キスから始まるロマンス?
結局何もわからないまま次の日を迎えた。
今日もただ藤崎を眺めるだけで時間が過ぎていく。
藤崎を観察していてわかったことがある。
まず1つ目は、俺に対してだけではなく、皆んなに対して平等に塩対応だということ。廊下を歩いていると、後輩から先輩まで、幅広く多くの女子から声をかけられるが、そっけない態度だ。
それから、字がとてもきれいだということ。ノートの字はもちろん、指名されて黒板に書いた字も美しかった。
また、足がめちゃくちゃ速いということもわかった。体育の時間、体力測定の50メートル走では余裕でクラス1位だった。
今まではただ暗いと思っていた無表情まで、美しく整った絵画のようなものに見えてくる。
昼休み、シバ達と食堂でお昼を食べてから教室に戻ると、机の中にノートの切れ端が入ってることに気づいた。
それを見ると、
「放課後 教室に誰もいなくなるまで残ってて」
字の美しさから、藤崎が書いたものだとすぐ気付いた。
藤崎から呼び出された。なんだろう。嬉しい気持ちより不安の方が大きい。きっと昨日谷が何か言ったに違いない。余計に嫌われてしまったのだろうか。
その後、放課後になるまでずっとモヤモヤは晴れなかった。ホームルーム後も座っていると、シバが声をかけてきた。
「おい恭ー!部活行こうぜ!って、なんか死にそうな顔してるぞ。大丈夫か?」
「あぁ、大丈夫、多分。ちょっと俺職員室とか寄ってから部活行くから遅れるわ。先行ってて」
「先生からの呼び出しにびびってたのか。しっかりしろよ!お前真面目なんだから怒られることはないって!」
そう言いながら、俺の背中をバシバシと叩く。
「用事終わったらすぐ来いよー!森がキレる前にな」
「あぁ、わかった」
その後も、どんどんみんな教室から出て行って、最後は先生だけになった。藤崎はいない。
「あれ、佐々木はまだ残ってるのか」
「あ、ちょっと腹が痛くて。でももうちょっとしたら部活行きます」
「大丈夫か?無理するなよ。じゃあ悪いけど、先生会議あるから先に出るな。窓だけ最後閉めてくれよー」
「はい。さようなら」
ガラガラ、ドアが閉まって俺は1人になった。シバや先生にウソをついて、なんだか悪いことをしてる気分になってくる。
というか、藤崎はくるのだろうか。いつもすぐに部活に行くやつだから、俺をだまして1人で部活に行ったんじゃ…
悶々としながら考えていると、
カラカラ…
静かにドアが開いて藤崎が入ってきた。
「おまたせ。待った?」
「いや、そんなに待ってない…」
藤崎はどんどん近づいてきて、俺の隣の席に座った。
「佐々木くんさぁ、何で俺のことじろじろ見てくんの?」
「え、、」
見てたのがバレてたのか。羞恥心でいっぱいになり、下を向く。
「昨日涼太から聞いたでしょ?俺に惚れると痛い目にあうって」
谷っ!やっぱり昨日のこと藤崎に話したのか!
思わず俺は顔を上げた。すると、藤崎はニヤッと笑って俺に
「それでもこんなに見てくるってことは、俺のことよっぽど好きなんだね」
「はぁぁ??お、おれはただ仲良くしたいだけでっ!!」
「仲良くしたいって、こういうこと?」
「えっ…」
藤崎は、俺の顎に手を添えると、顔を近づけてきた。
やばい、近すぎる!そう思って思わず目をつぶると、唇に柔らかい感触が、、。
俺は藤崎から軽いキスをされた。ほんの一瞬、軽く触れただけの短いキスだった。