第十九話 長身イケメンの密かなる想い
あの時の女だ。
と、凌は一瞬で分かった。
翔太と小春のデートを密かに見守っていた時いた、ロリ巨乳。
何故に突然、翔太に接近しているのだろう。
嫌な予感がして、お節介とは自覚しつつも、真相を探ろうとした。
上手い具合に、構内で例の女を見掛けて、
「なぁ、ちょっと」
声を掛けてみる。
彼女はこちらを認めた途端、あからさまに表情を曇らせた。
というより、睨み付けられている。
警戒心が剥き出しだ。
どうやら向こうも、面識があることに気付いていたらしい。
ますます怪しい。
絶対に何か、下心がある。
「何?急いでるんだけど」
うわぁ、女の子にここまで邪険にされるの、初めてかも。
凌はしかし、あくまで悠然と振る舞った。
「あんたさ、何者?何で翔太に付きまとってんの?こないだも居たよね?」
「は?そんなの知らないし。てか何であんたにそんなこと言われなきゃなんないの?」
売り言葉に買い言葉、とはまさにこのこと。
早速一触即発の気配が漂い、凌は敢えておどけてみせた。
ニッコリと満面に笑みを湛えて、
「翔太は俺の大切な友達だからさ。『害虫』は取り除きたいんだよね。せっかく素敵な彼女が出来たとこだし」
「ふぅん。私が『害虫』ってことか。言うわね」
女は冷笑を浮かべた。
ガラス玉のような、感情が窺えない瞳だ。
「友情も、行き過ぎたら貴方が『害虫』になるわよ。そんなに大切なら、彼に首輪でもつけておいたら?じゃあ、急ぐから」
彼女は畳み掛けるように罵声を浴びせ、颯爽と立ち去った。
凌はフゥ、と嘆息を吐く。
一筋縄ではいかなさそうな相手である。
「俺が『害虫』、か」
ちょっと痛いとこ突かれたな。
確かに、言い返せないとこはある。
凌は自嘲気味の笑みを漏らし、回想に耽った。
ーそもそもここまで、翔太に固執するようなったのには、きっかけがあった。
高校生の時、イケメンな上に金持ちな自分は、異性からは絶大な人気を誇っていたが、同性からは総すかんを喰らっていた。
あ、はい、わかってます。
イケメンな上に金持ちなんて言っちゃう、その性格が問題だって。
ま、しゃーないじゃん?事実だし?
とりあえず表面上は仲良くして貰う為に、遊ぶたびに奢ったりプレゼントをあげたりして、お金で人間関係を築いていた。
それでも構わないと思っていた、けれど。
とある日、教室の中から男の同級生達の声が聞こえてきて。
こちらの存在など、全く気付いてない彼等は、
「凌ってさ、マジ便利だよな。こないだもご飯代出してくれたよ」
「俺も。ちょっとねだったら、服もくれたぜ」
「ええ~!俺も言ってみようかな。いや~しかし身近にATMがあるのいいわ」
「ひゃははっ!ひで~!まぁでないと、あんな奴付き合いたくないもん。なぁ?」
分かっていた。
分かっていた、のに。
凌は胸の痛みを抑えられなかった。
不覚にも、視界がぼやけてしまう。
心の何処かで、純然たる友情を期待していたのだろう。
何てバカバカしい。
これ以上は聞くに耐えず、踵を返そうとした、次の瞬間。
「え?凌って普通にいい奴じゃん。一緒にいて楽しいよ?俺、奢ってもらったこともねぇし」
……少し高めの、柔らかいその声は、優しく鼓膜を揺らした。
凌はハッとして目を見開き、こっそり主を確認する。
渡 翔太。
時折遊んでいたが、そういえば彼にはお金を出したことがない気がする。
ただとにかく屈託がなく、無条件で皆から好かれていたから、あまりに眩しくて。
いつの間にか距離を置いていた、……しかし。
「凌ってさーすんげー格闘ゲーム強いの!今度やってみ?一瞬でK.O.だぜ」
「え~マジ?んじゃ、遊んでみっかな」
「つーか何で翔太が得意げなんだよ!ウケるわ」
「うっせ!いーだろ!俺だって負けないし!」
「おお、言ったな?じゃあー」
会話の流れが一気に変わる。
誰も陰口を叩かなくなり、翔太を中心に、穏やかな空気に満たされる。
何て奴だ。
凌は全身がポカポカ温かくなり、自然と口元が緩んだ。
それからまた遊ぶようになり、親友と呼べるまでになった、と思っている。
純粋なゆえにドジで、世間ずれしている所のある彼を、何としても守りたいから。
「よし、一肌脱いでやるか」
誰にともなく呟き、凌はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
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