第四十三話 親友達のエロい密談
「翔太の奴、小春さんと無事温泉に行けたって」
「そう。良かった」
凌が翔太からのLINEを報告すると、真里菜は満足げに微笑んだ。
シックな色合いの照明に照らされ、それは普段より艶やかに見える。
ソファーで二人で寄り添い、ワインを嗜む時間は、至福でしかなかった。
凌が一人で暮らしているこの部屋には、邪魔をする者は誰もいない。
高級かつ洗練された家具に囲まれ、帰るたびに安堵出来る場所だ。
「本当に、あの二人は世話が焼けるよな」
凌がグラスを片手にそう皮肉ると、真里菜は笑みを深めて、
「うん。でも、放っておけないんだよね。私、あの子に救われてるから」
『救われてる』。
という表現が気にかかり、彼女をじっと凝視する。
真里菜は無言の訴えを察して、コテンとこちらに身を任せながら、滔々と語りだした。
「私さ、学生時代から性格悪かったんだ」
「ああうん、だろうな」
「おい!……ま、それはさておき。もう女子からめちゃくちゃ嫌われまくっててさ」
「想像出来る」
「だーまーれ!で、変な先輩に勝手に嫉妬されて、呼び出されて。助けてくれたのが小春だったの」
当時を回想しているのだろう。
真里菜は何処か虚ろな瞳で、遠くを見ている。
横顔も可愛いな、とつい見惚れてしまう。
まさかこんなに入れ込むなんて、想像以上だ。
「格好良かったなぁ。あっという間になぎ倒してさ」
「え、小春さんってそんな強いの」
「めちゃくちゃ。格闘技やってるし、あの子」
ああ、翔太よ。
お前、多分一生尻に敷かれるぞ……。
凌は年老いた翔太が、同じく白髪になった小春に胡麻をすっている姿を思い描いて、吹き出しそうになった。
真里菜は構わず、明朗な声色で宣誓するように、
「だからさ、絶対幸せになって欲しいんだ。あんな良い子、他にはいないもん。その為に何でもしてあげたい」
「……そっか」
聞き終えて、凌もまた、過去を思い返していた。
そういえば。
「俺と翔太も似たような感じかな」
「え?」
「いや、俺も高校の時から、何かめちゃくちゃ嫌われてて」
「ああ……」
「納得すな!」
軽快な言葉の応酬に、額をくっ付け合ってクスクス笑う。
真里菜はいつでも甘い、男を高揚させる香りがした。
人工的なものではなく、恐らく自然に発しているもの。
何でこんなにエロいんだろ。
それでいてロリ巨乳なんて、最強だわ。
凌はうっとりと目細めつつ、
「で、友達を作る為にお金を使ってて。奢ったら皆仲良くしてくれたし。お安いご用だなーってホイホイ払ってた訳」
「……か、悲しい……」
「しょうがないだろーでなきゃ一人だもん。でも、割り切ってたつもりだったんだけど、ある日悪口言われてんの、聞いちゃって。ちょっと……いや、かなりショックだった。そこで、一人だけ庇ってくれたのが」
「翔太くんだったのね」
真里菜に代弁され、コクンと頷いた。
あの時の喜びは、生涯忘れないだろう。
お金を出さなくても、寄り添ってくれる、味方になってくれる人がいる。
それはずっと孤独と戦っていた凌にとって、何物にも代えがたい存在だった。
だからつい、お節介しちゃうんだよな。
あいつの笑顔、可愛いし。
……って、おいおい。
こりゃ誤解を招いても仕方ない。
一人でボケツッコミをしている凌に、真里菜は首を傾げた。
「どしたの、ニヤニヤしちゃって」
「いや、何でもない」
「え~気持ち悪っ!……これからすること、考えてた?」
真里菜の声に、色香が纏う。
大人の女性ならではの、落ち着き払った、余裕のある振る舞いだ。
凌は荒ぶる自身を抑え、悠然として見えるように心掛ける。
今夜は眠れそうにないな。
柔らかい、触り心地の良いその肢体を抱き寄せ、今宵の宴に想いを馳せた。
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