第二十三話 イケメンだって、ロリ巨乳の涙には弱いんです
凌は翔太と小春が去った後、ひょこっと物陰から姿を現した。
よし、何とか上手くいったみたいだ。
あのままラブホテルに行かれたら、どうしようかと焦ったけれど……彼なら絶対に裏切るまいと、心の何処かで確信していた。
ーあの女、いや真里菜の不穏な動きに気付き、水面下で密かに探りを入れて。
翔太は嘘が下手なので、誘導尋問すればあっさり現状を吐いた(恐らく自覚はない)。
そこでこのデートを察し、一か八か、小春に一部始終を見届けてもらおうと画策したのだ。
話に聞いていたとおり、素晴らしい人柄の彼女に、翔太の目を覚まさせて欲しかった。
まぁ最終的には、誘惑に打ち勝つと見越してはいたが。
危なかったものの、彼は見事期待に応えてくれた。
さて。
「やっちゃいましたね、真里菜さん」
軽快な、少し嘲るような口調で声を掛けた。
真里菜はしかし、身動き一つしない。
翔太に振られたのが、そんなにショックだったのか。
まぁ気持ちは分からないでもないが、自業自得だ。
全てを知った小春の憤りと哀しみと言ったら、凄まじいものだった。
ざまーみろ、と内心悪態を吐く。
「わざわざ大学に潜入して、友達の彼氏を誘惑して、結局二人とも失うなんて。惨めっすね~」
更に煽ってみても、やはり真里菜は微動だにしない。
……さすがに言い過ぎたか?
と怪訝に思い、顔を覗き込んだらー彼女の黒目がちな瞳からは、ポロポロと。
留めなく涙が溢れ落ちていた。
ギョッとして、思わず体を仰け反らせる。
いざ泣かれると、悔しいまでに動揺してしまった。
何せやっぱり、……可愛いんだ、これが。
「おい、自業自得の癖に、何泣いてんだよ」
それでも必死に虚勢を張り、厳しく叱咤するも。
潤んだ瞳で凝視され、言葉が出てこなくなった。
「……そんなにおかしい?」
「は?」
「親友を失った女をからかって、そんなにおかしいのかって訊いてんのよ!!」
嗚咽と共に叫ぶ真里菜。
その気迫に押され、唖然とするしかなかった。
「小春は私の大切な親友なの!たった一人の!だから変な男に渡したくなかった!どんな奴か、知りたかった!本気で奪おうなんて、思ってなかったのに!!」
想像し得なかった真里菜の本心。
全身全霊でぶつけられ、まるで殴られたかのような衝撃を受けた。
何てひねくれた、歪んだ友情だ。
恐怖すら覚える。
小春もさぞ困惑するだろう。
けれど考えていたよりもずっと、彼女は純粋なのかもしれない。
……いやいや、可愛いからって絆されてないか?
百歩譲ってもこいつ、メンヘラのヤンデレだぞ??
ぐるぐると思考回路を、フルで巡らせている間に、
「馬鹿にするだけしたらいいわ。どうせ小春はもう、……っ。一生、許さないから!!」
真里菜は怒号を上げ、信じられない速さで走り去ってしまった。
賭けに勝った、はずなのに。
翔太を救えたのにー何なんだ、この後味の悪さは。
思えば、女の子に泣かれたのは、初めてかもしれない。
凌は今まで経験したことのない感情に蝕まれ、虚空を見据えていた。
ブックマーク・評価・ご閲覧ありがとうございます!
気に入って貰えたら、ブックマーク・評価して頂くと大変励みになります。




