第五話 歳上長身美女はいかがですか!?
瞼を開けたら、木目調の天井が視界に飛び込んできた。
夢か現か、一瞬判別出来ない。
頬に感じる鈍い痛みが、これは現実なのだと告げる。
「あ、起きた?大丈夫?」
安堵感を覚える、柔らかい小春の声(先程と同一人物とは思えない)が聞こえ、目線を遣った。
彼女は静かに微笑み、じっとこちらを見据えている。
そうか。
男に殴られ、あっさり失神するという、醜態を晒したんだった。
「すみません……俺……あ~!なさけなっ!!」
思い出し、悔しさのあまり頭を掻きむしった。
『男は女を守るもの』。
古風な考えだが、父と兄からもそう教わってきて、それが当然だと思っていた。
なのに吠えるだけ吠えて無様にやられ、むしろ小春に助けられてしまい、男のプライドがズタズタだ。
「何言ってんの。……凄く嬉しかったよ、ありがとう」
小春は優しく、諭すようにそう言ってくれたものの、やはり容易には立ち直れない。
どうやら今日は厄日らしい。
はぁ、と嘆息が漏れた。
「俺、駄目っすね。振られるし、殴られるし。逆に小春さんに守られるし……男失格です」
「も~そんなことないって!本当に嬉しかったよ、私」
「でも……あぁ~……守りたかったなぁ……」
分かっている。
自分は小柄だし、筋肉もないし、声は高いし(こちらは関係ない)。
男らしさを演じたところで、ミスマッチなのは明らかだ。
それでも、小春を守りたかった。
滑稽に思われても、冷ややかな目線で見られても。
などとぼんやりと考えを巡らせていたら、
「し、翔太!!!」
「は、はいっ!!??」
唐突に名前を呼ばれて、慌て顔を上げると。
小春が顔を真っ赤にして、こちらを見詰めている。
額には汗が滲んでおり、その緊迫した様相に、翔太は目を丸くした。
「どうしたんすか?具合でも悪ー」
「好きです!!!」
……お?
お、おおおう???
これはげ、幻聴???
急展開に思考が追い付かず、混乱してしまう。
小春もまた、自分で言ったにも関わらず、動揺の色を濃くして、
「その、あの、うん、驚くよね。そりゃそうだよね」
「あ、はぁ」
「私、もう25だし、ずっと姉貴ぶってたし、翔太の好みのロリ巨乳とは真逆だし、何かでかいし、175センチだしっ」
あ、ロリ巨乳がタイプってバレてたのか。
そんで身長を強調されたらつらみ……いいな、175センチ……。
いや、今は気にしている場合ではない。
翔太は相変わらず呆然と、口を開閉するばかりだった。
勢いが止まらなくなったのか、小春は怒濤のごとく続ける。
「でも!翔太を好きな気持ちなら負けない。何が起こっても、絶対守る!何度でも守る!!」
「は、はぁ」
こちらが守られる側かーい。
その台詞、普通は男が言うやつじゃ……。
小春の必死のアピールに、しかしどう返していいのか、ひたすら躊躇していた。
嬉しくない、訳ではない。
けれどやはり、彼女を恋愛対象として見たことがないので、迂闊に何も言えなかった。
大切だからこそ、傷付けたくなかった。
それにーロリ巨乳への憧れは、簡単には消えない。
重苦しい沈黙が、辺りを包み込む。
そこへ、
「あ、じゃあ、あの、一回デートしよう!」
「デート……」
「うん。今度の休み、映画でも観に行こう。それで絶対無理!って思ったら、そう言って。全然、諦めるから」
「……」
小春はあくまで明るく、健気だった。
翔太は戸惑いを拭えなかったが、彼女の顔を前にすると、到底NOとは言えなかった。
黒目がちの瞳に、薄い透明の膜が張っている。
「……わ、わかりました!行きましょう!!」
この心遣いは、むしろ残酷なのではないか。
翔太はそう理解しながらも、頷くしか出来なかった。
途端に小春の表情がパアッと晴れやかになり、それを複雑な想いで見据えていた。
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