18.到達と展望
女冒険者と出会った次の日も、ある意味で出会いがあった。
やたらとユフィーに絡んでくる二人組の男がいたのだ。
「ほら見ろ、俺は三本剣の冒険者だから安心だぞ?」
一人は剣と言うにはあまりにも大きすぎる鉄板のような大剣を背負った、やたらとデカくてハゲで粗暴な雰囲気を持つ男。
奴はギルドの紋章をユフィーに見せて、どうだ? と迫っている。
てか、三本剣って何?
「ギャハハハハ、やめろやめろ、嬢ちゃんが困ってるじゃねえか。なあ?」
もう一人は弓を背負い、ゲーム出てくるザ狩人みたいな帽子を深く被った声のデカい男。
両方とも俺の一回りは上だろう年齢に見える。
二人は俺らとすれ違うと突然振り向いて、武器を持っているのが何故ユフィーだけなのかと聞いてきた。
無視をしても良かったのだろうが、人の良いユフィーが律儀に答えてしまったのだ。
この子って、時々育ちの良いお嬢様って感じのボケ出してくるんだよな。
でも、流石に何度も誘ってくるハゲにユフィーも引いている。
「お前ら、まだ冒険者になり始めなんだろ? 俺らがちゃーんといろはを教えてやるから、明日から一緒に行動しようぜ?」
「えっ、いえ、結構です……」
「遠慮をするなっての! そっちのお前も剣ぐらい使えるようにしてやるから、この嬢ちゃんを説得してくれねえか?」
「いえいえいえいえ、俺らは二人で大丈夫ですから。お二人のお手を煩わすことなんで出来ませんよー」
こんな奴らには下出に出て、早く帰らせるのが一番だ。
しつこいハゲとのやり取りは数分続き、二人で断り続けていたらようやく諦めたようだ。
「俺が手取り足取り冒険者としての初歩を教えてやろうと思ったのになあ。分かってくれよ、俺は心配してるんだぜ? はぁ、仕方がねえな」
「ギャハハハ、振られたな! ザマアねえぜゴンス! ギャハハハッ!」
……案外簡単に引き下がったな。
この道は他にも人通りがあるから、無茶なことは出来ないのかもな。
二度と現れないでくれゴンス。
二人が去ったので、俺はしょんぼりしているユフィーの前に立ってお説教だ。
「ユフィーさんよ、あまり他人に色々話しちゃうのはあれだよ?」
「す、すみません……。私も不用意過ぎたと反省しています」
「分かれば良いんだ。でも、困った。ユフィーはすげえ可愛いから、これからも絡まれるかも」
「うぅー、顔を隠した方が良いでしょうか?」
「いや、それだと可愛い顔を俺が見れなくなるから、そのままでいいわ」
「……そ、そんなに可愛いです?」
「俺は、お前を、顔で選んだ。今まで見てきた女の子の中で一番可愛いわ。 まあ、それは最初だけで今はもちろん内面も可愛いと思ってるけどな」
「へ、へへっ」
おい何だ、可愛いって言われて嬉しいのか。
ニヤニヤするんじゃねえ。
それも可愛いぞ。
まあ、そんなこんながあったりで、異世界の日々は進んでいく。
狩りをしては、それを売ってスキルオーブを手に入れたり、身の回りの物を集めたり。
夜は連日スキル上げという目的と建前で、ユフィーと楽しく過ごしている。
それらの中で成長を感じることもある。
ユフィーは俺を相手にするのに慣れてきたし、俺もコブリンや狼などの首を遠慮ないに切り落とせるようになった。
ユフィーに関しては、俺が丁寧にしっかりとねっとり教えた結果だ。
俺に関しては……ユフィーが身動きの取れないゴブリンたちを地面に並べては、毎回俺に首を切り落せとか、心臓を突き刺せとか、アディキルトン家のやり方という一撃で相手を殺せる場所の講義をしてきた。
お陰で今じゃ並べられたゴブリンも、ぽぽんのぽんで首切断よ。
完全に麻痺ったねこれ。
可愛そうだねえ……ぐらいの感想しか浮かばないもん。
殺しの英才教育、おっかなすぎ。
そんな、ジェノサイドの日々を過ごしていれば、その日はやってきた。
「……どうだ? スキルは上がったか?」
「はい! 三になりました! あぁ、凄い……。私が剣術スキル三を手に入れるなんて……」
ユフィーは余程うれしのか、自分を抱きしめるようにして目尻を光らせている。
「それじゃあ、明日からはもっと活躍してもらわないとな。……なあ、こういうのって、訓練を積んで得るものなんだろ? ユフィーだって、スキル一を手に入れるために頑張ってたって言うし、こんなあっさりスキルを手にして、本当に良かったのか?」
「……そうですね、確かに思うところはあります。ですが、アディキルトン家の家訓の一つに、目的の為ならば時には手段を選ばぬこととあります。ですので、どの様な形でもスキルが得られたことが嬉しいのです」
また何となくおっかない家訓を出してきたが、本人が良しとするならば問題ないな。
彼女は言葉を途切れさすと、少し姿勢を正した。
「ダイキ様、本当にありがとうございます。改めまして、この生命尽きる時までダイキ様にお仕え致すことをお許しください」
「お、おう。嬉しいが、そこまで言わんでもいいんじゃないか?」
「そんな事はありません。この様な神の如き力を使い、私に奇跡を起こして頂いたのです。生涯を持ってお仕え致します」
「……死ぬまで俺の奴隷でいるの?」
「はい、当然です」
何故ここまで言えるのだろう。
この子にとって、スキルを得られたことはそれ程のことなのか?
