13.狩りの後
「かぁぁぁぁ、疲れた体に染みるぅう!」
ザバンと湯船に体を沈めると心の底から声が出た。
ここ数年で一番であろう疲労が、俺の体から湯の中に溶けていくようだ。
「ユフィーもおいでよ、体が冷めるし」
「は、はい」
俺の体を流して次に自分の体を清めていたユフィーが、少し緊張した顔で湯船に入ってくる。
俺の正体を明かしてから大分距離が縮んだと思ったけど、流石に全裸のふれあいになると、羞恥心で硬くなってるな。
まあ、だからといって遠慮しないけど。
こちらに綺麗な背中を見せ俺の上に腰を下ろした彼女を、後ろから抱きしめた。
「はぁ……。倍癒やされる。ユフィーが入って来たら神聖な湯に変化したんじゃないか?」
「そんなことは……。あっ、あの、手、手が、触れてるのですが……」
そりゃ後ろから抱きしめたら色々あたっちゃうよね。
でも、風呂は一つだし水の入れ替えとかないんだし仕方がない。
「収まりが良いから置いてるだけだよ。気にしないでくれ。てか、慣れてくれ」
「うぅ……分かりました……」
うむ、主様には逆らわない良い子だ。
それにしても、美少女との混浴は格別の癒やしだな。
癒やされすぎて、眠りに落ちそうだからその前に色々また質問だ。
「また質問責めになるけど教えてくれるか?」
「は、はひっ、何でしょうか!?」
「スキルでさ、勝手に解体をしてくれるスキルとかないの?」
「う~ん……その様なスキルは、聞いたことがありません」
「そうか、あれば便利だなと思ったんだけどな」
ゴブリンの耳を切ったり、狼の内蔵を抜き取ったり皮を剥いだりは、かなりの重労働だった。 主にユフィーが剣を器用に使ってやってくれたんだが、手伝いの俺でも大変だったんだし、そういうスキルがあれば良いなと作業をしながら思っていた。
「軍で魔物狩りをした際には、魔道具に収納して持ち帰り、解体を生業にしている者に任せていたと思いますので、冒険者もそうしているのではないでしょうか」
「それって、あの狼とかを、まるっと全部持ち運べる道具があるってこと?」
「そうです。あの量ですと魔道具のランクとしてしては中級に行かないぐらいでしょうか? 収納できれば重量は魔道具の重さだけになりますから、とても楽になると思います」
「はぁ、なにそれ、絶対に欲しい。でも、お高いんだろ?」
「そうですね……確か、ムグダム国の金貨で数十枚はしたはずかと思います。金貨の価値は同じ扱いでしたから、この国でもその程度はすると思います」
「やっぱり、ほいっと買える値段じゃないか。利便性を考えたら当然だよな」
超便利アイテムの登場に心が躍ったが、今の俺にはそう簡単に手が出ないようだ。
「そういやさ、あのゴブリンとか狼って普通にいたけど、国が兵士派遣して討伐とかしないの?」
「そうですね、私の領地では定期的に街の周辺や街道などに兵を巡回させ、盗賊や魔物などを壊滅させていましたが、それでも小さな群れや、気配に敏感な獣などは、すぐに逃げ出してしまいますので殲滅をさせることは難しいのです。ですから、ギルドへは狩りそこねた魔物などの討伐を行うよう命じているのです。小規模で行動する冒険者の方が、少数の相手は向いているのです。兵は基本、街の治安維持や、城の警備など他に仕事がありますので」
さすが元貴族令嬢様。
世の仕組みをよく理解していらっしゃる。
でもまあ、そうだよな。
国が治安維持をしないとか、意味が分からないし。
「なるほどねえ、命じてるってことは、ギルドは国が運営してるの?」
「はい、この国もそうだと思います」
王が権力を持った国で、支配下にない武装組織が堂々と街中で店を構えるとかねえよな。
「なら次だけど、スキルオーブって幾らぐらいするもんだか分かる?」
「たしか、スキル値が一の物ならば、希少な物でなければ銀貨五枚もあれば買えると思います」
「えぇ、そんな安物なのあれ。もうちょい価値のある物だと思ってたわ」
