第二十二話 やっぱり俺の彼女は天使に違いない
殴られても蹴られても仕方ない。
と小春の勇ましい背中を眺めながら、翔太は覚悟を決めていた。
何せ交際して間もないのに、約束を反故にし、ロリ巨乳とデートだなんて。
しかも未だに事態を飲み込めないが、どうやらマナは真里菜で、彼女と友達で……ってやっぱり意味が分からん……。
ストーカーも自分を陥れる為の、罠だったのだろうか。
だがどんな事情があったとしても、裏切ったことに違いはない。
ここは一つ、土下座でもして気持ちを伝えてー。
「翔太」
「は、はいっ!ごめんなさいっ!」
思わず大声で叫ぶと、小春はくるりと振り返り、フッと吹き出した。
その柔らかい表情に、安堵の息が漏れる。
怒って……ない……のかな??
だとしたら、マジ天使なんですけど……。
彼女はしかし、実に俊敏な動きで、ものの見事にデコピンを見舞ってきた。
「いってえええー!!!」
何これ!!!
凌のやつより何万倍も痛いんですけど!!!
忘れてた、小春さん、めっちゃ強いんだった……。
咄嗟に蹲り、額を両手で押さえる。
涙目で顔を上げると、彼女はケラケラ豪快に笑っていた。
「はい、お仕置き終了!もうこれでいいよ」
「へ!?いや、でもっ」
何で約束破って、しかも自分の友達とデートしてるんだ(それは俺も知りたい)とか、おまけにラブホテルに入ろうとしてただろ、とか。
どれだけ責められても、当然なのに。
あっさり言及を止めた小春に、翔太は呆気にとられた。
余程見つめていたのだろう、彼女は照れ臭そうに目線を逸らし、
「そりゃ、めちゃくちゃムカついて、蹴り殺そうと思ったけど」
あ、やっぱりそうですよね、はい。
自業自得とは言え、シュンと項垂れていたら。
「でもハッキリ断ってたから、……大切に思ってくれてるの、分かったから。全部パーになっちゃった。馬鹿だな、私」
と微笑むその横顔は、女神の如く(天使を飛び越えた)神々しかった。
ああ。
良かった、欲望より理性をとって。
この人を失わなくて、本当に良かったーーー!!!
翔太は溢れそうになる涙を拭い、立ち上がって改めて頭を下げた。
「あざーっす!小春さん、本当にごめんなさい!もう二度としませんっ!」
「当たり前です~次はないからね?」
「はいっ!……にしても、何でここに……?」
「あ、翔太の友達の、えっと、立花くんが連れてきてくれたの」
「えっ!?」
凌が、何故に!?
新たな疑問が沸き上がり、首を傾げる。
いや、他にも理解し難いのが。
「あの、そもそもマナちゃん、いや真里菜……さん?あの方は、一体……」
「……あの子は私の友達、……だった、って言えばいいのかな。学生時代からの付き合いで、仲良くしてたんだけど。何であんな事したのか、全然わかんない。……私、嫌われてたみたいだね。あははっ」
「……」
そうだ。
信じていた友達に裏切られて、小春さんは今凄く辛いはず。
翔太は思わずギュッと、小春の体を抱き締めた。
まぁ、残念ながら身長差のせいで、『抱き着いた』という表現の方が正しいのだが。
中華料理屋の娘ならではの、胡麻油のいい香りが、鼻を擽る。
香水をつけたりしないのが、彼女の魅力なのだ。
「し、翔太?」
戸惑いを隠せない小春の腰を、更に強く抱き寄せて。
「俺がいます。絶対、もう裏切りませんから。筋トレもバッチリして、今度こそ守れるよう、頑張ります!」
人目も憚らず、大きな声で宣誓する。
心からそう思ったから。
これからはどんな困難が襲いかかろうとも、心身共に彼女を支えていきたい。
ん?少し前にロリ巨乳に垂涎し、浮気未遂をしでかした奴が偉そうにすんなって??
ノープログレム!もう大丈夫!!
渡翔太は生まれ変わったのです。
ペチャパイでも貧乳でも(重言)、小春さんなら萌えれます!!
「……ありがと、翔太」
小春はそっと、静かにこちらの背に手を添えた。
お互い少し速い、心臓の音が脳裏に響く。
人肌を感じるのが、こんなに心地好いものとは。
翔太は瞼を閉じて、幼子のように暫し陶酔していた。
ブックマーク・評価・ご閲覧ありがとうございます!
気に入って貰えたら、ブックマーク・評価して頂くと大変励みになります。




