウはげらげらと笑い始めて、ついには腹を抱えて寝転び始めた。
「ひひひ! ぎゃはははは!」
「もう行っていいですか? 俺急いでるんですけど」
「え? あ、ご自由に」
やっぱ嫌いだ。コイツ。
「フォルネー! どこなのーーー!」
人混みの中から、俺を呼ぶ声が聞こえた。
この声は、リアムだ。
リアムも、俺を探しているんだ。
よし、行こう。
「ちょっと避けてくださーい! すいません!」
人混みを掻き分け、声の元へと一歩一歩進む。
そして、やっと見つけた。
リアムがそこにいた。
「あ、フォルネ! 見つけた〜」
合流出来たことだし、そろそろハロウィンらしいことをするか。
「リアム。ちょっと捕まってろ〜」
「え? うん…」
人混みの中で、何かをするのは困難だ。
なら、別の空いた場所へ移動するしかない…!
「はぁあ!!」
フォルネが地面を思いきり蹴り、二人は空高く浮遊する。
その地面は、フォルネの素の脚力と脚力増加靴の力によりクレーターが出来ていた。
「たっけ〜!!!」
下を見渡すと、人が米粒のように集まっている。
その一つ一つの粒が、人間だということが信じられない。
「フォルネ! あれみて!」
リアムが指差す方向には、巨大なジャック・オ・ランタンが浮かんでいた。
そのジャック・オ・ランタンは、ハロウィンの始まりを祝福するかの如く、オレンジ色に輝いていた。
人混みも少し減ってきた。
皆、食事の時間だろう。
まあ、俺達もご飯たべてるんだけどな。
「ね、これ美味しいよ」
全ての料理がハロウィン仕様に切り替わっている。
なんか特別感あっていいな。
いつもよりも美味しく感じる。
「ねぇ、聞いてる?」
「あ、ごめん。ご飯食べてて気づかなかった」
「なにそれ!」
リアムは華奢な笑顔をしていた。
こんな笑顔が、ずっと見られたら良いのにな…
でも、いつかは旅も終わる。
別れも来る。
覚悟は…しておかな―――
「ほら、あーん」
リアムはそう言うと、カボチャのケーキを俺の口の中へと突っ込んだ。
急に入れられたから、喉が詰まりそうだった。
だがそれよりも、カボチャのケーキがうまい事に気づいた。
普段、そうゆう『カボチャの』系は食わず嫌いをして食べなかったから、これからは食べよう。
そう誓った。
にしても、もう仮装が崩れてきたな。
そりゃもう日暮れだ。
起きてから、何時間経ってるんだって話だし。
そろそろ…帰るか。
「まだハロウィンは終わってないよ」
リアムが机をドンと叩き、俺へ訴えかけた。
「ハロウィンは! 夜からでしょ?」
あ〜、そうでした。
本心を言うと、結構面倒くさい。
「部屋で寝たら、叩き起こすよ!」
――夜11時半―――
「おい、リアム起きろ」
リアムは寝室で寝ていた。
自分が一番ぐっすりじゃないか。
俺には寝るなってさっき言ったくせに。
「んー、もうちょっと」
「もう11時半だけど。日付変わるよ」
リアムはその言葉で起きた。
かなりビックリしたみたいだ。
なんでだよ…
「よし! いこう!!!」
切り替えはっや…!
ま、良いことだけどさ。
仮装はせず、宿屋の戸を開いた。
外は暗く、昼のような活気は無かった。
ハロウィン仕様に施された街灯が、暗い道を照らしている。
人は朝に比べれば少ないとはいえ、まだまだ人の数は多い。
「なんかすごいね。ガチの仮装してる人がいっぱいいる…」
まあ確かに、朝みたいな安っぽい仮装じゃなくて金がかかってそうな凄い仮装だ。
時間もめちゃくちゃかけてんだろうな…
「ねぇ君、そんなガキと一緒にいないでさぁ、俺と一緒にどっか行かね?」
一人のヤンチャそうな男がリアムに話しかけた。
リアムは苛ついているのか、眉間に皺を寄せていた。
「無理。あんたみたいな男」
「そう言わずにさぁ…ね?」
その時だ。
「う゛ッ!」
ナンパ男が、突然倒れた。
それからその他の人々が、次々と倒れていった。
なんの前振りもなく、突然と。
バッタバッタと、何者かに操作されているかのように倒れた。
そして、倒れた者は皆死んでいた。
「え、何…あれ。フォルネ不味いよこれ!」
「あぁ…このままだと、外にいるやつ全員が倒れちまうんじゃ…!」
こうして話をしている間にも、また人が倒れている。
まさか、遠くから攻撃してるのか…?
