第三十二話 ブラコン兄に怒りをぶつけた結果、これです
翔太がバイトを終えて帰宅した時、拓真はまだ起きていた。
鼻歌など口ずさみながら、キッチンでお菓子を作っている。
その能天気な姿が、こちらの感情を逆撫でした。
「あ、おかえり~♡今、マドレーヌ焼いてるんだ。明日の朝、食べ」
「何でバイト先に来たんだよ」
出来るだけ低い声で、責めるように問う。
迫力はないだろうが、それでもブラコンの彼には、かなりの痛手だと思う。
案の定動揺の色を見せた後、しょんぼりと顔を俯けている。
勢いに乗った翔太は、一気に畳み掛けた。
「言っておくけど、小春さんから聞いたんじゃないからな。たまたま見たんだよ。何だよ、何話してたんだよ」
「え、えー……別に……その、保護者面談?みたいな?翔太がどんな職場で働いてるか、気になって……あははっ」
拓真の虚ろな笑いは、ますます怒りに火をつけた。
こんな時でもイケメンなのが、すっげームカつく!!
たまには不細工になれっつーの!!
いやそれは置いておいて。
もう彼の過干渉には、嫌気が差した。
二十歳を過ぎた弟に対して、すべき行動ではない。
何より、小春を奪われたくないのだ。
翔太は喉が張り裂けんばかりの大声で、
「いい加減にしろよ!俺もう二十歳だぞ!いつまで子供扱いしてんだよ!!」
「し、翔太……」
眉を八の字に下げ、捨てられた子犬のような瞳で見つめられ、怖じ気づきそうになるも、何とか堪える。
ここは徹底的に躾(?)ておかないと、今後もずっと付き纏われるに違いない。
鼻を鳴らし、ジロリと睨み付け、
「金輪際こういうことすんな。そん時は絶縁するからな!!」
「……」
よし、よく言った俺!!!
今まで溜まっていた鬱憤を晴らすかの如く、そう怒鳴り付けると、ズカズカと自分の部屋へと向かった。
これであの脳内がお花畑な兄貴でも、反省して大人しくなるだろ。
脱・童貞も、無事に迎えられるはず!
翔太はしてやったりとばかりに、上機嫌で眠りに就いたのだがー。
翌朝、想定外の事態が起こってしまった。
「おはよう……、……」
眠気眼でリビングに顔を出したものの、拓真の姿がない。
いつもはやたら豪勢な朝御飯を作ってるのに。
念の為彼の自室、トイレ、浴室、全て覗いてみたものの、もぬけの殻だった。
訝しげに思っていると、食卓の上に昨夜のマドレーヌと、何か文字が書かれた紙が置かれていた。
それには。
『しばらく仕事で出ます。元気でね』
……は??
マジか。
え、ええ、仕事なら仕方ない、けど……もしかして、これって。
「……逃げた……?」
翔太は愕然とし、暫くその紙をひたすら眺めるしか出来なかった。
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