「流石にずっと奴隷のままって考えはなかったんだけど」
「解放を考えて頂けたのですか? う~~ん。ですが、奴隷の方がダイキ様のモノ、という気持ちが強く持てます。ですから、奴隷のままで結構です」
俺を見つめる彼女の瞳が、一瞬やたらと熱を持った――いや、狂気を感じさせる瞳に見えた。
「……急にヤンデレみたいにならないでくれ」
「やん? 何ですかそれは?」
「い、いや、気にしないでくれ。まあ、これからも宜しくな?」
「はいっ!」
うむ。
ひまわりの花のような爛漫な笑顔に戻ってくれて俺は嬉しいよ。
とりあえずの目標だった、ユフィーの強化が済んだので、次はどうするかだ。
最初はこのままユフィーの剣術スキルを四にする考えもあったのだが、今は止めている。
森で狩りをするには十分すぎる力だし、スキルレベル四にするには、三六個のスキルオーブが必要だったからだ。
最初に聞いた時は、この程度で上がるのかと笑ってしまった。
だが、それはさほど簡単なことじゃなかったと、今さっき分かったんだ。
「ちょっと、値段が高くても出してほしいんですよ。駄目ですかね?」
「だから、本当にもうないよ? 剣術のスキルオーブはお客さんが買い占めたからねえ。私だって他の商店から融通して貰って店に品物を揃えてたんだから。もう王都の主な商店には残ってないと思うよ?」
最初にスキルオーブを買った商店の旦那が、頭を掻きながら注文を断った。
俺が王都の色々な店を見回って買ったスキルオーブの数は一〇個程度だ。
安物なのに数がない。
いや需要がないから数がないのか?
とにかく値段交渉をしてもこんな感じだから、本当にないんだろう。
「じゃあ、次っていつ頃入りそうですか?」
「うーん、未定だねえ。ほら、最近は冒険者が戦争に駆り出されてて少ないし、大規模な神殿建設が各地であったでしょ? あれであっちの方が安全に稼げるからって、スキル一のスキルオーブを取るような冒険者がいないってさ」
戦争ってあれだろ?
魔王と戦ってるってやつだろ?
それは知ってたけど、戦時に神殿建設なんかしてんのか。
異世界の政治はよく分からんねえ。
「この辺で諦めて、早く他で売りさばいた方が良いんじゃない? ここで品薄なら、地方都市はもっとだろうから儲けは増えそうだろうね。それを狙ってたんでしょ?」
「ま、まま、そうっすね」
「ははっ、そうか。新人冒険者の小銭稼ぎとしては良いよね。壊れる心配がなくてさ。冒険者はすーぐ物を壊すから、下手な物を輸送するより安全だよねえ」
転売目的だと思われてたのか。
まあ、そりゃそうだよな。
普通の人間は一回使えばもうスキルオーブは必要なくなるんだし、こんな量を買い込んでたらそう思われるよな。
少し店主と話を膨らませると、地方都市とかでは入手が結構難しいってことが分かった。
うーん、スキルオーブは俺の力を使うのには大事な存在だから、ここを離れると手に入れられないのは困るな。
今日は休みにしていたので、店を出た後は昼には宿に戻ってきた。
買ってきた焼き菓子や果物やらの入った袋を机に並べているユフィーに手招きをすると、「何でしょうか!」としっぽを振っているわんちゃんのように近づいてきた。
「なあユフィー、スキルオーブってどこで取れるの?」
「恩寵のダンジョンです!」
「恩寵の……ダンジョン?」
「はい、太陽と月がまだ一つだった時代に、神がお作りになられたダンジョンだとされています。内部は魔物の巣窟となっており、最奥に到達出来れば神からの恩寵を頂けるらしいです」
分かっていたさ、やっぱりあるんだなダンジョン……
神様の話とか出てきたけど、とりあえずダンジョンに行けば直接取れるってことだろう。
それなら、王都を出てそっちに移動するのもありだよな。
他にも何か聞きたいことはあるかと待ち構えているユフィーの頭を撫でて、俺はもう一つ彼女に質問した。
「今の保有スキルを、一度確認していいか?」
「はい、剣術三、盾術一、槍術一、裁縫二です」
剣術と言う時に声を弾ませるのが愛らしすぎる。
うん、順調なんだよね。
これなら俺のスキル上げを始めても良いな。
やる気に繋がりますので、是非お気に入り登録と評価を頂ければと思います。