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砂嵐と宇宙の夜明け

作者: 月下の覇王樹

かつてのアナログ放送のテレビでは、何の放送も無いチャンネルをかけると「砂嵐」というものが起こった。英語では雪嵐と呼ぶらしく、白と黒のノイズのみの画面。

砂嵐は海の波の様に「滞りなく変化し続けるという一様さ」を示す。放送波が無いのに何を元に変化する映像を作り出しているのかというと、自然界には元々微弱な電波、地球上での電荷の動きもその原因であろうし、太陽から降り注ぐ帯電粒子の風も原因の一つであろうが、昼も夜も砂嵐は変わり映えしない砂嵐にしか見えないという事は、あらゆる方向からほぼ均一にやってくる、「宇宙背景放射」に由来する特徴だ、と言ってもいい。

宇宙背景放射は、夜の暗く見える部分、闇の最も奥からやってくる光である。矛盾する様だが、この闇は原初の光である。宇宙空間がその度合いの加減速はあれど、ずっと膨張し続けて来たという事実を逆回しにすると、かつては大変小さな一点より始まった、という単純な推論が成り立つ。余りに物質(エネルギーと呼ぶべきだろうか?)の密度が高いと、光すら自由に進めないという極地が生じる。自由に進めない事に因って、見えない。見えなければ、存在するという断言もより難しくなる。

この事は、宇宙がある程度膨張して初めて光が直進できる様になったという事実を示唆する。この事象を「宇宙の晴れ上がり」と呼び、宇宙背景放射は宇宙の晴れ上がりからやって来る光だと考えられる。

光に進む速さがあるという事。それは見えるという事が、すべからく過去から情報を受け取るという事なのだと教える。

ここで宇宙空間(延いては空間一般)というものに対する、大いなる矛盾が生ずる。

無限に大きく「広がっている」様に見える夜空、宇宙空間は、全て今現在程には膨張していなかった過去の宇宙である、という事。しかも遠くを見れば見る程に古い過去が見える訳であるから、その最奥では一点に等しい程の原初の狭い宇宙空間が見えている筈であり、これが即ち宇宙背景放射の全方位での一様さの正体である。

つまりここにこそ大いなる矛盾が浮彫りになる。見えるという事と、在るという事との隔たりが。最も小さな私の身体こそが最も拡がった先端にある空間の中に在り、その一方で遠く遠く離れている夜空の果ては余りに小さい空間に由来する光に因って像を結んでいる為に一様な闇にしか見えない、という事実。宇宙の最奥、過去の最奥である宇宙の晴れ上がりは、現在を構成するあらゆる物の種であり最密であるにも関わらず、この眼にはそれ以上無の真空に近く見える物は他に無い。そんな過去に、私という現在は取り囲まれてある。私より大きく見えなければ認識の空洞が生じてしまうはずの、私の周りに広がる小さな過去。それは私達の認識に、常識とは違うものを導入する必要を、未だに強制し続けている。

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