16.俺だって色々考えるさ
今日も王都への帰り道は、狼の死体を背負っての移動だ。
「はぁ……何で森を出るってのに、狼を見つけちまうんだ」
「少しでも稼げた方が良いと思ったのですが……」
「……そうだな。文句を言った俺が悪かった。すまん。くぅ、魔道具のカバンってのが欲しい」
実際どこまで入るか知らないが、この世界にあるらしい魔法のカバンってのを手に入れたい。
じゃないと、狩りのたびにこんな数十キロもある死体を担ぐハメになる。
笑えねえよ。
「あの、ダイキ様? 以前に転移スキルがあるとおっしゃっていましたが、使わないのですか?」
「……え? あぁ、そうだった! 忘れてたわ!」
俺はすっかり自分のスキルってやつを忘れていた!
だが、これは仕方がないだろう。
今までの人生で、スキルなんてものは一切存在しなかったんだし。
転移スキルで移動範囲を探ってみると、相変わらず二、三百メートル先にしか駄目なようだ。
それでも今の俺からしたら結構でかい。
「悪いな、俺はスキルを使って飛ぶぞ」
「はい、その場で休んでいてください。すぐに追いつきます」
んじゃ、一旦さらばだ。
転移スキルを使うと一瞬で目的地の王都へ近づいた。
このペースだとあと五回ぐらいってところかな。
連発は無理だから、使えてあと一回程度だろうけど。
「ふぅ、これで大分楽ができた気がするなぁ、ってユフィーの分も背負ってやればよかったか。……いや、それは無理か」
狼の死体を二体も担いだら、俺が潰れちまうから無理だな。
重い死体を地面に下ろし、近くにあった岩に腰掛ける。
道の後方では、俺と一緒に歩いていた時の倍は早い速度で歩いてくるユフィーが見える。
それでも追いつくには数分掛かりそうだ。
待っている間はやることもないので、少し赤くなり始めた空と、その下にある小さな穂をつけ始めている小麦畑を眺め、漠然と思いに馳せる。
「日本は春が見え隠れしてた時期で少し肌寒かったけど、こっちは結構温かいんだよなぁ……。そういうや、会社はどうなってんだろう。無断欠勤が続けば当然首だよなぁ……。つうか、家……。家賃とかは口座にある金で当分問題ないとしても、捜索願とか出されたら勝手に入られたりするのか? 。あっ、冷蔵庫の中身が腐るぞ……。はぁ、考えるだけ無駄か。どうせ当分帰れないだし、本当に当分なのかさえ怪しいしなぁ……」
何故か今まで考えていなかったことが、次々と頭の中をよぎってしまう。
「あぁっ! こっちに思考が流れるのは駄目な傾向だぞ。そうだ、今の俺はなんだかんだで、美少女を好き放題出来るっていう幸せ状態。むしろ、会社なんてどうでもいいレベルだった」
その辺のアイドルなんて、目じゃないレベルの美少女が俺の物。
それも、日本じゃ絶対に手を出せないようなロリっ子ちゃんだ。
今まで日本で暮らした全てを失うとしても、俺は断然ユフィーを選ぶよな。
うむ、もうこっちで生きるかな。
「そうだ、そうだ。あんな可愛い子といちゃこらできてるんだ。これを幸せと言わず何を幸せだっているだ。最高じゃねえか。それに俺にはミラちゃんに貰った力もある。余裕だろこれ。あっ、そういえば、自分のスキルの確認をしてねえんだった。まあ、見たところで変化はないだろうけど」
思考が前向きな方向へ進んでいたら、ふと一度もギルドの紋章を使うステータスの確認をしていないことを思い出した。
方法に関してはもう聞いているので実行してみる。
右手の甲にあるギルドの紋章へと、俺の能力を問いかけるようにすると、タブレットサイズの四角い光の板が、手の甲の上でホログラムのように浮かび上がった。
「……これ魔法の一部なんだよな? なんか、オーバーテクノロジー感が過ぎねえか」
しかもこれ、自分にしか見えないっていうんだから、更にそう感じる。
どう見てもSFな光景に口があんぐりしてしまう。
この世界って、もしかしてナノテクノロジーとかが行き着いた先の世界とか……?
んで、それが滅んでこんなシステムだけが残ってるとか?
