第五十八話 ありったけの愛を貴女に注ぐ
走って、走って、走って。
ようやく中華料理屋に着いた時には、息も絶え絶えだった。
しまった……なんか熱に浮かされて走っちゃったけど……普通に乗り物に乗れば良かった……めちゃくちゃしんどいんですけど……話せないんですけど……。
ドラマと現実は違うんだな……。
とにかく、やるべきことをやらなくては。
翔太は深呼吸をし、逸る気持ちを落ち着かせて、眼前にある扉を勢いよく開けた。
ランチタイムは過ぎていたが、それでも店内は賑わっている。
「いらっしゃー……」
小春はこちらを確認した途端、体を硬直させた。
笑顔がスッと消えたのを見て、胸がズキンと痛む。
当たり前だ。
散々振り回しておいて、呆気なく終止符を打ったクズ男なんて、顔を見たくもないだろう。
怖じ気づきそうになるも、自身を奮い立たせ、懸命に食らいつく。
「小春さん!!!」
騒がしかった客達が、一瞬にして静まり返った。
雄大や、哲二と幸枝も何事かと、怪訝な表情をしている。
小春はというと、ひたすら呆然としていた。
まるで白昼夢の中にいるかのように。
翔太は怯みそうになる自身を叱咤し、その場に跪いた。
渡 翔太。
今までへたれてばっかだったけど。
ここで本気出さなくて、いつ出すんだ。
男の中の男になる為に、翔太、いきまーーーす!!!
「ごめんなさい!!!子供みたいに嫉妬して、傷付けちゃって……本当に阿保っすよね。全然成長しなくて、本当に……申し訳ない!!!」
「……」
「でも、やっと分かったんです。自分のやりたいこと。したいこと。俺、ずっと小春さんと一緒にいたい。ここで、ずっと一緒に働きたいっす。小春さんのこと、大好きだから。だから……」
スッと、手際よく小さな箱を取り出すーなら良かったが。
実際は指が震え、上手く鞄が開けられず、かなり四苦八苦してしまった。
相変わらず間抜けである。
それでも何とか箱を手にして、蓋を開ける。
以前渡そうとして叶わなかった、こじんまりとした指輪が、輝きを放っていた。
小春は目を見開き、やはりただただ呆然としている。
翔太は瞼を閉じて、土下座をしそうなまでに頭を下げ、
「俺と、結婚して下さーい!!!」
と。
大声で、叫んだ。
喉から心臓が飛び出るんじゃないか、と思う程に。
……静寂が辺りを包み込む中、聞こえてきたのは。
ブックマーク・評価・ご閲覧ありがとうございます!
気に入って貰えたら、ブックマーク・評価して頂くと大変励みになります。




