第四話:『勝っても嬉しいとすら思わんなコレ』
日が昇り、学校に向かう
自身の起きている事を知ってみれば、もう自棄でも
意地でも無く純粋に家族の為と燃えていた情熱がよみがえった。
「サレナ…お兄ちゃんやれるよ」
残していったサレナ、ハルツェン・サレナを想う
些か体が弱いが、俺と同じで魔法の才能がある
学費を稼いで良い魔術師になれれば安泰だ。
「さて、今日は何の授業をするんだか」
多少なりとも期待を抱いて登校したのだった。
「すいません、カルネ君…
先に4クラスが教室使ってるせいで
中央組にはどこも開いてなくて…」
「まぁ中央組(一人)なのもありますね」
「ですがその、一時間だけ出るように言われてる授業で…
組手の参加が…」
「…組手ですか」
まぁ何を狙っているのかはわかる
中央組を踏み台にする用途だろう。
「参加しなくてもいいって言いたいですが…
単位の処理などが握られていて…ごめんなさい」
「いえ、先生大丈夫です、俺だってただ踏み台にされたり
晒し者にされる気はもう無いんで」
「そ、そうですか…」
実際、意味もなく暴力を振りかざす気はない
だがこうも露骨に暴力を振るうのなら痛めつけてやる。
「それに、良い活躍すれば推薦には届かなくとも
目を掛けてもらえるかもしれませんからね」
スポンサーは良い魔術師や騎士を求めてるんだ
見せてやる、死霊魔術士ってもんを。
■
「本日はまず本校生徒の適正を見るために
生徒同士で組手を行おうと思います」
先生が闘技場の上に立ち宣言する、他のクラスの連中の中に
俺も待っていた、俺に異論を唱えて追い出した連中もいる。
「中央組のカルネに関しては西組と組んでもらう、異論は無いな」
「勿論です」
実際異論などない、相手が居ないもんはいないのだ。
「アイツ、まだ西組気分なのか?」クスクス
「貧民の面の厚さにはほとほと呆れるな」クスクス
こっちはそっちがどう生まれたらそう性格悪くなるかが
気になるがな、いやホント。
「では、カルネとトリアスの組合せでしてもらおう」
「了解しました」
ゲドス・トリアス、ゲドス家長男で俺に異論を唱えた張本人だ
コイツだけではないが、相も変わらず貴族第一主義で
恵まれた産まれの者以外認めないどうにも相容れない人種だ。
「可哀想な奴だな、単位欲しさで恥をかくのも気にしないとは」
「手合せも無しに言い切る方が恥かくぜ、貴族の坊ちゃん」
「ふん、強がりとは持たざる者らしいな」
ま、実際恵まれた奴だとも、五属性中炎の適正があって
未来の騎士様候補って奴だ。
「ここまで来たんだ、逃げ出すのはもう無理だぞ」
「ごちゃごちゃほざくのはどっちかって言うと
恵まれて無い方の芸だぜ、似合わないぞ坊ちゃん」
「っ…! 大怪我しても知らないからな!
『炎波』!この身の程知らずを焼き払え!」
闘技場を埋め尽くすように炎が波打って押し寄せる
逃げ場は無くどうしようもない状況だろう。
「これでお終いだな」
「早合点とはなぁ?」
まぁ、どうにでもなる範疇というのは
もうわかっているのだが…。
「『闇穴』」
空間に真っ黒な穴が開いて迫りくる炎を飲み込んで波は収まる。
「や、闇属性…?適正など無いはずでは!?」
「ん、闇の適正は無いな、他の適正のオマケだよ」
「何を言っているんだ貴様…!」
噓じゃない、死霊魔術の一要素でしかない。
「『炎弦』!吞み込み切れない全方向攻撃ならどうだ!!」
トリアスの背後から炎の線が伸びて俺に対して全方向から襲い掛かるが
闇でばかり守るのも芸がないのでここは…。
「『屍使役』くだらん足搔きを潰せ」
重厚な骸の兵士が現れて大盾構えて魔法を防ぐ
『スカルファランクス』というモンスターらしい
丁度いい統率と能力であり、数も出しやすい。
「なんだお前!なんだその魔法は!」
「おう?ゴーレムみたいなもんだろ?
それよりも、このまま押してくぞ、精々奮闘しな」
命令を下し、ファランクスが組まれて
槍衾がトリアスの迫る。
「クソ!クソ!!来るな!!『炎波』!『炎玉』!!」
必死になって魔法を唱えるが軍勢は微動だにせず
串刺しを恐れたトリアスは苦虫を嚙み潰したような顔で
闘技場から転げ落ちた、無論ルールでは敗北である。
「だから恥かくって言ってたんだがなぁ?」
「こんなの噓だ…なんだその魔法は…!」
「『屍使役』だ、ゴーレムみたいなもんだって言っただろ」
「そんなもんが使えるわけないだろ!!」
「使ってたじゃん…目の前で」
周りに目をやれば、先生達も焦った顔だ
とはいえ、そういう力があったというのは噓でもズルでもない
スポンサーはどう反応しているんだか。
「し、勝者はハルツェン・カルネ!」
「ズルです! あの貧民、ズルを…!」
「スポンサー様が不正は無いと言ってるんだ!
引き下がれ!」
意外な事に認められたらしい、推薦もまだまだ期待出来そうだ。
「では、俺も下がらせてもらいます」
しかしいざ勝ってみると当たり前が過ぎて
特に達成感らしいものが無いのは返って良かっただろう
こんな事で嬉しくなってたら、アッチと変わらんからな
そんな事を想いつつ何を言われるか待っているのだった。
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