うーん、有り得そうだわ。
そんな妄想をしながら、俺はステータスの確認をする。
「ん~と、あぁ、これって力とか、素早さとか、そういうステータスは見れないのか」
ステータスには、名前と所持しているスキルのみが書かれていて、他の項目は見当たらない。
俺の場合は、古都里大輝という名前と、転移 一(?????)という二つが書かれている。
「……なんだこのハテナは? これが普通なのか?」
直感的にだが、これが正常な状態には思えない。
多少気になるが、他人に見られることはないんだから、気にする必要はないか。
どうせあれのせいだろ的な存在がいるわけだし。
しかし、スキル一つは寂し過ぎる。
早く金を稼いで俺もスキルを集めたいぜ。
そんなことを考えていると、ユフィーがもう間近に迫っていた。
「ダ、ダイキ様!」
軽く息を切らした彼女は、何故か困惑した様子だ。
「どしたの?」
「どうしたのではありません! どうやって移動をしたのですか!?」
「ん? 転移って言っただろ?」
「転移は、あのように一瞬で発動するスキルではありません!」
「……そういうことか」
ロリ神様は俺の転移スキルに、他にも追加で機能を付けてくれていたらしい。
あのハテナってこれのことなのか?
「俺は召喚された人間だから、転移スキルがちょっと他とは違うのかもな」
「そう言われると、納得せざるを得ませんが……。あっ、一応確認なのですが、街中で使ったりはしていませんよね?」
「あ~二回ぐらい使ったかな? なんで?」
「街中で転移スキルを使うことはご法度です。場合によっては処罰されますし、転移スキルを持っていると知られると、移動に制限が掛けられる場合がありますから、出来る限り隠蔽した方が良いと思います」
まあ、そりゃそうか。
距離に制限があるけど、この仕様だと行ったことのある場所ならば、壁とか関係なく移動出来るんだしな。
心配顔をして忠告してくれたユフィーに礼を言おうと、彼女に一歩近づいたその時、俺はあることに気がついた。
「そういや、俺って王の間に入ってんだよね。もしかして、ヤバい?」
「……城内部には、転移などの移動系スキルを、阻害する仕組みが施されてると思いますので、見逃されたのだと思います」
「あぁ、そういうことか。なら問題なさそうだな」
こんなスキルがあったら、下手すりゃ自爆特攻とか余裕で出来るし、対策ぐらいするよな。
「うし、休んだし帰るか。ユフィーは休憩いるか?」
「問題ありません。このまま帰りましょう」
まだまだ元気なユフィーに休憩は不要のようだ。
王都に戻ったらまずは冒険者ギルドに向かう。
今日は体力に余裕があるので一緒に受付へ行くと、犬耳の受付嬢が俺に手招きをした。
「私は森の浅い場所で、採集を勧めたと記憶していますが? 何故連日、獣や亜人を狩られているのですか?」
受付嬢は何故か少し怒っている。
「その採取目的の草が全く見当たらないんで、少し奥に入った結果、戦闘になったんですよ」
「朝陽草が見当たらなかったのですか。彼女も同意しているようですし、嘘ではないのですね」
俺の後ろでユフィーがうんうんとうなずいてるのを見て、納得したようだ。
おい、俺だけだったら嘘だと思ったってことか!?
ふざけんなっつうの。
「それならば仕方がありませんが、二人なのですからあまり無茶はいけませんよ? あの様な場所でも命を落とす方はいるのですから、しっかり安全対策をしてください」
……何だよ。
心配してくれたってことかよ。
心の中だけど、悪態ついて悪かったよ。
心優しき受付嬢から今日の儲けを受け取った俺たちは、次に商店へと足を向けた。
「剣術を二個買うから、まけてくださいよ」
「えっ、同じスキルオーブを二個買うのかい? 珍しいねえ。二人で使うつもりかい? まあ、それなら少しはまけてもいいけど、大丈夫かい? スキルオーブのことを知らないで買うとか言わないでくれよ?」
「えぇ、ちゃんと理解してますから問題ないですよ。それで、幾らにしてくれます?」
「ん~、なら二つで金貨一枚でいいよ。魔法系と違ってこっちはあまり売れないしねえ」
おっ、銀貨二枚分もまけてくれるのか。
かなり太っ腹だな。
「じゃあ、買い物は終えたし宿に戻ろうか、ユフィー」
店を出て隣に並ぶユフィーに声をかけると、彼女は小さく頷いた。
返事がはっきりしてないなと思い彼女の様子を見てみれば、顔を赤くして俯いていた。
どうやら、俺から漏れ出た下心を感じ取ったらしい。
これは、この後されることでも想像してるな……
俺はそんな彼女の肩に手をかけ、今日も美味しく頂きますと前もって言っておいたのだった。。
やる気に繋がりますので、是非お気に入り登録と評価を頂ければと思います。