My forte.(わたしの得意なこと)
「ただいま~」
部屋に誰もいなくても元気なあいさつ。
「おかえりなさい」
陽菜ちゃんに続いてわたしもあいさつして部屋に入る。
緒方さんは、じゃあ二時間後~と慣れたもので校門を出たところで別れた。
「ふう~」
バッグを置くと陽菜ちゃんは長い息をつく。
「さすがに疲れたんじゃないですか?」
「疲れたというか、気が抜けちゃったかな」
「うん、ご苦労様でした」
「今日の試合は途中から文ちゃんのおかげ。最終セットが一番力出た♪」
わたしのおかげなんてことはあり得ないけど、二時間半過ぎてからのスタミナにはあの場のみんなが驚いてた。
「でもごめんね。せっかくきれいに作ってくれたのにあんな風にボリボリかじっちゃって――」
「ううん! 最高の食べ方でした!!」
思わず大きな声が出た。
作ったものを目の前であんなおいしそうに完食してくれた上に、それが力になっただなんて言ってくれる。こんなにうれしい食べてもらい方なんてない!
「そっか」
陽菜ちゃんは笑う。
「今日は陽菜ちゃんの試合が見られてほんとによかった」
「かっこよかった?」
わたしは大きくうなずく。
「こんなにかっこいい子がわたしの恋人でいいのかなって」
「あはは。なにそれ」
陽菜ちゃんはまた笑う。
「でも、陽菜ちゃんと自分を比べてちょっとへこんじゃいました」
「どうして?」
「バルコニー全員陽菜ちゃんの応援でしたよ?」
「あはは。みんな来てくれてたね」
「落ち込んでた加嶋さんも助けてあげて……」
「え、え、なに? やきもち!?」
慌てる陽菜ちゃん。
「違う違う! そういうのじゃなくって!」
慌てるわたし。
「ほんとに頼もしくてやさしいなって。礼ちゃんのことも思い出しちゃって」
「頑張ってる人は応援したい。加嶋さんも、礼くんも」
「陽菜ちゃん、いいお姉ちゃんになってくれそう」
「末っ子だからなぁ、どうだろう」
はにかむ陽菜ちゃん。
礼ちゃんもきっと陽菜ちゃんを好きになる。次うちに来てもらうときにはぜひ会わせたい。
「お父さん、お母さん、礼くんにもお祝いしてもらわないとね」
はぁ、好き。
「陽菜ちゃんは、ほんとにわたしが恋人でいいですか?」
「…………」
冗談めかして言ったつもりだったけど陽菜ちゃんは真剣な目でこちらを見ている。
しまった。幸せ余って、重いことを言ってしまった。
「あ、あのごめんなさ――」
「待って!」
慌てて釈明しようとするわたしを遮って陽菜ちゃんはリビングへと駆け出す。そして自分の引き出しを開けて何か取り出して戻ってきた。
「はい」
陽菜ちゃんから差し出されたのは――
「これは……アルバム?」
「ホワイトデーのおかえし。いろいろ考えたんだけど結局自分の得意なものにした!」
得意なもの……アルバムだしやっぱり写真かな。
「見ても?」
「もちろん!」
パラ……
「わ……」
わたしの写真だ、全部。
「いつの間に撮ってたんですか?」
「隠し撮りするつもりじゃなかったんだけど、文ちゃんカメラを向けると固くなるから」
「あはは……」
否定できない。
ページをめくるたびにいろんなわたしがいた。
「真面目な文ちゃん」
授業を受けているわたし。
「ちっちゃな子の目の高さに降りてケーキを一緒に選んであげてるやさしい文ちゃん」
お店で接客をしているわたし。
「お料理中。いつもおいしいごはんをありがとう」
キッチンに立つわたし。つまみ食いしてるわたし……
「これは味見をしてくれてるんだよね♪」
陽菜ちゃんは写真一枚一枚ごとにわたしのよいところを挙げてくれる。
「陽菜ちゃんの写真が上手だから……」
「あのね。あたしいちばん得意なのはバレーでも写真でもないんだ」
「え?」
「文ちゃんのいいとこ探し」
「はうっ!?」
心臓を止められる前にわたしは慌てて次のページへ逃げる。
「あ……」
「チャペルでオルガンを弾いてる文ちゃん」
「やっぱりあのときの?」
「うん」
ページをめくると背中のホックが外れて慌ててるわたしがいた。
「あ、写真部に暗室借りて現像したからあたし以外見てないからね」
「そ、そっか」
写真のあとのことを思い出すと、今でも――
「あ、文ちゃん、顔が赤いよ」
「そんなの、陽菜ちゃんだって!」
わたしは照れ隠しに陽菜ちゃんの頬を両手でぎゅっと包む。
「文ちゃん?」
「はい」
「こんなにかわいい子があたしの恋人でいいの?」
にっ、と歯を見せる陽菜ちゃん。
「陽菜ちゃ――」
名前を呼び終わるよりも早く思わずキスをしてしまった。
わたし……キス魔だな。
「ふ、文ちゃ――?」
ドサ。
ふたりはベッドに倒れ落ちる。