第十二話 男の中の男に、俺はなる!
例の悲劇、もといデートから数日後。
ついに翔太がバイトに出勤する日がやって来た。
それまでに幾度か小春にLINEしようかと悩んだが、文字では上手く伝えられそうになく、止めておくことにした。
いつもの数倍緊張しつつ、店の暖簾をくぐる。
「お、おはようございまーす」
そこには早速、店内の清掃をする小春の姿があった。
普段どおりのノーメイクで、Tシャツにジーンズ、その上にシンプルなエプロンという出で立ち。
あ、やっぱりこの方が、全然いいじゃん。
単純だが少し、ドキリとした。
彼女はあからさまに動揺を露にし、
「あ、お、おはよ……」
「あ、あ、あの、その、こないだは……」
「ああ~!いいのいいの。うん、もう気にしないで。付き合わせてごめんねっ」
へ??
小春さんの中で、もうなかったことになってる……??
今度はこちらから誘おう、と意気込んでいた翔太は、拍子抜けした。
それからも彼女はやけに余所余所しく、必要最低限の会話以外はしようとしない。
ぎこちない空気を察したらしい哲二が、
「何かあったのか?」
と声を掛けてきたくらいだ。
翔太は曖昧に笑みを浮かべ、言葉を濁すしかなかった。
そうこうしている内に閉店になり、お互い黙々と片付けに取り掛かる。
……どうしよう。
このままなかったことになるのか。
するのか。
それでいいのか。
確かに小春さんはロリ巨乳の真逆だけど、けれど。
不意に、告白してくれた小春の顔を思い起こし、手が止まる。
『好きです!!!』
自分のことで、いっぱいいっぱいで。
小春の気持ちを汲み取ってやれなかった。
あの時。
どれ程の勇気を振り絞ったのだろう。
今度は……俺の番だ。
「あの!!!」
力みすぎて、何だか怒ったような声になってしまった。
小春は瞬きを繰り返し、呆然としてこちらを見遣る。
手に持っている布巾を、強く握り締めていた。
翔太は真正面から彼女と向き合い、
「こ、これから、もう一回デートして下さいっ!」
「へ!!??」
「その、こないだはお互い、ちょっと気張ってたっつーか……普段どおりの、そのままの小春さんと、デートしたいっす!お願いします!!」
直角になる程頭を下げ、手を差し出す。
暫しの間訪れる静寂に、翔太は焦った。
あ、これやっちまった??
逃げ出した男に、もう興味はない??
ぐるぐると、思考を巡らしている所へ。
掌に柔らかい感触と、温もりを感じた。
「……よろしく、お願いします……」
頬を朱に染め、俯きながらそう応える小春を、翔太はお世辞抜きで可愛いと思った。
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