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11.別にそこまで内密でなくてもいいけど

 装備を買ったので、用意は出来たと城門の前までやってきた。


「はぁ、近くで見るとこっちは高えな……」


 おまけで貰った布バッグの位置を直し、四階建てのビルはありそうな城壁を見上げて唸った。

 外敵から守られてる感が凄いわ。


 外と繋がる城壁も、出る時は呆気ないもので顔を見られた程度で素通りだ。

 でも、入る側はチェックをされるみたいだから、帰りは時間がかかるかもな。


「外は畑だらけなんだな」


 王都の外に出てまず目に入ったのは、見渡す限りに広がる畑の姿だった。

 城門から伸びる一本道の脇には至るところで農作業に従事している人がいる。

 左右を見てみてもずっと畑が広がっているので、多分王都の周りはこんな様子なのだろう。


「森ってのは……あれか?」


 距離的にして二キロは余裕であるだろうか?

 少し遠いから薄っすらとしか見えないが、濃い緑色をした塊が広がっている場所がある。

 周りにも同じ様な森らしき物は見えるけど、あれが一番近そうだからそうだろう。

 まあ、とりあえず行くしかないな。


「ダイキ様、やはり私がそのバッグを持ちます」

「剣と鎧を身に着けてるんだ、これぐらいは俺に持たせてくれ」

「しかし……」


 歩いて少しすると、近づいてきたユフィーがバッグを渡せとせがんできた。


「なんでそんなに持ちたがるかねえ。森に行くってなった時も自分で戦う気満々だったし、貴族って普通そういうのやりたがらないなじゃないの?」

「そうですね……貴族であればそうなるのかもしれません。ですが、私は主に仕えるべく教育を施されていましたので」

「よく分からんけど、そういう方針の家なの?」


 俺の質問にユフィーは姿勢を正すと真面目な表情をして答える。


「我がアディキルトン家は、代々王の剣としてお側に着く役職を頂いていましたので、時に従者としての立ち振る舞いも必要になり、幼少の時より様々なことに対処できるよう教育を受けるのです。奴隷の身となった私にとって今はダイキ様が主です。主に尽すことは当たり前だと思っているのですが、ご迷惑でしょうか……」

「はぁ、貴族にもそういう家があるんだねえ。まあ、色々やってくれるのは助かるから、程々に頼むわ。それにしても、普通に会話してくれるようになったな。……昨日はやり色々しちゃったから、嫌われてもおかしくないと思ってたからな」

「え? あっ、き、昨日の……ですか……。そ、それは、ダイキ様は優しくしていただける主なのだと思い私も頑張ろうと」


 それで心を開いちゃうとか、この子ってもしかしてちょろいのか?


 森まではまだ距離があるので、他愛も無い話がまだ続く。

 主に俺からの質問だけど、ユフィーはしっかりと答えてくれる。


「後はそうだな……あぁ、スキルって普通どうやって確認してるんだ?」

「スキルの確認ですか……? 普通、というものは分かりませんが、私はスキルを確認出来る魔道具を使用して自分のスキルを見ました。ですが、今はこれがありますから、この場でも確認が出来……えっ!? な、何でっ!?」


 こちらへ手の甲を見せたユフィーだったが、途中で急に口を大きく開け慌てふためいた。


「いきなり、どうした?」

「い、いえ、昨日使ったスキルオーブは間違いなく『剣術 一』だったはずですが……何故か二になっていて……。こ、こんなこと……私が……剣術スキルを……」

「あぁ、そうだね、二になっているよね。良かったわ」


 昨夜、彼女にしたちょっとしたことによって、俺の『剣術 一』がちゃんと彼女に転移して、その数値を上げたようだな。


 あのロリ神様に貰った力は、所持しているスキルを他者へと渡し融合させる能力だ。

 いや、転移なんだしスキルをスキルの中に転移した結果が、融合になっているのだろうか?

