第三十話 ついに対面する歳上長身美女と長身イケメン兄
……怪しい。
小春はチラチラと後ろを振り返り、そのたびに首を捻っていた。
つけられている。
と気付いて、初めは恐怖を感じたものの。
つけている男の動きが、あまりに滑稽というか、間が抜けていて、悪い人には見えないのだ。
しかもかなりの美形、かつ長身。
自分など狙わなくても、引く手あまただと思うが……。
まぁいい。
万が一の時はぶん殴って、警察に突き出してやろう。
密かに心に決め、両手いっぱいの食材を持ったまま、お店の扉を開けようとしたら。
「ああっ!」
ものの見事に袋が破け、白菜やキャベツ、ピーマン、林檎などが勢いよく辺りに転がり落ちた。
やってしまった、と顔を顰めると。
「大丈夫ですか!?」
例の男が慌てた様子で現れ、一緒に拾ってくれた。
あれ?
何か……全然普通??
変質者じゃないのな……。
小春は疑念を抱きつつも、自分も急いで手を伸ばし、
「ありがとうございます。助かります」
「いえ。大変ですね、こんな沢山」
「全然。これだと少ない方ですよ」
「そうなんですか!?いやぁ、感心だなぁ」
穏やかで、艶のある低い声。
間近で見るとますますいい男で、周りにいる女性からの視線も熱い。
うん、やっぱりこんないい男、変質者な訳ないな。
どのみち私のタイプじゃないけど。
脳内で勝手に自分会議を催し、勝手に納得した。
「本当にありがとうございました。あの、お茶でもいかがですか」
断られるかな、という前提で声を掛けたのだが、彼は満面に笑みを湛えて、
「はい!是非お願いします」
どうやら精悍な顔立ちには似合わず、かなり素直な人物らしい。
ちょっとだけ、翔太くんに似てるかも。
そのギャップに含み笑いをし、彼を中に通した。
「適当に座って下さい。烏龍茶でいいですか?あと、中国のスイーツとか……好き嫌いがあるかもですけど」
「いえ、どちらも大好きです。いいですね、ここだと毎日美味しいもの食べられますね」
「ふふ。生まれてからずっとだと、飽きますよ」
「ああ、こちらの娘さんですか」
「そうです。ここは小さいので、うちの両親と私と、バイトの子が一人だけです」
「なるほど……」
男は急に何故か口を噤む。
気になったが、とりあえずおもてなしをしなくてはと、キッチンへと向かった。
両親は仕込みで手一杯で、こちらなど眼中にない。
小春はテキパキと食材を冷蔵庫に入れ、お茶とお菓子をトレイに乗せた。
「お待たせしました~はい、どうぞ」
「わ、ありがとうございます!美味しそう!」
ただの烏龍茶と饅頭なのに、子供のように瞳を輝かせる彼を見て、またもや翔太を思い起こした。
この人本当に、めちゃくちゃモテそうだなぁ。
笑いを堪えていると、男はキョトンと首を傾げ、
「何かおかしなこと言いました?」
「いえ、うちのバイトの子に似てるなって」
そう言った瞬間。
男の表情が、一気に強張った。
別に怒った訳ではなさそうだが、何やら目線を宙に彷徨わせ、気まずそうにしている。
やだ、そっか。
知らない他人に似てるとか、不愉快よね!?
もう、私のバカ!!
家族経営の店でしか働いていないせいか、慣れた人以外との接し方がわからず、時折こういうミスをしてしまう。
「ご、ごめんなさい、私ー」
「そうなんです!!」
言葉を遮られ、しかも不思議なことに、力強く肯定されてしまった。
男の意図が全く汲み取れず、今度は小春が首を傾げる。
彼は外国人のような、濃密な睫毛に象られた瞳で、じぃっと見据えて、
「僕は、渡 翔太の兄です」
……どえええー!!??
待って待って、心の準備もなしに、ご家族と顔合わせ!?
饅頭じゃなくて、お肉かなんか出さなくちゃ!でも時間かかる!!
えっとじゃあ、フカヒレとか燕の巣とか?
いやそんな高級なもん、うちにはなーい!!
小春は混乱のあまり、支離滅裂なことを考えてしまい、暫くまともに喋るのも難しかった。
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