Before the game.(試合前の前)
今日の午前の校門近く。陽菜ちゃん緒方さんと体育館へ向かっていたときだ。
「加嶋さ~ん!」
大きなバッグを提げて前を行く女の子に気づいた陽菜ちゃんが声をかけた。
「あ、夏目さん」
バッグの女の子……加嶋さんが振り返った。
「お、恵体」
170近い緒方さんよりさらに高い。
「バッグひとつ持とうか?」
「ありがとう、大丈夫だよ。あ……」
加嶋さんがわたしたちに気付く。
「ルームメイトの文ちゃんと倫。今日は応援に来てくれたんだ」
「あ、どうも」
大きな加嶋さんが小さくなってぺこりと会釈を返す。
「バレー部の方ですよね」
「あ、はい」
「加嶋さんはね、あたしと同じ一年生」
「そうなんですね。今日は頑張ってくださいね」
「あ、わ、わたしは補欠なので――」
「未来のエースだから!」
陽菜ちゃんが割り込む。
「そ、そんなことない。わたしなんかより夏目さんが――」
わたわたと両手を振って否定する加嶋さん。
「今日はきっと勝つよ! 頑張ろう、加嶋さん!」
小さくなるばかりの加嶋さんの背中をパンと叩くと、陽菜ちゃんは彼女のバッグを奪って体育館へと駆け出す。
「あ……うん」
一瞬あっけにとられた加嶋さんもすぐにそのあとを追いかけていく。
と、見送る緒方さんとわたし。
「なんという陽キャ。目がつぶれる」
「…………」