第四十六話 はい、やっぱり難題勃発しました!
脱・童貞の余韻は長引き、凌に礼と共に報告をすると、心から喜んでくれた。
翔太としてはどうしても恩返しがしたくて、
「凌……いつも本当にありがとう。どうか、礼をさせてくれ」
「翔太……」
「さ、何でも頼めよ」
「……ありがとな。でもさ……」
「ん?」
「学食かよ!しかも一番安いとこ!!」
「しょーがねーだろ!もうすぐ就活を控えた一大学生なんだからー!!」
やいのやいの言いつつ、凌は嬉しそうにハンバーグと海老フライ定食、更にはケーキまで追加していた。
さすが御曹司、容赦がない。
だが旅行代を考えたら、こんなの微々たるものだ。
「マジサンキューな。凌のおかげだよ、脱・童貞が出来たのは」
「へへ。ま、いいってことよ。で、どうだった?歳上長身美女のご感想は?」
「もう……良かった……最高だった……」
翔太はあの夜を思い出し、陶然と何もない宙を見据えた。
oh my god……thank you very much……。
今まで経験し得なかった喜びを与えて下さり、神様ありがとうございます……。
我にかような快楽を教えて下さり、凌様ありがとうございます……。
と全てに感謝したい気持ちだった。
凌はクツクツと含み笑いをして、
「そりゃあ良かった。レクチャーした甲斐があったわ」
「おう、めちゃくちゃ勉強になった。あれ、大学で講義すべきだな」
「いつかやってみるか。で?小春さんとはその後、どんな感じ?」
と問われ、絶好調!!と返したいところだったけれども。
一難去ってまた一難、実はあれから挨拶の件がなかなか進んでいなかった。
日程を決めようとすれば、『その日は家族で出掛けるから』と断られ、ならば営業する前に伝えようかと提案すれば、『そんなバタバタするの嫌じゃん』と難色を示す。
他は別に問題はなく、むしろ以前よりも距離が近付き、イチャイチャしまくっているのだが。
それを伝えると、凌は何やら考え込み、
「うーん、あれか。翔太が年下だから、ちょっと不安なんじゃね?うちもさ、真里菜を紹介したいけど、渋られてるんだよね」
「え、凌も!そっか、やっぱり気にするものなのか……」
「ま、そこは強引にいくしかねーよ。せっかく脱・童貞したんだからさ。男らしさをアピールして、お互い頑張ろうぜ」
「おう!」
同じ立場の親友に鼓舞され、俄然やる気が沸いてきた。
そうだよな。
やっと脱・童貞して、心も体も結ばれて、結婚への道筋を作るタイミングと言えば、いつ??
今でしょ!!!(古)
きっと小春さん、俺が年下なのをまだ気にしてるんだな。
哲二さんと幸枝さんも、古風な人達だし。
ここは一つ、男気を見せなくては!
勢い付いた翔太は、更に小春に畳み掛けることにした。
「次の定休日こそ、挨拶に行かせてもらっていいっすか?てかもう決めました。絶対行きます!」
「え、ええ!?マ、マジ!?」
「マジっす!正直、もっと早くに行きたかったくらいっすから。ね?……俺、哲二さんと幸枝さんにも認めてもらいたいんです。将来の為にも」
「……翔太……」
初めはやはり拒んでいた小春だが、必死の説得により、態度が軟化していった。
『将来の為』という言葉が効いたらしい。
頬を朱に染め、唇を噛み締めている。
俺の嫁(仮)、めちゃくちゃ可愛いな……!!
安心して下さい、何を言われようと、意思は変わらないっすから!!
そんな翔太の心意気が通じたのか、やっと挨拶に行く許可が出た。
定休日に自宅を訪ねる手筈を整えてもらい、当日はビシッとスーツで決める。
人柄を十二分に知っているとは言え、親しき仲にも礼儀ありだ。
勿論、菓子折りも用意してある。
哲二と幸枝の大好物である、と◯やの羊羮である。
小春は待ち合わせ所に現れた途端、豪快に笑い出した。
「そんなかしこまらなくていいのに。職場で会ってるじゃん」
「こういうのは、ちゃんとしないと!万が一のことがあったら嫌だし」
「ふふ、そっか。……ありがとね、翔太」
そう漏らした彼女の瞳に、憂色が孕んでいたことを、だが翔太は気付けなかった。
何となく無言のまま、二人で山中家へと向かう。
あー……やっぱ緊張するな……。
哲二さんも幸枝さんもめちゃくちゃいい人だけど、俺のちゃらんぽらんなとこも知ってるしな……。
いやでも、大丈夫、なはず!
インターホンを押す直前に、小春がやたら緊迫した様相で、
「本当、無理しなくていいからね。嫌なことはちゃんと嫌って言って。約束」
「?えっと……あ、はい……」
イマイチその意図が汲み取れず、首を傾げたままインターホンを押した。
ドアを開けて出迎えてくれたのは、幸枝だった。
全体的にフォルムが丸く、外見は小春とは全く似ていないが、纏う穏やかな空気は同じだ。
笑顔も愛らしく、いかにも優しいお母さんといった感じで、
「いらっしゃい、翔太くん。も~びっくりよ!小春と付き合ってたなんて」
「は、はい!ご報告が遅れまして、申し訳ございません!」
「うふふ、いいのよ。翔太くんなら大歓迎。さ、どうぞ上がって」
柔和な口調で出迎えられ、ホッと安堵の息を吐いた。
第一関門は突破したらしい。
次が第二にして最大の(何か変な言い方)難関だ。
翔太はゴクリと喉を鳴らし、自然と背筋を伸ばした。
「翔太。リラックス、リラックス。深呼吸して」
「う、うん」
小春に促され、深く息を吐く。
まさか『お前に娘はやらーん!!』って怒鳴られて、ちゃぶ台をひっくり返される、なんて昭和のドラマみたいな事態は起こらないだろうが。
小春さん一人娘だし、溺愛されてるし。
もしかするともしかするかも!?
ええーい、それでも認めてもらわなきゃ!!
小春さんは俺の嫁(仮)なんだから!!
そう自身に活を入れ、哲二のいるリビングに足を踏み入れると、
「おお、よく来たな。嬉しいよ」
哲二は今まで見たことのないくらい、晴れやかな笑みを見せていた。
いつもいかにも頑固親父、といった険しい面持ちをしているのだが……。
あ、あれ??
全然歓迎ムードじゃん。
小春さんがあんなに渋るから、どうなるかと思ったけど……。
翔太は一気に肩の力が抜け、顔の筋肉も緩んだ。
「こ、こんちはー!すみません、突然。あの、これつまらないものですけど」
「そんな、気を使わなくていいのに。お、こりゃあ、わしの大好物だ。母さん、お茶入れておくれ」
「はいはい。翔太くん、コーヒーでいい?」
「ありがとうございます!」
「ははは、何をかしこまってるんだ。俺達と翔太はもう家族みたいなもんじゃないか。なぁ」
「お、おやっさん……!!」
哲二の言葉に、胸が一杯になった。
先程まで抱えていた不安が、一瞬にして吹き飛ぶ。
そうだよ。
俺と哲二さん、幸枝さんはもう家族じゃないか……!
実際、両親が不在になってから、彼らにどれだけ勇気付けられたか。
何をそんな、心配していたんだろ。
やっぱり阿保だな、翔太ってば☆
なんてすっかり油断し、ニコニコ愛想を振り撒いてたところに、
「いやぁ跡継ぎが出来て、本当に良かった!これで一安心だな」
超ド級の爆弾が、哲二によって落とされたのだった。
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