最終話 エピローグ!これが僕の生きる道
中華料理屋の表に、『本日貸切』と書かれた札が掲げてある。
それを気にせずに中に入ってきたのは、凌と真里菜だった。
「よお、翔太。久しぶり」
「おお!凌。忙しいのに、サンキューな」
「いんや、仕事には大分慣れたし。そろそろお店に顔出すつもりだったしな」
「大企業の御曹司に宣伝してもらえたら助かるぜ。インスタ載せてくれよ」
「それはちょっと」
「っておーい!!!」
二人で談笑を交わしている間に、真里菜は構わず小春に飛び付いて、
「小春~♡やっと会えた♡」
「一週間前に会ったばっかじゃん。今日は来てくれてありがとー」
「ふふ。翔太がこの店の後継者になれるかどうか、ちゃんと見届けようと思ってさ」
相変わらず上から目線な彼女に、翔太は苦笑を漏らした。
まぁ変わってないとこが、何か安心出来るけど。
外見もご自慢のロリ巨乳は健在である。
今は全く興味ないけどな!
ーあれから三年の月日が経ち。
翔太は無事小春と結婚し、中華料理屋の後継者となるべく、日々奮闘していた。
哲二はなかなか厳しく、未だに餃子を焼かせてもらえない。
が、ようやく『試験』を受けるよう言われ、それが今日という訳だ。
どうせなら大勢の人に判断してもらいたいと、凌と真里菜(こちらも入籍した)にも来てもらった。
凌は親の会社を継ぎ、すっかり経営者の顔になっている。
真里菜は社長婦人を満喫ーと思いきや、意外や意外、頼ってばかりはいられないと、仕事を続けていた。
昇進して、役職も貰えたらしい。
すげぇな、元ヤンデレメンヘラ。
あと、他にも。
「翔太ー♡来たよ~!」
「こんちは。お、美味そうな匂い」
と暖簾から顔を出したのは、拓真と雄大だった。
いやいや顔面偏差値高過ぎるだろ、と内心ツッコミを入れる。
拓真は以前と変わらず世界を飛び回り、写真を撮り続けていた。
そして何と、雄大は彼の弟子になったのだ!
翔太が弟だと知るや否や、「紹介して!マジ紹介して!!!」と懇願され、渋々引き合わせた。
今はプロのカメラマンになるべく、拓真の後をついて回っている。
翔太はすっかり笑顔が板につき、
「二人とも、来てくれてありがとー。明日からまた海外なのに、悪いな」
「ううん、翔太の今後がかかってるんだから。仕事より大切だよ!」
「いえ、拓真さん。仕事も大切にして下さい」
「あ、は、はい……」
どうも雄大の方が主導権を握っているらしい。
兄である拓真が縮こまっているのが可笑しくて、クツクツと含み笑いをした。
そこへー哲二と幸枝がやって来た。
一気に緊張感が走り、表情が強張ってしまう。
哲二もまた、普段よりも更に険しい面持ちである。
「皆さん、お揃いのようで。じゃあ翔太、餃子を焼いてみなさい」
「は、はいっ!」
き、キターーー!!!
お世辞にも器用とは言えない翔太は、この日の為に練習を繰り返していたものの、正直自信が持てなかった。
だが小春がコソッと耳元で、
「大丈夫、翔太なら出来る!私の旦那さんなんだから♡」
って百万力キターーー!!!
途端に翔太は力が漲り、「おっしゃ、任せろ!!!」とガッツポーズをした。
あ、気付きました?
もう敬語じゃないんすよ、夫婦ですからね、ムフフ。
それはさておき、全神経を集中させ、餃子を焼き始めた。
焼くだけでしょ?と侮るなかれ、なかなか奥が深いのだ。
少しでもタイミングを誤れば、焦げすぎたり、逆に柔らかくなり過ぎてしまう。
一度でも味が落ちれば、厳しい常連さんなんかは、直ぐにそっぽを向くだろう。
でも、大丈夫。
あんなにひたむきに頑張ったんだ。
その成果を発揮すればいいだけー!
「……出来ました!お願いします、おやっさん」
と皿に乗せた餃子を差し出すと、哲二はコクリと頷き、何もつけずに少しだけ口に含んだ。
翔太と小春は勿論、他の人達も固唾を飲んで見守ってくれている。
ドキンドキンドキン。
心臓の音が脳裏で反響し、外にも漏れているんじゃないかと思う。
ここでもし不合格でも、また無我夢中で食らいつくまでだけど。
けど。
「うまい。よく頑張ったな、翔太」
哲二の渋い声が、静寂を破って。
しかし翔太は直ぐにはその意図を汲み取れず、ボンヤリしてしまった。
すると。
「合格だ。次から、客に出して良し!」
「!……や、やったあああー!!!」
咄嗟に小春と抱き合い、ピョンピョンと飛び跳ねる。
苦節三年、やっと認められた!
今まで何をしても中途半端だったけど。
生まれて初めて、胸を張って誇れるものが出来たぞー!!
喜びが止めどなく溢れ出て、到底抑えられない。
自分達だけでなく、凌と真里菜、拓真と雄大、そして幸枝も、次々と祝福の言葉を述べてくれる。
「おめでとー!これで正式な後継者だな」
「全く、時間がかかったわね」
「さすが翔太♡出来ると思ってたよっ」
「おやっさんに認められるなんて、凄いじゃん」
「やったわね~翔太。ほら、お客様にも沢山餃子を焼いて差し上げて。今日は勿論、こちらのサービスですよ」
やったー!と友人達が盛り上がる最中。
翔太はニヤリと口角を上げ、小春を今一度抱き締めて、ヒョイッとーではなかったがー持ち上げた。
彼女は一瞬目を見開き、ケラケラと楽しそうに笑う。
「力ついたね、翔太。格好いいじゃん」
「あったり前!俺、小春に釣り合ういい男になるって決めたんだから。な?いい男になっただろ?」
「うん、ますますいい男になった。でも……」
へ??
急に小春が体勢を変えたかと思うと、あれよあれよといつの間にか、彼女の腕に抱えられていた。
まるで母親にダッコされる幼子のように。
何これデジャヴ!
結局こうなるのかよ!!
恐るべし、俺の嫁(確定済)!!!
「こ、小春!おろせ!俺は男の中の男だ!!こんなの情けない~!!!」
「大丈夫、ラブラブな夫婦なんだから♡」
「ノオオオー!!!」
そんな夫婦漫才を繰り広げていると、周囲から「いつまでイチャイチャしてんだよ!早く餃子焼けー!」とヤジを飛ばされた。
翔太と小春は我に返り、顔を見合わせて、笑みを溢す。
きっとこれからもずっと、俺はここで仲間に囲まれ、幸せな日々を過ごすのだろう。
誰よりも魅力的な、歳上長身美女の、愛する妻と共に。
終
長いことご愛読ありがとうございました!
ブックマーク・評価・ご閲覧、大変励みになりました。