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15.スキルのお話

 異世界生活も三日目。

 俺とユフィーは高級宿を引き払い、朝一で次に泊まる宿屋へとやってきていた。


「思ったよりいい宿だな。ユフィーもここなら安心だろ?」

「私よりダイキ様の安全を確保する方が大事です」

「俺としては、ユフィーに何かある方がやなんだけど」

「そのお言葉は嬉しいですが、私の立場としては素直に喜んで良いのか……」


 うむ、今日も朝から真面目なご様子だ。

 昨夜も仲良くしたから、心の距離も近づいて良いねえ。


 ギルドで紹介された宿は、想像していた以上にまともな宿だった。

 中年の夫婦が経営していて、調度品とか設備とかは質素だけど、小綺麗だし対応もフレンドリーだが丁寧で雰囲気が良い。

 これで風呂があれば良かったんだが、流石にこの価格帯じゃ無理らしい。

 体を洗うのは外にある井戸でやることになりそうだな。


「うし、宿の確保も出来たし、次はスキルオーブを見に行くぞ。どこに行くべき?」

「では、この道沿いにある商店に参りましょう。宿を探している時に見かけました」

「おぉ、出来る子だねえ。ご褒美に、その辺にある屋台で好きな物を買ってきていいぞ」

「では……あの魚を所望します!」


 食い物に関してあまり遠慮をしないユフィーに銅貨を渡すと走っていった。

 魚三匹で銅貨一枚だったんだが結構高くねえか?

 銅貨五枚で夕食付きの中級ぐらいだっていう宿に泊まれちゃうんだぞ?

 まあいいや、美味そうに食っってる可愛い顔が見れたし。

 てかこれ、川魚か?

 淡白な味だな。

 んっ?

 ユフィーの視線が、俺が持っているまだ手を付けていないもう一匹に注がれてるんだが?

 はいはい、こっちのお魚も全部あげるよ。

 朝からよく食うねえ。


 食いながら歩けばすぐにスキルオーブが売ってるらしい商店に着いた。

 日本で言えば、こじんまりとしたブティックみたいな佇まいだ。

 木製ドアを開けて中に入ると、生活用品などが雑多な感じで並んでいる。


「なあ、ここにスキルオーブが売ってるのか?」

「……もしかしたら間違えたかも知れません」


 申し訳なさそうにしているユフィーの頭を撫でて、俺はカウンターでこちらの様子を伺っているおっさんに話しかけた。


「スキルオーブってあります?」

「えぇ、置いてますよ。何のスキルが欲しいんで?」

「おっ、あるんですね。値段と相談なんで、何が幾らか簡単に知りたいんですけど」

「え~っとねえ、今は剣術と槍術と盾術と……生産では料理と後は書写がありますねえ。あぁ、魔法系は今はないですねえ。この前売り切れたのを忘れてたなぁ」


 おっさんはカウンターの下でごちゃごちゃとスキルオーブの確認をしているが、あまり丁寧に扱ってる様子がない。


「書写が銀貨一〇ね。他は銀貨六枚でいいよ。どれが欲しいので?」

「今手持ちがあまりないので、余裕ができ次第買いに来ますよ」

「おぉ、そうかい? じゃあ、またの来店を待ってるよ」


 冷やかしをするなと怒られると思ったが、おっさんの対応はあっさりしたものだった。

 珍しくもないやり取りなのかもな。

 何にしても買うのは帰ってきてからだ。


 昼前には森にたどり着き、薬草探しの始まりだ。

 俺は真面目に地面を見つめて薬草を探す。

 だが、ユフィーの視線は地面ではなく森の奥へと向けられている。

 昨日、あれだけ言ったのにどう考えても狩りの対象を探してるよな。

 まあ、周囲の警戒をしてるとでも思えばいいか……

 昨夜も楽しく過ごせたから、ついつい甘くなってしまう。

 それに、本人が戦いたがっているんだし、いいよな。


 正直なところ、もう少し安全マージンを取りたいが、まだ見つけたこともない一房で銅貨一枚程度にしかならない朝陽草より、一匹で銅貨三枚のゴブリンを狩った方が楽だろうから、俺の気持ちも大分そちらに向いてる。