だとすれば、俺とリアムも…!
「リアム! 結界を張れ!」
「え!?」
恐らく…次は俺とリアムが攻撃される。
もう既に、他の連中はみんな死んでるんだ。
狙われるとしたら、俺らしか…
「『炎の踊り』!」
リアムが結界を張った直後、結界へと何かがぶつかった。
恐らく魔法による攻撃だ。
「なになに!? やっぱり攻撃?」
やはり俺等を狙ってきたか。
だが残念。
こっちは結界に守られてるんだ。
お前から攻撃することはできない。
で、どこだ。
攻撃してきてる奴は。
いや、この魔法がどこから飛んできたのかを考えれば分かる話じゃないか。
方角は南西。
南西から、魔法が飛んできた。
「奴がいるのは南西だ。いや、まだ確定したことは分からないけど…可能性はかなり高いと思う」
「OK! フォルネ…準備万端だよ!」
随分用意が早いな。
さっすがリアム。
「結界を解いて、次の攻撃を待つんだ。次の攻撃が来た瞬間、リアムもその方角に魔法をぶっ放せ」
「わかったよ。結界、321で解くからね」
「頼む」
「3〜 2〜 1!」
結界解除!
リアムを守れ。
その時、南西から光の玉が高速で飛んできた。
やはり、敵は南西に潜んでいたのか。
何発かなら、攻撃を受けても俺は無事でいられる。
「来た! 『炎帝』ぅう!!!」
凄まじい音をたてて、炎帝は南西へと飛んだ。
炎弾は、光の玉を衝突し、相殺された。
これで敵の位置が分かった。
ちゃっちゃとぶっ殺す。
「おいおい、待ってよ」
南西から、一人の男…? が飛んできた。
かぼちゃの被り物をしていて、服装はおとぎ話に出てきそうなタイプのヴァンパイアの服だ。
敵…だよな。
コイツが街の人を殺した奴か。
許せねぇ…。
「僕の名前は『Mr.パンプキンマスク』。ある呪いでね。かぼちゃが頭から外れないんだ。はは、面白いだろ?」
「Mr.パンプキン。そんな事はどうでもいい。何故街の人を殺した!」
パンプキンマスクは数秒考えた後、こう答えた。
「んー、ハロウィンだから…かな。僕さ、普段はこの頭、変に思われるんだけどさ、ハロウィンの日だけは変に思われないんだよね。だからさ、みんなを永遠にハロウィンに閉じ込めてやろうと思って! そしたら僕はもう殴られたりしない!」
そんなくだらない…いや、コイツからしたら辛かったのか。
好きでもないかぼちゃの被り物を被せられて、そのせいで殴られたりして
「そりゃ…なんか大変だな。でも、殺すのは駄目だ!」
「えー、殺したりする以外に、ハロウィンに閉じ込める方法ある? あるならそうするけど」
「んー、毎日ハロウィンにすればいいんだよ。明日も、明後日も」
「面倒臭いな。もう殺して良い? 君達もハロウィンに閉じ込めるからさ」
殺しに抵抗無さすぎだろ…
今まで何人殺ったんだ。
「フォルネ、コイツ…強い」
ああ、リアム。分かってる。
だから戦闘は避けたいんだ。
こいつとマトモに戦いたくない。
「じゃーねー。 『パンプキンガン』」
指を銃の形に変え、狙いを定める。
どちらにしようか。
女か、男か。
男にしよう。
まず男を殺して、女を絶望させよう。
血のハロウィンだ。
「BAN!」
パンプキンマスクの指先から、光の玉。
いや、小さなかぼちゃが発射された。
かぼちゃってのはかなり硬い。
一般人なら殺せるレベルに…ってそれは言い過ぎか。
それを、あんなスピードで当てられたら…
それに、このかぼちゃは魔力による強化が施されている。
ただのかぼちゃとは違う。
「BAN! BAN!」
ただ、かぼちゃは斬れば良いだけだ。
逃げ切れる。
「ふーん。やるじゃん。僕のパンプキンガンを切るなんて…それじゃあこれはどうかな。『パンプキンボム』!」
あ?
