第一話 俺はロリ巨乳をゲットしてみせる!
何処までも晴れ渡る青い空、作り物のような白い雲。
周りはカップルや家族連れで溢れ、皆一様に笑顔を見せている。
幸せそうだ。
実に、幸せそうだ。
なのにー。
「ごめん。別れよう」
カラン。
絶妙なタイミングで、眼前にあるメロンソーダの氷が、乾いた音を立てた。
それを渡 翔太は呆然と見据え、ぐるぐると、働かない頭で必死に考えを巡らす。
『彼女』は気まずそうに、目線を宙に彷徨わせていた。
待て待て。ちょっと待て。
う、嘘だろ!?
だって今日こそはーキスをするつもりだったのだ。
付き合い始めて約1ヶ月、三回目のデート、しかも場所は大人気の遊園地。
最高のシチュエーション、のはずだったのに。
何だ、何がいけなかった!?
口元やおっぱ……いや胸を見すぎたのがいけなかったのか??
もしや彼女には特殊能力があって、エロい妄想が駄々漏れだった??
とにもかくにも、思い描いていた輝かしい未来が、音を立てて崩れていくのが分かった。
「な、何で……俺、何かした……??」
「ううん!翔太くんは悪くないよ!そりゃちょっと顔が可愛すぎるとか、身長が小さいとか、性格が子供とかあるけど……」
グサアアア!!!
漫画だったら鋭い刃が心臓に突き刺さる描写が施されるであろう。
HPが一気に0まで減るのを感じる。
女って怖い生き物だ、と齢17にして思い知る。
こんな台詞を平然と吐けるのだから。
翔太は胸の痛みを堪え、息も絶え絶えに続けた。
「じゃ、じゃあ……な、何……」
「……本当に……本当に言いにくいんだけど……」
彼女は頬を朱に染め、実に愛らしい声で、言った。
「お兄さん、紹介してくれない?家に遊びに行った時……好きになっちゃったの」
ピピピ、ピピピ。
無機質な電子音が鳴り響き、翔太は目を覚ました。
……またあの時の夢だ。
まさしく悪夢。
約3年前、高校3年生の時、漸く初めて出来た彼女ー童顔で巨乳という、最強のスペックだったーとの間に起こった悲劇。
未だにこうして魘される程、強い衝撃を受けたのだ。
当然だと思う。
何せ思春期真っ只中に、うふんあはんしようとしていた相手を、まさかの兄に奪われたのだから。
いや正確に言えば、完全なる彼女の片想いで、呆気なく振られたようだが。
「くっそー……次こそは決めてやる!!」
翔太はベッドの上でガッツポーズを決め、勢いよく飛び起きた。
改めて紹介しよう。
渡 翔太、20歳。元気とポジティブが取り柄の、ちょっと阿呆な大学三回生(失礼)。
小動物を彷彿させる愛らしい顔立ち、160センチのやや小さめの身長、男性にしては甲高い声ーがコンプレックスで、せめて筋肉をつけたいと、勉強以上に筋トレに励んでいる(やっぱりちょっと阿呆)。
今は彼女はいないが、気になっている同級生がいる。
案の定、と言うべきか、童顔で巨乳である。
今日はその子と大学のカフェでお茶をする予定だ。
「気合い入れてかないとな。よっしゃ!」
自身を鼓舞しつつ、リビングへと向かった。
そこには。
「おはよう、翔太♡」
我が天敵、兄の渡 拓真が、憎たらしいまでに爽やかな笑顔で、オムレツを焼いていた。
彼は30歳、独身。翔太とは似ても似つかない精悍な、整った顔立ちに、逞しい、程よく筋肉のついた肢体。更には艶やかな低い声、極め付きはー身長が185センチもある。
仕事は売れっ子のカメラマン。
性格はとにかく優しく穏やかで、声を荒げた姿を見たことがない。
もうお分かりだろう。
これでモテないはずがないのだ。
唯一の欠点は。
「オムレツ、ベーコンとチーズ入れたよ。パンもほら、前食べたいって言ってた高級食パン。あと、翔太が喜ぶと思って、デザートに苺買ってるから。今夜は焼き肉とかどう?奮発しちゃうぞ~」
超がつくブラコン、なのである。
年齢が離れている上に、両親が海外赴任で不在の為、二人暮らしを余儀なくされて。
おかげでブラコンに拍車がかかっている。
だがそれがまた、翔太を苛立たせた。
「朝からそんなに食べれないって言ってんじゃん。夕飯も、今日はバイトで賄い食べるから」
つい、つっけんどんな口調になる。
……内心は勿論、感謝している。
仕事を精力的に熟しつつ、家事も全て請け負ってくれて。
しかも学費まで援助してくれているのだ。
本来なら、優しい言葉を掛けるべきなのだが。
「えぇ~寂しいなぁ……最近、全然家で食べてくれない……寂しい……」
お前は新妻か何かか?
いつか裸エプロンで迎えるつもりか??
あからさまに悄然とするその様に、更に苛立ちが増し、眉間に皺を寄せた。
「仕方ないだろ、仕事なんだから。……いただきます」
素直になれない自分に辟易しながら、オムレツを頬張った。
うん、やっぱりんまい。
悔しいが、料理の腕前も天下一品である。
そりゃモテるに決まっている。
何故未だに独身を貫いているのか、周囲が訝しがるのも当然だ。
しかし、俺は知っていた。
カシャッ。
いつの間にかカメラのレンズに捉えられ、思わず顔を顰めた。
「何してんだよ」
「朝ごはん食べてる翔太、可愛いなって♡次はさ、こう食パンをかじってくれる?」
これだよ、これ。
このブラコンぶりがネックになり、破局に至ることが多いらしい。
こちらとしても弟離れしてほしいのは山々だが、どんなに冷たくあしらおうと、一向に愛想を尽かせる気配がない。
翔太は拓真の言葉を無視し、勢いよく朝食を平らげ、
「ごっそうさん!行ってきます!!」
一切振り返ることなく、大股でリビングを後にする。
背後からやたら色香のある、甘ったるい声で、
「心配だから、遅くなるなら連絡して~」
いや俺は女子高生かっつーの。
だいたい親でもない癖に、干渉し過ぎなんだよ。
なんて台詞を寸でで飲み込み、肩を竦めて大学へと向かった。
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