 昨日の様子を見る限り、俺でも刃物を持っていないゴブリン一匹ならば素手でも戦えそうだけど、問題はあれを殺せるかってことだよな。

 狼を躊躇なく斬り殺したユフィーなら、ゴブリンもお構いなしに殺すんだろうけど、あれだけでかい生き物を殺す経験なんてないから、実際に出来るのかやってみないと分からない。

 でもまあ、いつ帰れるか分からない状況なんだし、奴隷とはいえユフィーに全部任せるのは違うから、俺もヤレるようにしねえとな……

 こういうのって慣れだろうし。


 ということで、今俺の目の前にはゴブリン五匹が木の棒を持って牙を剥き出し威嚇しており、隣では瞳を怪しく輝かしたユフィーが剣を構えてゴブリン達を牽制している。


「どうしてこうなった!?」

「奇襲の手段を失ったのですから、正面から戦うしかないです!」

「それはお前のせいだろ! 逃げりゃよかったんだし!」

「ですが、見つけてしまいましたし、向こうも我らを発見したのですから、仕方がないのでは?」

「お前、先に気づいてただろ!? まじでやめろよ! 今度やったら、お前が嫌がってたあれを、何時間もやってやるからな!?」

「なっ!? そ、それはご褒美――いえ、なんという酷いことを!?」


 つい今し方、ユフィーは何かに気づいた素振りを見せると注意深くそちらを確認し、ゴブリンがいると報告してきた。

 そこまでは良かったのだが、こいつは何を思ったのか、いやどう考えても戦おうと思ったんだろう、率先してゴブリンに近づき始めたんだ。

 それを俺が制しようと思ったのも束の間、ユフィーが草むらを掻き分けたせいで、ゴブリン達にこちらの存在を気づかれてしまい対峙する羽目になった。

 こいつ本当に戦いたがりすぎだろ。

 というか、昨日嫌がってたあれを、本当は気に入ってたのかよ……

 気持ちよさそうにしてたしねえ!