 同じスキルじゃないと弾かれてしまうことや、体を触れ合わせていないと発動しないこととか、条件はあるのだが、なんとも馬鹿馬鹿しくもこんな力を持って大丈夫なのかと思うほどの可能性を秘めた能力だ。

 ちなみに、まだもう一つ出来ることがあるんだけど、それはまた今度試す予定だ。


 俺はまだ驚きに震えているユフィーに質問をする。


「魔道具を使うって言ってたけど、こんな便利なものを使ってなかったの?」

「えっ、あっ、そ、その、貴族はあまりこの手の魔法を好みませんので……」

「あぁ、なるほど」


 俺も同じことを思ったが、ギルド登録ってやつは、奴隷契約の魔法と同じ系統の物に見えた。

 だから、貴族ぐらいの人たちになると忌避するのかもな。


「なあ、この羽根の女の人って誰なの?」


 自分の手の甲を見て何となく浮かんだことを口にすると、ユフィーが俺から一歩下がった。


「…………あの、ダイキ様は一体何者なのですか? ルー神様のことを知らないなんて、あり得ないです……」


 眉間にシワを寄せ、目を見開きこちらを凝視する顔は、驚くより恐怖を感じている表情だ。

 完全に不審者というか、それを通り越して異常者を見る目だね。

 さっきまで、ぎこちないながらも笑顔を出し始めてくれてたのに、こんな顔をされると心が痛すぎる。

 これもう説明するか。

 質問をすると、毎回なんだコイツみたいな顔されるのも嫌だし。


「えっとな、落ち着いて聞いてくれ? 実はな、俺はこの世界の人間じゃねえんだわ」

「……意味が分かりません」

「だからな? 俺は召喚されて、他の世界からこの世界にやってきたってこと」


 簡単にかいつまんで俺のことを説明すると、最初はずっと不信がっていたが、勇者という単語が出てきてからは以外にもすんなりと受け入れてくれた。


「異世界からの召喚……かの有名な勇者召喚ですね。だから、変な格好をしていたり、子供でも知っているようなことを知らなかったりしたのですか。では、ダイキ様は勇者なのですね」

「いや、言っただろ? 俺は力がないって追い出されたって。だから、勇者じゃないな」

「でも、この力は……」

「あぁ、あの時は分からなかったんだ。ただの転移だと思われてたし」


 ちなみに、あのロリ神様のことまでは言っていない。

 こっちに関しては、当分ユフィーにも言わないつもりだ。

 だって、あれがこの世界じゃ悪神みたいな扱いをされてたら最悪じゃん。

 いきなり人の腹をぶん殴ってくる奴だし。

 ユフィーに悪魔信仰者は死ねー、とか言われたら俺泣いちゃうよ?


「そうなのですか……。でも、この力はとても実用的な物ですから、戻れば必ず勇者の一人として――いえ、この様なスキルを強化する、神を思わせるような力があれば、それ以上の待遇をもって迎え入れられるはずです」

「いや、一度追い出されてるからなんかヤダし、好き勝手やれる方が気楽でいいから戻らないよ。まあ、本当にやばくなったら考えるけどね。というか、そんなこと言って良いのか? 戻るとしたらこの国に俺が仕えることになるんだぞ? そうしたら自動的にユフィーもそうなるんだ。仇なんだろ? この国は」

「私は……ダイキ様の指示に従うのみです」


 はぁ、健気!

 ぐっと自分の感情を押し殺して気丈に振る舞う正統派美少女ちゃんが可愛すぎる。

 絶対に幸せにしたい!

 ……いや、俺に買われた時点でもう無理か。


「はぁ……。安心しました。色々とおかしいと思っていたことにも納得がいきましたし」

「あの説明で本当に納得してくれたのか……?」

「えぇ、これまでの行動や発言を顧みたり、神の名を知らぬ者がこの大地にいるはずがありませんから、逆に納得です。それに、勇者召喚の噂は以前から出ていた話ですから、腑に落ちました」

「それは良かったわ。これからもたくさん質問すると思うけど頼むな」

「はい、お任せください!」


 ユフィーの笑顔がこれまでで一番明るく見える。

 この様子ならばもう隠し事をする必要はあまりないなと安心し再び歩き始めれば、目的の森はすぐ近くとなっていた。

やる気に繋がりますので、是非お気に入り登録と評価を頂ければと思います。

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