足元に、ごろんと大きなかぼちゃが転がっていた。
なんだ。かぼちゃが飛んできた。
今度は早くもない…
なんのためのかぼちゃだよ。
「起爆」
「フォルネ! それ危ない!」
え?
かぼちゃから、光が発せられている。
そして熱風。
もしかして、爆弾?
この、カボチャ爆弾だったのか!
気づいた時には遅い。
既に、爆発している。
こんなに至近距離で爆発を喰らえば、俺は死ぬ。
それか、死にかけ―――
「うっ!!」
爆発をもろに喰らった…。
身体中が痛い。
足の肉が抉れて、動けない。
回復魔法を…
「フォルネ、動かないで。『癒やしの暴風』。」
そうか。
リアムはノーコストで回復魔法を撃てるんだ。
みるみる内に、俺の怪我が治っていく。
これが、中位魔法 『癒やしの暴風』 の力。
下位魔法とは、やっぱりレベルが違う。
「oh、回復魔法を使われちゃったかぁ」
パンプキンは、地に降りた。
すらっとした身体だ。
だが、Mr.パンプキンマスクの恐ろしい所は多分打撃攻撃じゃない。
道具を使った攻撃や、魔法による攻撃だ。
殴り合いなら、俺でも勝てる。
「ふふ、まだ気付いてないんだね。君達の足元、見てみてよ」
足元…?
足元を見ると、蜘蛛の糸がそこら中に張り巡らされていた。
身動きがとれない…!
蜘蛛の糸に足を取られて、思うように動かない。
「『パンプキン・フォーエバー』」
新技かよ!
辺り一面が真っ暗になった。
リアムの顔すら見えない。
だけど、コツコツと歩く音だけが聞こえる。
カボチャ野郎の足音か。
ボォっと明かりが灯る。
ジャック・オ・ランタン? だよな。
よく見えないけど、ジャック・オ・ランタンが沢山ある。
人影。
頭が歪な形をした人影だ。
かぼちゃ野郎か。
「さあ、ショーの始まりだ!」
指をパチンと鳴らす音がした後、暗闇からMr.パンプキンが大量に出てきた。
分身術?
だとしても物凄い数だ。
捉えきれない。
「『炎虎』!」
リアムも戦っている。
俺も戦わなければならない。
「 属性変化 『雷炎』!」
属性同士の融合!
炎雷剣だ。
「はぁ!!」
パンプキンの分身を斬りまくる。
だが、いくら斬ってもキリがない。
無限と言っても過言ではないほど、いつまでも出てくる。
「はあ… フォルネ。こいつら弱いけど、キリがないよ。ちゃちゃっと本体叩かなきゃ!」
そうだな。
Mr.パンプキン本体をぶっ倒せば、この分身共も出てこなくなるか。
「おっけ!」
最後に近づいてきた分身を斬る。
だが、何か違和感がある。
他の分身とは何か違う感触だ。
空気を斬るみたいに倒す分身とは違って、今は肉を斬る感じの感触が…
って…まさか。
「う…ぅ、ガクッ」
今斬ったのが本体かよ…!
なんだ。随分呆気なかったな。
「え、フォルネ…倒したの? それが本体?」
「みたい…だな。なんかすげぇ呆気なかったよ」
まあ、倒せたんだから一件落着。
これで被害は増えないだろう。
「う…はっ! こ、小僧。お、覚えておけよ! 俺様はまた、次のハロウィンにやって来るからなぁ〜!」
そういうと、パンプキンは消えていった。
ほんと、なんだったんだ。
来年って…おれらは生きてるかどうかすら分からないっつーのにな。
「ね、フォルネ。あれ見て」
あれは、巨大なジャック・オ・ランタンがいくつも飛んでいるのか。
さっきは1つだけだったのに。
「また来年も…一緒に見ようね。ジャック・オ・ランタン」
「来年のハロウィンもまた、アイツと戦わなきゃいけないみたいだしな。まあ見れるよう頑張るよ」
「うん!」
そうだ。
俺は魔神軍を倒して、平和な世界を取り戻すんだ。
そして、リアムと一緒にまたジャックオランタンを見よう!
街にはジャック・オ・ランタンの明かりと、Mr.パンプキンの笑い声が轟いていたのだった…
来年も出来たらこんな感じの短編を書こうと思ってるので、お楽しみに。