「スキルオーブは希少な物ですが、スキル値一ですとあまり使いたがる方がいないので……」
「そういや、あの時泣いてたな」
「……あれは、泣かない方がおかしいのです」
こちらに横顔を見せるユフィーが、頬を膨らませて初めて拗ねた顔を見せた。
可愛いかよ。
もう少し話を聞きたいが、体は大分温まったし疲れた心も癒やされたので、次は飯の時間だ。
一階に下りてフロントの案内のままに身を任せ席についた。
その際、ユフィーは普通に俺の対面に座った。
奴隷だから床で食べますとかはないらしい。
しばらく待つと運ばれてきたのは、厚いステーキ肉とその付け合せにパンだった。
「んっ!? 驚きです。新鮮な肉を使っているのでしょうか? これほどの肉は久しぶりに味わいます! とても美味しいです! ダイキ様、奴隷の私にこの様な物を頂きありがとうございます」
「ユフィーが喜んでくれて嬉しいよ。でも、いちいち礼なんて、今後は要らないからな」
彼女は双角牛とかいう名前のステーキ肉を笑顔で頬張っているが、俺はそこまで喜べてない。
まあ、美味いは美味い。
牛って名前が付いてるだけあって、味は基本牛肉だ。
やや独特の臭みが感じられるが、それを打ち消す香草が良い風味をしているし、程よい硬さが食いごたえ満載で腹を満たしてくれる。
でも、正直言うとこんな物かという感想の方が大きい。
何というか、近所のスーパーにでも行けば、自分でも作れそうな味なんだ。
前に同僚と行った鉄板焼きで食った、和牛の方が何倍も美味かったなと思ってしまっている。
ユフィーの分を追加で銀貨一枚払ったぐらいだし、ここは相場的に結構お高い宿だって思ってから何だかなぁ。
いや、赤身肉と霜降りを比べるなって話か……
部屋に戻りベッドの上に腰掛けた俺は、居場所に困っているユフィーを隣に座らせた。
「明日は宿屋の確保からしようか。その後に、スキルオーブを売っている所に行きたいな」
「はい、分かりました」
「このペースだと一日に一個は買えそうだけど、今日の成果って結局のところ薬草収集が狩りになった結果だしな。同じように稼げるとは思えないから、数日に一つって感じになるか」
「獣や亜人を狩った方が実入りが良いのですから、明日もそうしましょう」
「そうなんだけど、いくら通用するといってもユフィーだけを戦わせるのがちょっとねえ」
「私なら構いません。お任せください!」
「……自分が戦いたいだけだろ?」
「……ち、違いますよ?」
首を振って否定しているが、その焦り顔はどう考えても図星だったってことだろ。
「まあ、いいや。明日もあの森に行こう。基本は収集だけど、何かいたら狩るってことで」
「頑張って探します!」
「どっちをだよ。そのやる気が心配なんだけど……」
いくら戦う力が手に入ったからって、こうも好戦的になるもんか?
こいつ戦闘狂かよ。
「んじゃ、今後の方針として、第一にスキルオーブの入手で、それ以外は生活の安定だな」
「はい、ダイキ様のお力になれるよう頑張ります!」
俺の言葉を下知とでも思ってるのが、ユフィーの顔が引き締まり強い瞳が向けられた。
俺の正体を明かすまで見せていた怯えが消え、信用と言うか、これは何だろうか、憧れに近いような感情を感じる。
でも、こんな可愛い顔をして熱い視線を送られたら、もう我慢が出来ないよ?
俺は彼女の体を抱き寄せ話しかける。
「じゃあ、俺の力になってくれるらしいユフィーには、スキルオーブを手に入れた時に困らないよう、その練習に付き合って貰おうかな?」
「あっ……。は、はい……。頑張ります……」
空気が変わったことを察したのか、真面目な顔から一転して、真っ赤な顔に変わったユフィーをベッドに寝かせてスキル転移の訓練を始めたのだった。
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