第五十一話 彗星の如く現れた、長身イケメンの正体!
「……ってそれ、和んでる場合?」
そう呆れたように言うのは、最凶のロリ巨乳、真里菜であった。
翔太はウッとタピオカを喉に詰まらせそうになる。
せっかく楽しみにしていたタピオカミルクティを、何故にこやつと一緒に飲まねばならぬのか……。
それは不運としか言いようのない偶然であった。
就職活動で疲労困憊した身を癒そうと、話題の台湾スイーツ店に行ったら、彼女とばったり遭遇したのだ。
挙げ句カップルと間違われ、同じ席に通されてしまった。
そうなると自然と、話題は小春とのことになる訳で。
もはや恒例行事のように、ツッコミの嵐が吹き荒れた。
真里菜曰く雄大は、脅威でしかないと力説する。
「そんな同世代の長身イケメンと四六時中一緒なんて、どうにかならない方がおかしいじゃない。小春も美人ですっごく良い子だし。結婚しかないわね」
「おおおーい!!!ちょちょ、ちょい待ちー!!!」
夢も希望もない辛辣な意見に、つい声が大きくなる。
だってだって、酷くね??
せっかく俺が無理矢理にでも納得してたのに、これでもかという程攻撃してくるんですけど!
相変わらず痛いとこ突いてくるぜ……うう。
やっぱり凌に相談したかった……。
だがここは、女性からの目線も知りたいところ。
翔太は恐る恐る、
「じゃあ真里菜さんも、小春さんの立場なら凌を捨てて、雄大って奴を選ぶ?」
「はい?凌は御曹司の長身イケメン、更には私に尽くしてくれるハイスペックよ?翔太くんとは違うもん」
あはははーですよねー。
何だろう、タピオカミルクティがやけにしょっぱいな……涙が混じってるのかな……。
厳しい現実を突き付けられ、翔太は頭を抱えるしかなかった。
だが悩んだところで、どうしようもない。
今になって本音を吐露しても、小春達を困惑させるだけだ。
翔太が一気に沈み込むのを見て、真里菜はさすがに気の毒に思ったのか、
「まぁ、そんなに落ち込まないでよ」
「今さら……誰のせいだと思って……」
「悪かったって。会っても小春は翔太のことばっか話すしさ、ちゃんと」
「ゆうだい」
「へ?どした?頭おかしくなった?」
「だから!雄大があそこにいる……!!」
翔太は窓の外を指差し、真里菜は眉を顰めながら、その先に目線を遣った。
こんなに偶然が重なるなんて、もはや奇跡か、呪いか。
路上で信号待ちをしている雄大が、視界に飛び込んできたのだ。
くそぅ、ぼんやりしている立ち姿まで、イケメンだぜ……。
鼻くらいほじってくれてもいいのに!
真里菜は至って真剣な面持ちで、
「これは……想像以上だわ。そりゃ焦るわ。雄大、凄いな」
「だろ!?焦っても仕方ないだろ!?」
「よし、後をつけよう」
「はい?」
出たー真里菜様のとんでもない提案ー。
そうでしたね、貴女は後をつけるプロでしたね。
翔太は余程断ろうとした、したのだが。
もしかしたら、雄大の爽やかな顔面の裏に隠された、とんでもない一面があるんじゃないかと思い立ち、というかあってくれと願いを込め(おい)、真里菜の案に乗ることにした。
タピオカミルクティを急いで胃に流し込み(良い子は真似しないでね、尾行もね)、雄大から少し離れた所まで来た二人は、忍び足で後ろをついていく。
「くそ、後ろ姿まで格好いいな」
と歯ぎしりする翔太に、真里菜は声を潜めつつ、
「大丈夫。あの人、服はユニ◯ロよ。まぁスタイルがいいから、そうは見えないけど」
って全然フォローになってないやないかーい。
むしろユニ◯ロを着こなすとか、お洒落上級者やないかーい。
俺なんか、全身ユニ◯ロで決めたら、「何それ部屋着?」とか訊かれたのに……。
とにもかくにも、大切なのは外見ではない、性格だ。
フッフッフ、長身イケメンで完璧に見えても、いやだからこそ、絶対腹黒いところがあるは「あ、翔太くん。あの人……本屋で中華料理の本買ってる!」
「べ、勉強家……!」
「ユニ◯ロでセール品を見てる!」
「せ、節約家……!」
「迷ってるお年寄りを、案内してあげてる!」
「や、優しい……!」
「野良猫と戯れてる!」
「もはや少女漫画……!」
なかったあああ!!!
何て奴だ、雄大よ。
中身まで完璧じゃないか。
結局鼻すらほじらないし。
翔太は期待を裏切られ、ガックリと肩を落とした。
真里菜もかける言葉が見つからないのか、珍しく黙っている。
すると、
「あのーもしかして、俺のことつけてます?確か……渡 翔太さん、でしたっけ」
いつの間にやら雄大が、傍まで来て苦笑していた。
端整な顔が間近に迫り、翔太は「うあああ!!」と情けないくらい後退る。
真里菜は一瞬動揺を露にしたが、ニコッと破顔して、
「翔太くんが、貴方に用事あるみたいですよ♡」
「ふぁ!?」
「じゃ、私はこれで。またね~」
ひいいい。
やっぱり悪魔の囁きに耳を貸すんじゃなかった。
真里菜はあっさり去っていき、雄大と二人、嫌でも対峙する羽目になって。
彼は困ったように人差し指で頬をかき、
「んじゃ、お茶でもします?」
「あ、えっと、はい……」
予期せずライバルと、『デート』することになってしまった。
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