3.ロリ神
「この宿ならば、粗暴な輩が寄り付くことはありません。金貨の保管も、チェストに入れておけば問題はないでしょう」
先程、受付で鍵を借りた宝箱のような形をした箱に、兵士が金貨の入った袋を入れてくれた。
「それでは、私はこれで」
「はい、案内ありがとうございました」
これで役割は終わったと、兵士は部屋から出ていった。
俺が今いるのは、とある宿屋の一室だ。
丞相と取引をした後、兵士に連れられて城下へ案内されてここにやってきている。
城から出た時は、もしかしたらこれはいたずらで、外には日本のどこかの風景があるのではと、一瞬期待してしまった。
しかし、当然そんなこともなく、城を取り囲っているのであろう城壁を超えると、ヨーロッパみたいな町並みが広がってる光景を目にして、若干の落ち込みと好奇心が入り混じった変な感情になってしまった。
本当、ここまで案内されている間は、レジャー施設にでもいる気分だったわ。
さてと、ここからどうするか……。
この世界にきて初めて一人になり俺は改めて考える。
まず、帰ろうと思っても帰れる状況でもないってことは、頭に入れておこう。
俺が日本に戻るには、あの三人が魔王ってのを倒さないと、どうにもならなそうだからだ。
しかも、魔王を倒したとしても、本当に帰れるのか怪しい。
召喚ができたのだから帰還させることも可能かもしれないが、どうもあの王様に胡散臭さを感じて、言っていることを信じられなかったんだよな。
じゃあ、帰れないなら何をすればいいかと考えても、一切なにも浮かばない。
何やら俺には転移とかいうスキルがあるらしいけど、あの鎧のおっさんの反応を見る限り、珍しいがそこまで有用な力ではなさそうだから、この世界で何かをするっていう案が浮かんでこない。
この世界の様子だと、地球の知識が役に立つ場面がありそうだから、そっちを使ってどうにかってのが可能性としてはありそうだ。
でも、まだこの世界がどれほどのものなのか分かっていないのだから、それは早計ってやつだろう。
……いやまあ、金はあるんだしゆっくり考えればいいか。
焦っても仕方ないと、とりあえず目の前にあるベッドへ寝転んでみた。
昔のヨーロッパみたいな世界でも、意外とベッドは不満なく寝られるレベルで柔らかい。
もっとこう、なんだよこのベッドは、藁なんて敷いてるのか!? ぐらいのことを言ってみたかった。
一泊で銀貨五枚――金貨にして半分の値段がする、お高いらしい宿だからだろうけどな。
横になって考えを反芻していると、急に手持ち無沙汰になった。
することもない訳だし、とりあえずここは精神を落ち着かせるためにも……
こんなことなら、スマホは手放さなかったほうが良かったな。
あの中にはえちちな電子書籍が入ってたし。
「あぁ~、そういや何か拭ける物ってあるか…………え? 誰?」
”ようやく落ち着いた様子だから声をかけようかと思ったら、いきなり下半身を露出しおって……。このような状況でよくそんな気になれるのじゃ。お前、頭がおかしいのではないか?”
拭けそうな物でもないかとベッドの周りを見ていたら、突然俺の直ぐ側に見た目が小学校高学年ぐらいの褐色肌に白髪の女の子が立っていた。
フリルの付いた可愛らしい黒いドレスを身に着けて、腕を組んで仁王立ちをするその顔は恐ろしいほどに整っていて、ちょっと吊り目なところが生意気そうでとても良い。
「ついに俺だけが見える美少女が生み出されちまった……。いや、ここは異世界だ。もしかしてこれは俺の隠しスキル!?」
”そんな力はお前にはない。良いから、それをしまって姿勢を正せ”
褐色肌の白髪ロリっ子が、もろ出しの下半身を指差してきた。
俺は急いでそれをしまってベッドの上に正座する。
”うむ、良いな? 我の名はミラ。主神カラミティール様にお使えする下僕の一柱なのじゃ。この世界にお前を召喚した者と言えば良いかのう”
ふんっ! と鼻から息を吹きドヤ顔をするロリっ子が可愛い。
なんか不思議ちゃんみたいなことを言っているけど、それもまた可愛い。
「えっと、王様じゃなくて、ミラちゃんが俺を召喚したってこと?」
”なっ!? ミラ様と呼べ! ふんっ、我がお前を召喚したと、今そう言ったじゃろ”
「はぁ……そうなんだ。てか、いきなり現れたけど神様なの?」
”どこをどう見ても神じゃろ”
「可愛さは神レベルだけど、見た目キッズじゃん」
”ッ!? お前、不敬が過ぎるぞ!?”
