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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

だあぁれだ? 

作者: しえすた


今年大学生になった俺は福島県の実家で自分の荷物をまとめていた。

東京の大学に通う事になり、着々と一人暮らしの準備を始める。


「たまには帰ってきなさいね」


「うん、その時の夕飯俺の好きな唐揚げがいいな」


「はい、はい」


母親が軽く返事をした後、「気をつけて」と微笑む。


「行ってくる、」


それを見送り実家を出た。


その時は分からなかった。

これから自分の身に思いもよらない恐怖が襲うなんて…。









2週間後、東京にある〇〇市のアパートに引っ越しした。

合格前に下見しておいた場所だ。

大学から二駅離れてるだけで、通学は楽だしバイト探しにも困らない繁華街があった。

家賃も相場より安く、好条件ばかりで両親と一緒に即決した。

アパートは4階建てで、住む部屋は1階の角部屋。

端にある階段を上がり114号室の扉を開ける。




(ん?)


やけにカビ臭い。

下見したのは2か月前だからだろうか。


玄関を抜け、ワンルームの部屋にボストンバックとキャリーカートを置いた。

家具は備え付けだから埃も溜まるだろう。

臭いはそこからきてるかもしれない。


洗剤を手に、雑巾やモップではたいて部屋中を掃除する事にした。


テレビのあるフローリングや、パソコン机を拭いていく。

簡易的なキッチンやユニットバスも綺麗にした。


(こんなもんでいいか、服でも整理するかな)


思い立ってクローゼットに手を伸ばす。


「ん?開かない、なんでだ」


扉はビクともしない。

もう一度、さっきより強く力を込めた。


バコンッ!!


「うわっ!」


突然、煤のような煙が体目掛けて覆い被さってきた。


「うぅ!げほっ!ごほっ!」


息苦しさと目に染みる感覚に前のめりになった。

その時。



(え、)


一瞬開いた瞳の隙間からぼんやり影が現れた。

大きく両目と口がどす黒く、泣き叫んでいる人の顔だった。


「!!!」


その光景に息を飲む。

だが、その煙はすぐに消えた。

ただただカビ臭さだけが部屋を漂っている。


「何だよ、今の…」


気のせいにしてもはっきり見えた。

意識を逸らそうと別の事を考える。


とりあえず風呂に入って寝る事にした。

ユニットバスなのでシャワーカーテンで仕切り湯船に浸かる。

受験で緊張したり、気が張ってたのかもしれない。


顔を両手で拭った時だ。


シャワーカーテンに影がある。

大きさは50㎝程。

正方形の角を歪にしたような形だ。


(え、)


シャワーカーテンの中央でぼんやり浮かんでいる。

俺はゆっくりカーテンを開けた。


何も無い。

一体なんだったのだろう。


やっぱり疲れているんだ。


風呂からあがり、ベッドに横になる。

突然枕元のスマートフォンが起動した。


[はい、こちらの検索結果が見つかりました]


勝手に音声確認を認識する機能が働いた。


画面を見ると、子供向けの遊楽施設のサイトが次々と表示されている。


携帯がおかしくなった。

何もしていないのに。

今日一日で色んな事が起きている。

明日の為に俺は無理矢理、瞼を閉じた。





俺は大学に向かった。

去年から行きたかったから猛勉強した。

真新しい空間、初めて触れる空気、同じ授業を受ける1人が自分より大人に見えた。


友達もいない。

新しい出会いが欲しい。


大学に通いながら、バイトを探した。

部屋に帰ってもおかしな現象が続いた。


自炊しようとキッチンに立ち野菜を切っていた時だ。

タンタンと刻む包丁に目をやっていた。



「だあぁれだ?」


声がした。

あまりに小さな声だったので意識を集中させる。



「うわっ……!」


目の前に両腕が現れたのだ。


青白く、細長い指がすうぅっ…と目を隠す様に視界を遮ろうとする。

2、3回瞬きすればもう何も見えない。


「いてっ」


俺は指先を切ってしまった。

おかしい。

この部屋なにか、いる。


次の日も次の日も。


壁や床から音がなる。

パキパキ、ミシミシなど1人しかいないのに部屋の中で響いている。

今日はパソコンで課題を仕上げていた。

カタカタとキーボードを叩く。


「こっち向いて」


俺は止まった。

今、声がした。


女の子の声だ。

後ろに気配がする。

でも振り向きたくない。


スマートフォンで音楽を再生した。

頭に入ろうとする越えを掻き消す為に。



「ねぇうしろにいるよ」


大音量の中に幼い声がはっきり聞こえた。

画面に映っている気がして、思わず下を見た。


すると自分の足元に、足がある。

膝から下しかない。


ドン!!


「どっかいけよ!あっちいけ!」


机を思い切り叩いた。

しん…と部屋が鎮まりかえる。


俺は家を出る事にした。

ネットカフェで時間を潰すしかない。


クローゼットから服をありったけだしてキャリーケースに入れる。

ハンガーに掛けていた服もくしゃくしゃにして丸めて入れた。


ふとクローゼットの壁紙が少し剥がれていた。


最初は気に止めず、ボストンに大学で使う教材を入れた。

何故だろう。

剥がれたクローゼットの壁紙が気になってしまう。


少しだけなら…いいだろう。


作業をやめ、立ち上がり少しめくれた部分からゆっくり引き剥がした。



目の前に現れた光景に言葉を失った。


クローゼットの壁に。


子供の文字で。


いたい、いたい、いたい、いたい、いたい、いたい

と書き殴った上からお札がびっしり貼られていた。



「なんだよこれ」


恐怖で背筋に悪寒が駆け巡る。


俺は部屋を飛びたした。

EにすぐLINEして家に上がり込んだ。


「お前が住んでる〇〇のアパートってヤバい所って有名なんだって」


聞けばEの姉も同じ大学で、その友達の先輩がこのアパートに一時期住んでいたらしい。


俺の住んでいる部屋は、かつて虐待された子供がバラバラにされ何ヶ月放置された状態で見つかった。

胴体は風呂場、両腕はキッチン、両足はリビング、頭はクローゼットで遺棄されていた。


俺はゾッとした。


2階に住む人も当時、クローゼットに閉じ込められた子供の泣き声を頻繁に聞いていたらしい。


俺が見たあの文字はきっとその時に書いたものだろう。


この恐怖の側に居られない。

両親に説明して、別のアパートに変えた。

その際不動産の担当者と揉めそうになった。



こんなの希望に添ってないと意見をしたら、こう言い返してきた。




伝えた筈です、これは稀に無い自己物件ですよ…と。





そう、その担当者は《事故物件(瑕疵)》として頑なに認めなかった。

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