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1.召喚

 俺へ降り注ぐのは、久方ぶりの暖かな日差し。

 2月も下旬。

 春の訪れというには、やや行き過ぎな陽気の中、俺は近所のコンビニへと足を向けていた。


「うわああぁ!?」

「えっ!? ちょっ、何よこれ!?」


 いきなり前方から悲鳴が聞こえてきた。

 交通事故でも起きたのかと思いその方向へと視線を送った次の瞬間、突然俺の足元が光ったかと思うと、視界のすべてが瞬く間もなく真っ白に包まれる。

 更に、体重が消え去ったかのような無重力感に襲われると、ふわっと体が浮き上がった。


「えっ!? はぁぁぁ~~? おいおいおいおい、何が起きてんだっ!?」


 情けない声を上げてしまうもそれは数秒のことで、すぐに浮遊感は失われた。

 急に地面に戻ってきたが、いきなり足場が生まれた感覚に、倒れそうになってしまった。


「あっぶねえ……。何が起こったん――はぁ……?」


 体勢を直し顔を上げると、周りの様子に俺は固まってしまった。

 つい数秒前まであった近所の光景は消え去っており、代わりにゴテゴテの西洋風な部屋――いや、大広間が広がっている。

 高い天井にそれを支える何本もの装飾された柱、一面絵画の描かれた派手な壁、床には一面真っ赤な絨毯が敷かれている。

 そんな豪華絢爛な部屋の壁際には、いくつもの西洋鎧。

 いや、あれは中身入りか?

 鎧の近くには、ローブ姿をした奴らが、何故かゼイゼイと息を切らしている。

 視線を正面に向けてみればそこは一段高くなっていて、一脚の椅子とそれに座る人物がいた。

 王冠とか服装から考えて、どう考えてもあれ王様だろ……


「えっ!? はっ!? んだよこれ! てか、どこだよここ! おい、匠! どこだよここ!」

「いや、俺に聞かれても知らねえし。つか、肩が痛えからそんな掴むなよ、聖人」

「ね、ねえ、葵は!? 葵がいないんだけど……」


 王様と俺の間には、狼狽えまくっている三人の男女がいた。

 顔からして年下というか、制服姿から近所の高校生だろうってことはすぐに分かる。

 少し前を歩いてた一団が楽しそうに騒いでたが、悲鳴を上げたのはこいつらだったか。


「王の御前である。混乱は理解するが、少し口を閉じてもらえるだろうか?」


 王の手前に立っている頭部以外、全身鎧姿のいかついおっさんが、渋い声で話しかけてくる。

 その迫力に高校生たちはすぐに黙って顔を向けた。


「こちらに御わすは、ナイヘッド王国、国王であられるミハフル様である。今からミハフル様よりお言葉がある」

「ふむ、よくぞ我が召喚に応じられた異界の者たちよ」


 何の感情もなさそうな瞳をこちらに向けるミハフルとかいう王様が、しがれた声を上げた。

 初老に入ったぐらいの年齢だろうか、金色の髪にはだいぶ白髪が混じっている。

 両手で握っているやたらと綺羅びやかな杖を弄りながら、彼は言葉を続けた。


「今、我が国は魔王を名乗る者からの侵攻を受け、苦戦を強いられておる。数多くの英雄たちがその侵攻を止めようと挑んだが、すべて敗北を喫してしまった。そこで、女神様よりお力添えを得てお主たちを召喚したのだ」


 突然始まったゲームのオープニングのような話に聞き入ってしまった。

 いや、魔王ってなんだ……?

 女神って……

 召喚ってのも何だよ。

 漫画ゲームに慣れ親しんだ俺としては、単語としては理解はできるけど、実際それを当然のように話されると受け入れるのが難しい。

 戸惑っている間にも王様の話は続き、数分後にようやく終わった。


「――であるから、お主たちにはこれから戦いの手ほどきをするゆえ、それが終わり次第、戦地に赴いてもらう。この説明で理解出来たであろうが、何か聞きたいことはあるか?」


 うーん……とんでもないファンタジーなお話だ。

 要するに魔王と戦争してるけど苦しいから、お前たちも戦力なれってお話だよな。


 ……出来るわけねえだろ。

 こいつ馬鹿なのか?

