第十八話 童貞、ロリ巨乳の罠にかかる
男とは愚かな生き物だ。
理性よりも、本能を優先してしまう。
翔太はそう痛感した。
翌日、またしてもマナは接近してきた。
今度は学食にて、一人焼きそばを頬張りつつ、凌が現れるのを待っていると。
「こんにちはー」
oh……目の前に、豊満な胸の谷間……。
当然の如く真正面に座したマナに、翔太は呆気にとられた。
スルーしよう!と心に決めたものの、いざとなると邪険にも出来ない。
ひくひくと笑顔を引き攣らせ、
「こ、こんちは」
「焼そば、美味しそー!私もそっちにすれば良かった~」
「あは、ははは」
「いつもこの時間にご飯食べるの?一人?」
「まぁ……後で友達が来るけど」
「そっかぁ。じゃあそれまでお話しよ♡」
え、もしや俺、AVの世界に迷いこんだ……?
こんな一気にモテ期が訪れるなんて、あり得なくない??
動揺が隠せないまま、しかしマナは構わず意気揚々と話し掛けてくる。
「実はずっと翔太くんのこと、気になってたんだ」
「へ!?で、でも、そんな、講義一緒だったっけ……」
「私、ちょっと前に編入してきたの。それからだから、気付かれなかったのかも」
「そ、そっか……あの……でも……」
「……分かってるよ。彼女、いるもんね」
唐突に声のトーンが低くなり、涙目+上目遣いのダブル攻撃をされ、翔太は呼吸が止まりそうになった。
何だ、この可愛い生き物は。
守ってあげないと壊れるんじゃないか、と危惧する程、儚げな。
……ってコラコラーーー!!!
どれだけ軟弱なんだよ、俺。
しっかりしろ、俺!
活を入れる為、見えない所で自身の太股を捻ってやる。
痛みで我を取り戻し、深く息を吐いた。
「そうなんだ。すっごく綺麗で、可愛くて、いい人なんだよね~ははっ」
「うん。翔太くんの彼女だから、きっと素敵なんだろうなって思ってた。……残念だけど」
シュン、と項垂れるその様は、実に可憐で。
咄嗟に慰めようとするのを、何とか堪える。
よし、偉いぞ、翔太!
これぞ男の中の男だ!!!
と自画自賛したのも束の間、マナはズイッとこちらに身を乗り出して、
「あのね、どうしても翔太くんに頼みたいことがあるの。絶対に翔太くんじゃないと駄目なの。次のお休み、会えないかな?」
「ひょえ!!??」
こんな薄っぺらい、出会ったばかりの関係で、俺じゃなきゃ駄目だと……!?
一体何なんだ??
しかもその日は既に、小春との先約がある。
翔太は自分に言い聞かせるように、首を左右に振り、
「ご、ごめん!無理!その日は約束が」
「お願い!!!翔太くんしか頼れなくて……実は私、今ストーカーされてて」
「えっ」
思いがけない単語に、思わず言葉を失った。
そりゃこんな可愛い子、狙われても可笑しくない。
やたら正義感の強い翔太は、看過出来なかった。
「それ大変じゃん……え、今大丈夫?」
「ここでは平気。人の目があるし、前の学校の人だから。でも、お休みの日が怖くて。翔太くんに彼氏の振りをして欲しいんだ。多分そいつ、見てるから。ね、お願い!!」
何故に小柄で、見るからにひ弱そうな己に頼むのか。
裏で陰謀が渦巻いているに違いない。
と冷静になれば分かるのだが、翔太は今まで『頼られた』経験がなく、喜びすら覚えてしまった。
これは緊急事態だ。
放っておく訳にはいかない!!!
「……分かった。俺で役に立つなら、やるよ!」
「ありがとう~♡ああ、やっぱり私見る目あるな♡嬉しいっ」
マナが上半身を揺らすたび、その豊かな胸元もぽいんぽいん動く。
……いやいや、違うぞ。
決して下心がある訳じゃない。
これはあくまで、人助けなのだ。
誤解しないでね、小春さん!!!
翔太が伸びそうになる鼻の下を、懸命に元に戻そうとしていると。
「うっす!お待たせー翔太……、……」
ようやく凌が現れ、マナと顔を合わせた。
次の瞬間、彼女は勢いよく席を立ち、
「翔太くん、詳しいことはまた今度ね。じゃあっ」
足早にその場を去って行った。
相変わらず嵐のような人だ。
華奢な後ろ姿に見惚れていたら、凌にデコピンを見舞われた。
「いって!!!」
「何ぼんやりしてんだよ、童貞浮気ヤロー」
「は!?浮気なんてしてねぇし!」
否定はしたものの、声が上擦り説得力は皆無だ。
凌は冷ややかな目線をこちらに注いでいた。
翔太はウッと怖じ気付き、
「マジで違うんだって。ただ講義が一緒で、話し掛けられただけだから」
「ふぅん。ま、いいけど。……あの女は気をつけた方がいいと思う」
凌の忠告に、キョトンと首を傾げる。
「何、知り合い?」
「じゃねーけど。とにかく、近付かない方がいい」
と言われても。
困っている女の子を見捨てるなど、男が廃る。
翔太は曖昧に笑って誤魔化し、マナとのやり取りは黙っておくことにした。
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