「あぁ、もういいわ! ユフィー、責任持って片付けろ。それと、一匹だけは殺さずに逃げられないようにしてくれ」

「承知いたしました!」


 俺の言葉を合図にユフィーが猟犬のように飛び出し、ゴブリンに斬りかかる。

 ゴブリン相手に剣術スキル二ってのは圧倒的なのか、瞬く間にゴブリンは斬り殺され、残りは足を深く斬られ地面に倒れた一匹となる。

 すっきり顔のユフィーが剣に着いた血を払うとこちらに来た。


「ご命令通り、一匹を残しましたが、どうされるのですか?」

「その剣を渡してくれ。俺がとどめを刺す」

「とどめですか?」

「あぁ、俺も殺すことに慣れないと、今後危ない気がしてるからな」

「そういうことでしたか。では、心臓を狙って突いてください。私も初めての時はそうするよう教わりました」


 彼女が殺すことに躊躇がないってのは、やっぱりそういう教育を受けてるってことか。


 ユフィーから剣を受け取りゴブリンの上にまたがる。

 両手で握った剣の柄を頭の高さまで上げ、勢いをつけてゴブリンの胸目がけて下ろした。

 ズッと剣が生肉に突き刺さっていく感覚、刺さった箇所からドバっと溢れ出す真っ赤な血、断末魔の絶叫が耳を劈き、禁忌を犯した感覚が襲ってくる。

 恐怖と絶望に染まった顔が、俺に向けられていることに嫌悪感が凄まじい。

 許しを乞うようなゴブリンの視線はやがて、力のない虚空を見つめるものとなる。

 俺はようやく終わったかと剣を引き抜きユフィーに手渡した。


「はぁ……。そこまで抵抗はなかったけど、いい気分はしねえな」

「歴戦の騎士でも最初はそうだったと聞いています。ですが、慣れますから心配はいりません。ダイキ様は初めてでも冷静に一突きで処理できたのです。凄いのですよ?」


 俺の震える手を握ったユフィーの笑顔を見て、なんとも言えない気持ちになってしまった。

 俺のやったことは何一つ間違ってないと肯定してくれている。

 天使の笑顔なのに、それは悪魔の囁きにも感じられたからだ。

 ……いや、俺を思ってなんだよな。

 まだ二日っていう短い付き合いだけど、この子はそういう腹芸みたいなことはしないはずだ。

 この世界じゃ、俺の考えの方が異端なのだろうから。


「今後は止めを刺させてもらいたいから、余裕がある時は生かしてくれ」

「分かりました。私にお任せください。アディキルトンの名にかけて、必ずダイキ様も敵を討ち滅ぼすことを、躊躇なく行えるようにしてみせます」

「お、おう……頼むわ」


 その後はひたすら狩りの時間となった。

 森の奥までずんずん進んでいき、何かを見つけ次第ユフィーが突撃していく。

 それにしても、この森には狩りの対象が結構出てくる。

 主にゴブリンだったのだが、何でこんなに大量にいるのかと不思議に思うほどだ。


「そうですね、ゴブリンは三ヶ月間隔で子を産み落とし、その子も三ヶ月程度で大体育ちますから、それを維持できる食料があり、彼らを脅かす存在がなければ簡単に増えて広がってしまうのです」

「それにしても、多すぎないか? こんな街の近くなのに」

「それは私も感じました。もしかしたらですが、これまで他の冒険者に会っていないので、この場所は不人気なのかもしれません」

「不人気って、稼げねえ場所ってことか?」

「そうだと思います。本来であれば、この森の外縁部で新人冒険者などが薬草採取に励んだりするのでしょうが、取り尽くされているのか全く見つけることが出来ませんでした。ですが、少し奥へ入ると亜人や狼が出ましたから、新人には荷が重い場所になっているのだと思います」

「なるほどねえ。じゃあ剣術二がなけりゃ、俺らもこんな稼げなかったのか。なあ、ユフィー。剣術スキルの二ってこの世界じゃどのぐらいの扱いになるの? 休憩がてらに教えてよ」

「私が説明できるのは、冒険者ではなく兵が基準になりますが、それでよろしければ」


 ユフィーが言うには、スキルは五が最高位とされており、兵士のランク的には一で兵卒、二で部隊長クラスになり兵卒相手ならば数人相手をしても余裕で戦えるらしい。

 三になると騎士団程度の組織を率いれて、兵卒ならば五、六十人の相手は出来るようになる。

 四になると伯爵家クラスの騎士団ならば、戦い方によっては一人でも互角に渡り合え、その国で数えるほどの実力者となるらしい。

 ただ、これはあくまで全てが兵卒を基準にしているので、実際はその中に実力者が混ざれば状況は変わるんだとか。

 いくら個人の武が凄まじくても、そこまで無双は出来ないってことかな。


「それで、五は?」

「過去にこの大陸で覇権を握った方や、厄災級の力を持つ竜などを討伐した方が、何かしらのスキルが五だったという話は残っています」

「伝説のお話的なこと?」

「はい、私が知る限りでは、現在五に到達した者がいると聞いたことはありません」

「俺の力があれば、案外簡単になれそうな気がしてるんだけど」

「そ、それは流石に……ないですよね?」

「いや、分からんけど。試すしかないね」


 その他にも色々聞いた。

 魔法などはスキルを持っていないと発動しないだとか、鍛冶や大工などの生産職的なスキルもあるってことや、ユフィーは裁縫スキルが二だから、針と糸などがあれば服の補修などは出来るとか、俺の知らない情報が満載だった。

 話していたら結構時間が経ってしまった。

 ある程度稼げてるし、今日はもう王都に帰るかな。

やる気に繋がりますので、是非お気に入り登録と評価を頂ければと思います。

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