 俺はあんたの目の前にいる騎士っぽいおっさんに、一発でのされる自信があるんだが。


 ……いやまて、あるのか?

 じゃなきゃ、女神様とかに頼んで召喚なんてしねえよな。

 この手の話にはよくあるパターンだし。


 王の言葉を考察していると、高校生たちが恐る恐る声を上げた。


「な、なんで俺らなんですか!? 俺ら戦いなんてしたことないし!」

「そうです! いきなり戦争に参加しろなんて……。私そんなの無理です!」


 そそ、俺が聞きたいことはそれ。

 使える高校生たちだと感心していると、騎士のおっさんが一歩近づいてきた。


「動揺は理解できるが、少し落ち着いて話に耳を傾けて貰おう。戦いができぬと心配しているようだが、女神様のお力添えを得て召喚された貴公らには、力が与えられているはずだ。今からそれを確かめる」


 騎士のおっさんが壁際の鎧に視線を送ると、動き出して何かを持って近づいてくる。

 やっぱりあれ中身が入ってたな。

 ガチャガチャと動く全身鎧を見ていると、何やら視線を感じた。


「なあ匠、あれ誰だよ」

「いや、知らねえけど……。未来は知ってる?」

「えっ……? あの時、後ろに歩いてた人の気がするんだけど」

「つか、なんか一言も喋ってなくね?」

「てか、大人なら俺らの前に出て話してくれねえかな」

「ちょっと、やめなよ……」


 なんだこのガキ達うるせええな。

 俺は冷静にこの状況を分析してるんだっての!


 高校生たちの視線を無視し、俺は騎士のおっさんが受け取った物を注視する。

 どうやら、あの板状をした金属製の物で何かが分かるらしい。


 最初に呼ばれたのは、一番手前にいた茶髪の少しチャラい男子高校生だ。

 おっさんに指示されて金属板をつまんだ茶髪が『許可する』と言葉を口にすると、金属板が一瞬光った。


「貴公は……おぉ、戦闘スキルを4つも所持しているのか! しかも、『剣術 三』『盾術 三』『火魔法 二』『光魔法 一』とは……。これが女神様のお力添か……。まさに勇者にふさわしい能力!!」

「……勇者? それって俺がやれるってこと?」

「うむ。召喚されたばかりだというのにこのスキル値なのだ。多少訓練を積めば、勇者殿は確実に我が国を救う救世主になれるであろう!」

「そ、そうなん……。そっかぁ……勇者かぁ」


 あの板に能力ってのが表示されるのか。

 てか、スキルねえ……まじでゲームみたいな世界だな。


 次はさっきの高校生よりガタイが良い、スポーツでもやっていそうな短髪の番だ。


「ほう……こちらも素晴らしい。『大盾術 三』『重鎧 三』『土魔法 二』か。守護者と呼ぶに相応しい能力だな」

「えっと、俺はそのまま盾役って感じですか? ……聖人と比べると地味すぎる」

「味方を守る手段に長けていることは間違いないが、それだけではない。『大盾術』と『土魔法』の組み合わせは攻守に優れている。成長した暁には動く城塞のような働きができるだろう!」

「へ、へぇ……。じゃあ、強い感じですか……。ならいいか」


 タンクみたいなスキル構成に短髪は最初不満げだったが、おっさんが肩に手をかけて持ち上げてやると、すぐに口元を緩ませた。

 それを見たおっさんは軽くうなずいてみせると、今度は残っていた女の子へと近づく。

 肩甲骨辺りまで伸ばした黒髪を不安げに揺らしながら、彼女は言われた通り金属板にふれる。


「なんと、貴公も四スキル持ちか!? 『光魔法 三』『水魔法 二』『風魔法 三』『杖術 二』と、貴公も攻守に優れた構成だ。高レベルの光魔法による支援は、きっと前衛で戦う二人の力になれるだろう。素晴らしいっ!」

