第四十七話 何でこうなるの!?歳上長身美女の悲痛な叫び
神様、ごめんなさい。
私は狡い女です。
年下の可愛い彼氏を離したくなくて、ずっと黙っていました。
題して、『実家の跡継ぎ問題』。
黙っていたというよりも、忘れていたと言った方が正しいけれど。
とにもかくにも、結ばれるのが先決だったから。
それに、まさかまさか!
こんなに早く翔太の方から、紹介の話を持ち掛けられるとは。
小春は夢にも思っていなかった。
『あの、今度。哲二さんと幸枝さんにご挨拶に行ってもいいっすか?』
そう訊かれた瞬間。
本当は、西野◯な並みに震えるくらい嬉しかった。
まだ若いのに、ちゃんと将来を考えてくれてるんだ、と。
初めて知って、涙が出そうだった。
直ぐにでも頷こうとした、……のだが。
ん?ちょっと待って待って。
私……中華料理屋の一人娘じゃん?
前からお父さんには、『早く跡継ぎを見つけてくれ』って煩く言われてる……。
でもそんなこと分かったら、絶対引かれちゃう!
焦燥に駆られた小春は、何とか誤魔化すしかなかった。
翔太は就職する気満々だし、それを止める権利なんてない。
せっかく順調にいきそうなのに、家族のことで揉めるのはごめんだった。
もう暫くは穏便に過ごしたい。
と願うも虚しく、彼はやけに強引で、今までにないくらい執拗で。
とうとう約束を取り付けてしまった。
『俺、哲二さんと幸枝さんにも認めてもらいたいんです。将来の為にも』
こう言われて、心が揺るがない女がいるだろうか。
小春は胸の高鳴りを抑えられなかった。
だって翔太ってば、あの小動物みたいな瞳をうるうるさせて、ちょこんと下から上目遣いで見つめてきて。
何、この可愛い生き物は……。
断れる訳なーい!!
それに、やはり心底嬉しかったのだ。
彼の真っ直ぐで、純粋な気持ちが。
しかし、まだ『実家の跡継ぎ問題』を露呈させる訳にはいかない。
悩みに悩み、とりあえず両親には、
「実は翔太と付き合ってるんだけど、結婚とかはまだ全然考えてないから。本当に、ただ挨拶に来るだけだから。くれぐれも跡継ぎの話とかしないように!」
と口を酸っぱくして言っておいた。
哲二と幸枝はまず交際の事実に驚き(職場での空気で気付かなかったのか、さすが我が両親、鈍い)、だが祝福してくれ、今にも踊り出しそうな浮かれっぷりで、
「いやぁ、母さん。めでたいな。あの翔太と小春が!お似合いじゃないか」
「ええ!翔太くんなら可愛いし、若いし、愛想がいいし。仕事も一生懸命ですもの。有り難いわ」
「うん、でもね、跡を継ぐとか、そういう話は」
「わかっとるわかっとる。にしても、何か祝いたいな。翔太が来たら、紹興酒でも出そうか」
「いいわね。お父さん、お婿さんと晩酌するの夢だって言ってたものね。やっと叶うわ」
「だーかーらー!そういうの、早いってばー!!」
一抹どころか、二抹も三抹も不安を抱いたものの。
それからも幾度となく注意を繰り返し、振る舞いを厳しく指導し、いざ当日を迎えた。
大丈夫。
あんなに何回も伝えたんだもの。
余計なことは言わないは「いやぁ跡継ぎが出来て、本当に良かった!これで安心だな」
……。
おい、このクソ親父ー!!!
あ、失礼しました……つい暴言を。
でも仕方ないと思いません??
あれだけ!何度も何度も!おかしくなるくらい!言ったのにー!!
翔太の顔を盗み見たら、案の定顔面蒼白になっている。
小春は咄嗟に声を荒げて、
「もう!結婚とかまだ全然考えてないんだから!そんな話は止めてって言ったでしょ!?」
「いやぁ、でも……」
「翔太は就活するんだから!うちは継がないの!他で働くのーっ!!」
「そ、そうなのか……」
しまった。
つい感情的になって、余計なことまで口走った。
哲二はみるみる悄然とし、体を縮こませてしまう。
親の情けない姿を目の当たりにするのは、非常に辛い。
けれどどうしようもなかった。
そりゃ私だって。
本音を言えば……翔太に跡を継いで欲しいけど……。
チラリと彼の様子を窺えば、すっかり放心状態に陥っている。
残念ながら、跡を継ぐなんて一切考えていなかったらしい。
仕方あるまい。
二十歳の大学生の男の子が、そこまで決心をするはずがない。
……ほんの少し、少しだけ期待していた自分が馬鹿なのだ。
「まぁま、そんな暗くならないで。さ、美味しいもの皆で食べましょう」
こういう時、哲二よりはるかに柔軟性があり、太陽のように明るい幸枝の存在は、大変有り難かった。
時間はかかったものの、次第に張り詰めていた空気が和み、お酒が入ったら翔太と哲二は、すっかり打ち解けていた。
赤ら顔で肩を組む二人を見ながら、しかし小春の心の奥底で燻る罪悪感は、一向に消えずにいた。
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