「えっ怖。いきなりそんなにキレなくても良くないか?」
”……先程の者たちと我に対する態度が大分違うのじゃが?”
「神様だとしても、勝手に呼び出した挙げ句、俺の息子を凝視した奴に遠慮はいらないなって」
”っ!? ど、どんな理屈なのじゃ!? お前の考えが全く分からん!!”
「良いから続きをはよ」
俺は相手によって態度を変える人間だ。
特に女子供には強い。
”……他世界の者とは、これほどにこの世界の者と乖離した精神性をもっているのか!? ぐうぅ……まあ良いのじゃ。えっと、何じゃったか……。そうじゃ、お前に教えてやることがあり、我はここに顕現したのじゃ。我に時間はあまりない。良いか、心して聞くのじゃぞ?”
「そうなんだ~。それで?」
”……お前には隠された力がある。今からそれを開放してやろうと思っているのじゃが、興味はあるか?”
「俺に隠された力だと!? すげえ怪しいけど、何かくれるってこと?」
このロリっ子が本当に神様なのか疑わしいが、さっきから頭の中に直接話しかけるみたいな変な会話方法をとってくるし、音もなくいきなり目の前に現れたんだから、何か力を持った存在なのは間違いないだろう。
こんな美少女が俺に何かをしてくれるならば、受け入る以外の選択肢はない。
”まあ、最初からくれてやることは決めていたから、お前の意見などどうでも良いのじゃが”
「じゃあ、何で聞いたんだよ……」
”ほれ、やるから腹をこっちに出せ”
「はぁ? なんか怖いんだけど」
”良いからこれを食らうのじゃ!! 往生せい!!”
目にも留まらぬ速さでステップインしてきたロリっ子が、俺の腹へと右ストレートを放つとその瞬間、爆発でもしたんじゃないかと思うほどの衝撃と痛みが腹を襲い、俺はその場に崩れ落ちた。
「ぐうぁぁぁぁ痛ッてええええええええぇ!? ミラちゃん何しやがる!?」
”フンッ、無礼なお前に、お仕置きのおまけじゃ。じゃが、それでお前の転移スキルには新たな機能が追加されたのじゃ。では、我は帰る。そのうちまた殴りに来るから忘れるでないぞ? ではなぁ~”
俺に特大の痛みを与えたミラちゃんが、最後に清々しい笑顔をしながら消えていった。
「……消えやがった。てか、まじで一体何だったんだ……?」
人の楽しみを邪魔した挙げ句、ボディブローをかまして帰っていったが、あれが俺に何をしたかったのか分からない。
謎のロリっ子襲撃に戸惑いつつも、まだ痛む腹を撫でながら起き上がると、床に何かが落ちていることに気が付いた。
「何だこの玉は……。ん……? これって……」
その時だった、俺はこの淡く光を放つ球体が何なのか理解が出来た。
それだけではない。
先程あのロリっ子が俺に拳を放った結果、どんな力を与えてくれたのかも、突然思い出したかのように頭の中に知識が流れ込んできた。
「はぁ……なるほどねえ。あの子が神様ってのは本当っぽいな。それにしても、この力は……」
俺はあのロリっ子に改変された、転移スキルがどれほど使えるものなのか考える。
この力は使いようによって、かなりの可能性を持っているんじゃないだろうかと思わせるのだが、まだ一度も使ったことのない力だから、本当に機能するのかと怪しんでいる自分もいる。
まあ、考えていても仕方がない。
これから色々分かっていくだろう。
どうやら俺の異世界物語ってやつは、ここからが本当の始まりのようだからだ。
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