「は、はぁ……そうですか……」


 おっさんの興奮している様子とは対象的に、女の子の方は若干引いている。

 一九〇を余裕で超えてそうな男が目の前で目を輝かせてたら、そんな反応にもなるわな。


 結果を聞いた三人は顔を見合わせると、茶髪がへらっと笑った。


「なぁ、お前ら……俺ちょっとチャレンジしてみようかなって」

「お前が勇者扱いなのがうぜえけど、俺も戦えそうだし興味出てきたな」

「ちょ、ちょっと二人とも! 私には無理だよ! ね、ねえ、帰ろう!? 帰してもらおうよ!」


 男二人は自分に能力があると聞いて目の色が変わってきたが、女の子の方は違うらしい。

 焦った様子でニヤつく二人の腕を掴んで右往左往している。

 それを見ていた王様は腕を直して頬杖をつくと、もう片方の手で髭を触りながら声をかけた。


「そなたは、それだけの力があると分かっても、帰りたいというのか? 不思議な考えを持つものだ。英雄になれるのだぞ? だがな、帰りたいと願っても、それは難しい。そなたらがもとの世界に帰還するには、使命を達成しなければ無理なのだ」

「えっ……? し、使命ってなんですか? どういうことですか!?」

「我々は、女神様に願いをして王国の窮地を救っていただけるよう、そなたたちを召喚する力を貸していただいたのだ。それを、まだ何もせぬうちに帰してしまえば、女神様のお力を疑うことになり、それはすなわち不信を抱いたようなものであろう? 心配をするでない、大丈夫だ。予は分かっている、お主たちが必ずこの国を救ってくれるのだとな」


 別世界の人間だからそう見えるのかは分からないが、やたらと演技がかった話し方だ。

 女神様を信じているようなことを言っているけど、なんというか一言でいうと、胡散臭い。

 それより、本当に俺らを帰すことが出来るのか、かなり疑わしい。

 王様の言葉を聞いて、茫然自失といった感じの女の子を心配していると、いつの間にかおっさんが俺の前にやってきていた。


「残るは貴公だな。貴公は彼らとは少し年齢が離れているように見えるが、知人なのだろうか?」

「いえ、全く面識はありません」

「ふむ、そうなのか。まあ、些末なことだな。さあ、この板に触れ、自身の力を私に閲覧する許可を貰おう」

「許可する」


 俺が言葉を口にすると、おっさんが金属板を覗き込む。

 すると、数妙固まっていたおっさんの目がぎょっと開かれた。


「な、なんとこれは……、『転移 一』だけ……。こ、これは如何したことか……」


 聞いた俺も明らかに雑魚な感じがする内容に、一瞬思考が停止してしまった。

 だが、気を取り直してすぐに確認をしてみる。


「……えっと、スキルが一つだけですけど、もしかして、とんでもなくレアなスキルとかの可能性はあります?」

「う、うむ……珍しいと言えば珍しいスキルだ。移動で困ることがなくなる上に、成長すれば一軍を率いての移動も可能だ。だが、、最初から一では成長の望みも薄い……」

「じゃ、じゃあ、俺はどうすれば……?」


 俺が騎士のおっさんの顔を見ると、彼は気まずそうにして王様へと振り返った。


「うーむ、どうやらその方は役に立たなそうであるな。ふ~む、お主は先にこの場から退出するが良い。金子を与えるがゆえ、城下で勇者殿たちが魔王を討つその日まで待っていよ」

「え、えぇ……? 城下って、ここには置いてもらえないんですか?」

「分かっておろうが今は戦時でな、お主の世話をしてやれる余裕がないのだ。心配せずとも金はある程度の用意をするゆえ、街で暮らすが良い」


 王様が言葉を終えると鎧たちが近くにやってきて、俺を後方へと誘導してくる。

 知らねえ世界でいきなり暮らせとか、流石にやばいと思い一瞬もう少し粘ってみようと思ったが、鎧たちに三方を囲まれた圧に後退するしかなかった。


やる気に繋がりますので、是非お気に入り登録と評価を頂ければと思います。

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